第21話 それは買い物かデートか、どちらにしても神引き
シンが入手した【嫉妬の魔猫】がフランスへ送られている間も変わらない日々が続いたが変わった事もあった。
それは周囲からの目である。
「鴻上君の契約モンスター見せてくれない?」
「あぁ。いいけど」
魔王杯から既に一週間が経過しているにも関わらずシンは未だにネット上で話題になり、学校でも有名人のままだった。
今日もまた別のクラスの女子がシンの元を訪れて来ている。
実際のカードはプレゼントされたデッキケースに入れ、自宅に保管しているがデータだけならアプリで管理できる為、それを見せる日々が続いた。
「これが【魅惑の小悪魔】の兎ね。私の兎とは全然違う。実は私も兎と契約しているの」
女生徒のスマートフォンの中では兎が跳ねていた。
しかし、その兎はシンの契約している兎と異なり、一本の黒い角を持つ黄色い体躯の獣だった。
「【贈呈の小動物】って名前のカードなんだけど、そんなに強くはないと思うんだよね」
「そうなんだ。バトルはしないの?」
「興味ないなー。この子が可愛いから契約しただけで進化させるつもりも戦わせるつもりもない。だって可愛そうじゃん?」
「…そうだね。俺もそう思うよ」
「でも戦うの?」
「うん。なるべくこいつを傷付けないで勝ちたい」
「流石、チャンピオンは違うね。ありがとう。じゃね」
愛想笑いで手を振るシンを見つめる亜梨乃は女生徒が立ち去ると見計らったように前の席に腰掛けた。
「鼻の下、伸びてる」
「伸びてないだろ。今の人、誰? 兎のカードを持ってたけど、カテゴリー違いだな」
「ヤバっ! もっと人に興味を持った方が良いよ。四組の岩佐さんだよ」
「へー。初めて喋った。麻々乃は?」
「調べ物だってー」
ここ数日、シンは学校内外を問わずにバトルを持ち掛けられる事が多くなり、普段からカードを持ち歩かなくなった。
好奇な瞳を向けられる事もあるし、からかわれる事もあるが、特にいじめられる事はなく、いつの間にかメディア関係者も居なくなった。
人の噂は七十五日というが、そんなに時間をかけずとも人の関心は薄れていく物なのだと思いつつ下駄箱に向うと亜梨乃が待っていた。
いつもは麻々乃と一緒に行動する事が多い彼女だが今日は珍しく一人だった。
「おー。どうした一人か?」
「おー。君も一人じゃないか」
「リョウはバイトに行った」
「麻々乃は先に帰った」
「じゃあ、一緒に帰るか?」
「そうしよっか」
二人だけで通学路を歩くのは初めてだった。
学校での出来事や期末試験やシエルカードと話題は尽きる事なく、異性だが気兼ねなく話せるのがシンと亜梨乃の関係性だった。
別々の方向に帰る十字路に着いたのに足を止めた亜梨乃に怪訝な顔を向ける。
「どうした? 帰らないのか?」
「あのさ……。買い物に付き合って貰っても良いかな?」
「なんだよ。そんな事、良いに決まってるだろ。どこに行くんだ?」
「……ありがと。えっと、そうだなー。あー、うん。ショッピングモール行こ」
二人は大型ショッピングモールでウインドウショッピングを楽しみ、ファストフード店で休憩するという学生らしいひと時を過ごした。
「決めた! シエルカードを買う」
「はぁ!? 要らないだろ」
「今日なら進化ラインを手に入れられる気がする!」
亜梨乃に連れられ、ショッピングモール内のこぢんまりとしたカードショップへ向かうと案の定、人だかりが出来てしまった。
余計な詮索をされる事を恐れ、嫌な顔をするシンは他の客達を適当にあしらいながら亜梨乃の買い物を待った。
「お兄さんはカガリと戦いたいと思う?」
「カガリ?」
「えぇ!? シエルカードをやってて、カガリを知らないの!?」
「そんな奴が優勝出来るなんてなー」
「カガリは日本最強のシエルカードプレイヤーだよ。ランク急まで進化させたモンスターを操り、頂点に君臨する男だ」
「"九尾"のカガリ。めっちゃ有名だから覚えておいた方が良いぞ」
「魔王杯にカガリが出なかったから、お前は優勝出来たんだよ」
別のカードゲームを楽しんでいた一団に捕まったシンは新たな情報を得た。
それは日本チャンピオンの存在。
しかし、シンの目的は【魅惑の小悪魔】を進化させる事であってチャンピオンになる事ではない。
カガリという選手については特に気に止める必要もないだろうと結論付けた。
そうこうしていると悩みに悩み抜いた亜梨乃が一つのパックを選び、なけなしの小遣いで購入した。
この高額パックを開封する時の緊張感が堪らないと言う人も居るが、それは金を稼げる大人の特権だ。
彼女にとってはパックを購入する事すらも勇気のいる事だった。
「あ、開けるよ」
隣で見守るシンにもその緊張感が伝わってくる。
じっとりと手汗が感じながら眺めていると亜梨乃の細い指が開かれたパックの中へ進み、一枚のカードを摘んだ。
ゆっくりと引き上げられるカードは少しずつ顔を出し、カード名が見え始める。
「…あっ」
「え、え、は、え、えぇぇ!?」
小さく呟いた亜梨乃は目を輝かせながらシンを見上げる。
シンは亜梨乃が引き当てたカード名を見て、腰を抜かす程の衝撃を味わった。
そのカード名とはランク破【干天の幻獣】。正真正銘【干天の小動物】の進化先のカードだったのだ。
「今日はありがとねっ! 波に乗ってるシン君と一緒だと私の運気も上がるのかな」
「にしても、凄い確率を引き当てたな」
「麻々乃に見せなきゃ。これで私達はもっと強くなれるかも!」
「良かったな、亜梨乃」
「ねぇ…。また、一緒に出かけてくれる?」
「勿論。次はあいつらも誘って行こう」
「……そういう事じゃないだよなー」
「え? 何?」
「何でも無いよっ!じゃあねー!」
何種類あるか分からないシエルカードの中から自分のカードの進化先を自引きする奇跡を目の当たりにして興奮していたシンは亜梨乃の好意に気付かなかった。
いや、彼は興奮していなくても好意には気付かないだろう。
彼とはそういう人物なのだ。
【贈呈の小動物】
ランク:序
カテゴリー:mythical
モチーフ:幻獣 アルミラージ
効果:不明
契約者:同学年 岩佐さん




