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第19話 祭りの後の静けさは来ない

 大会後、運営が配車したタクシーに乗り込み、帰宅したシンは母と顔を合わせずに自室のベッドに倒れ込んだ。



「疲れた。明日から大丈夫かな?」



 スマートフォンを取り出し、アプリを起動すると画面の中では兎が元気に飛び跳ねていた。



「お疲れ。お前のお陰で勝てたよ」



 届く筈のない言葉をかけながらシンは画面をスクロールし『食事』を与えた。

 器用に前足を使い、美味しそうに餌を食べるデータ上の兎に癒されつつ、シンは眠りにつく。



 翌朝。

 朝風呂から上がると母と鉢合わせた。



「おはよう。昨日は凄かったわね。おめでとう」

「ありがとう」

「学校は行けそう?」

「うん。大丈夫だよ」



 短い会話を終え、いつも通りに学校へ向いたかった。

 しかし、どの通学路にもメディア関係者と思われる人達が居てまともに進めない。

 いっその事、学校をサボろうかと考えた時、通り過ぎた筈の車が止まった。



「乗りたまえ」

「金田!?」



 高級外車から顔を出した級友に誘われるままに車内へ乗り込んだシンは安堵の息を漏らした。



「助かったよ、ありがとう」

「一躍時の人になってしまったね。でも、まさか君が魔王杯に出場していたとは思わなかったし、優勝するとも思ってなかったよ」

「だよな。俺も優勝は出来すぎていると思ってるよ」

「ずっとテレビに張り付いていたけど、昨日のバトルは素晴らしかった。おめでとう」

「ありがとう。でも俺は運が良かったんだと思う。反対のブロックだったら結果は違ったかもしれない」

「だとしても君はチャンピオンだ」



 照れ隠しに窓から過ぎ去る景色を眺めていると、思い出したかのように大げさな「あっ」という事が隣から聞こえた。



「あんな事を生中継で言ってしまって大丈夫だったのかい?」

「……あぁ。あれを言わないと勝てなかったからな。仕方ないと割り切った」

「なるほどね。君は運が悪かったのかもしれないね」

「さぁ、どうかな」

「今日は君の話題で持ちきりだろうね。クラスの、というよりも学校のヒーローじゃないか。童貞だけど」

「うっさい。一言余計なんだよ」



 運転手に礼の述べ、校舎に入ったシンはギョッとした。

 先輩、同級生、後輩がごった返し、一瞬にしてシンの周りには人集りが出来た。

 適当にあしらいながら、金田と共に教室へ逃げ込んだが場所が変わっても境遇は変わらなかった。



「おぉ! 昨日はヤバかったな」

「めっちゃ、格好良かったよ。特に二回戦が」

「優勝者二人ってあんなの有りかよ」

「で、何のカードを貰ったの。見せて見せて!」

「ミンと写真撮った!?」



 怒濤の質問攻めに答えていると教室の扉が開かれ、一人の教師が顔を出した。

 担任教師は人集りの中心人物であるシンに手招きする。



鴻上こうがみ、ちょっと来い」



 教室は静まり返り、シンは荷物を置いて担任について行った。

 鴻上とはシンの名字である。



 職員室に入ると教師達が待ち構えており、シンは背筋を伸ばした。

 話というのは性事情を全世界に放送されてしまい、精神状態は如何ほどのものかという確認と、いじめられたら早く言えという注意喚起だった。

 現状、特に苦に感じていないシンは適当に返事をして教室へと戻ったのだが、その道中でも多くの生徒達に話しかけられた。



「帰ろーぜー、シン」

「私達も一緒にカードショップ行きたい!」



 放課後、帰宅準備中のシンの元に麻々乃を引き連れた亜梨乃が駆けて来た。

 確かにカードショップに顔を出すつもりだった為、快諾して四人で教室を後にする。

 まだ教室内に残っていた金田を見つけたシンは手を振り、再度、朝のお礼をしておいた。



「面白い記事がある」



 麻々乃のタブレットにはネットニュースが開かれていた。

 『シエルカードゲーム公式大会、魔王杯の覇者は高級外車で登校!!』

 見事に乗車シーンと降車シーンをすっぱ抜かれているシンの写真と共に記事が掲載されていた。

 仰々しく溜め息を吐いたシンは三人に慰められながら、馴染みのカードショップへ向うのだった。

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