第17話 本戦-決勝戦
『さぁ、泣いても笑ってもこれが最後の戦いだ! 第一回魔王杯の優勝賞品はどちらの手に渡るのかーッ!?』
大歓声の中、二人の選手が入場する。
『開催国日本より参戦。噂の悪魔使い、シン選手! そして芸術の国フランスより参戦。Aimee選手! 両者、同時にバトルフィールドへ入場っと、おぉと、Aimee選手がシン選手へ歩みを進めます』
実況者の声を聞く限りこれは演出では無いようだった。
しかし、スタジアム上には彼ら二人しかおらず、止める者は居ない。
『握手です。Aimee選手はシン選手に握手を求めています。素晴らしいスポーツマンシップです!』
左手を差し出され、それに応えるように左手を出したシン。
チラリと腕へと視線を向けたAimeeは握手を終えると自分の立ち位置へと戻った。
無意識に手を差し出したが後になって、何故、シエルデヴァイスを装着している左手で握手しているのか疑問が浮かび上がった。
『会場にお越しの皆様、テレビの前でご覧の皆様、お待たせ致しました! それでは決勝戦ッ! バトルスタート!』
「「侵略」」
互いのカードをディスクにセットし、ホログラムの兎と狼が現れた。
「俺は【魅惑の小悪魔】で攻撃!」
ビシッと指を差しながら命令するシンの姿は初戦とは比較にならない程、勇ましかった。
「良いよ、受けて」
彼女の狼は一歩も動かず、毒の尻尾を受け入れた。
これまで伏せがちだった顔を上げ、キャスケットの隙間から覗かせた蒼い瞳のAimeeは懐から二枚目のカードを取り出す。
「ランクアップ・エヴォリューション」
中性的な声で唱えられる祝詞に反応したシエルデヴァイスが光を放ち、狼は繭に包まれた。
中から生まれ出る新たなモンスター。より凶悪な相貌の漆黒の狼が吠える。
「【導きの御子神】へ進化。君のターンだよ」
慣れた手つきでバトルを進める敵に見惚れていたシンは大きく息を吸い、次なる命令を下した。
「【魅惑の小悪魔】で【導きの御子神】を攻撃!」
二撃目の攻撃と追加の毒ダメージを受けても漆黒の狼が怯む様子は無い。
「【導きの御子神】で【魅惑の小悪魔】を攻撃」
小さな体で威嚇する兎への攻撃は余りにも強力だった。
シンのシエルデヴァイスが震え、多大なダメージを受けた事を知らせる。
「っく。これまでの奴らと違う」
「君のターンだよ」
余裕綽々のAimeeが憎たらしい。
このまま殴り合いを続けても勝負は見えていた。
何か活路を見出せないかと思考を巡らせるが目の前の敵はあまりにも強大過ぎた。
シエルデヴァイスに表示されるコマンド待機の数字はどんどん少なくなっていく。
負けを覚悟した時、ピコンと小さな電子音が鳴り、文字が表示された。
《この勝負、引き分けにしない?》
咄嗟に顔を上げるとモンスターを挟んだ向かい側にいるAimeeがシエルデヴァイスを口元に近づけていた。
更にピコンと電子音が鳴る。
《君は賞品カードが欲しい。わたしも賞品カードが欲しい。悪くない取引だと思うけど、どうかな?》
よく見るとシエルデヴァイスには小さな穴が数個空いており、それがマイクだと気付いた。
自分達の取引が気付かれない事を願いつつ、シンは返答した。
一度天井を仰ぎ、長めに息を吐き出す。
『おっと、シン選手。万策尽きたか!?』
そんな実況を聞きながら、シンは目の前の敵へと視線を戻した。
その瞳は熱を帯び、あからさまに先程までとは雰囲気が異なる。
「俺は【魅惑の小悪魔】で攻撃ッ!」
「良いね、楽しいよ。……ごめんね。ちょっと痛いけど、我慢してね」
毒の尻尾を受けた狼はやはり怯まない。
しかし、ターン終了時に発生する毒ダメージは蓄積されており、確実に体力は削られているのだ。
それを表わすように狼の体は紫色に変色し、その範囲を拡大している。
「【導きの御子神】で攻撃ッ!」
Aimeeもシンに触発されたかのように瞳を輝かせ、モンスターに命令を下す。
その声はこれまでよりも高く、聞き取りやすい伸びやかな声だった。
そして、次のシンのターン。
シエルデヴァイスに目を落とし、狼の残り体力を確認したAimeeは勝負に出た。
「【導きの御子神】の効果発動」
Aimeeの宣言の後にシンのターンが終了し、毒ダメージを受けた【導きの御子神】の体力が全て奪われ、ホログラムが消滅した。
『優勝はシン選し…ちょっ、ちょっとお待ち下さい! シン選手の【魅惑の小悪魔】も同時に消滅しましたよ!!』
【魅惑の小悪魔】と【導きの御子神】は同時に消え去り、大スクリーンには『draw』の文字がデカデカと浮かび上がった。
「お疲れ様、良いバトルだったね」
「良い演出家になれるんじゃないか?」
「ありがとう。君も良い役者になれると思うな」
二人が再び握手し、目論見通りの結末を讃えていると観客達の拍手が一斉に鳴り止んだ。
「おめでとう、二人共。第一回魔王杯の優勝者はシン選手とAimee選手の両名とします!」
真っ先に二人が立つスタジアムの中心に向かって行ったのは鷺ノ宮エンタープライズ代表取締役社長、鷺ノ宮 朝陽だった。
彼の一言によりルールは捻じ曲げられ、より一層の歓声と拍手が二人に送られながら、決勝戦は幕を閉じたのだった。




