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第13話 本戦-1回戦

 音声入力に反応したシエルデヴァイスが起動し、内蔵されているディスクが飛び出した。

 左腕を胸の前に出し、カードを置くべき窪みを確認すると【魅惑の小悪魔】を丁寧にセットする。

 カチッとカードが嵌まるとディスク全体が有機的に光り、投影された兎が目の前に現れた。

 実物の兎よりも大きく、シンの膝のあたりまである体躯を震わせている。

 兎特有の両前足で耳をかく仕草がなんとも愛らしい、一方でその大きさでやられると一種の恐怖心も募らせた。

 そんな無礼な事を考えるシンの心を読んだかのように兎は立ち上がり、振り向いた。

 シンの視線と【魅惑の小悪魔】の視線がぶつかり、数秒の時間が経過する。



 対して、前方に立つ青年は大袈裟な動きで足を開き、左腕を胸の前に構えた。

 息を吸い込み、カードを持つ右手を天井へと掲げ、勢い良く振り下ろす。

 指先から離れたカードはシエルデヴァイスの窪みに叩きつけられ、バチンと音を立てるとディスク全体が有機的に光った。



「俺は【飛翼ひよく小動物しょうどうぶつ】を召喚っ!」



 シエルデヴァイスから投影されたモンスターが咆哮を上げる。

 それはドラゴンの頭、コウモリの翼、ワシの脚、ヘビの尾を持つ竜――ワイバーンであり、シンと純白黒尾の兎を威嚇し続けている。



 両者の間には埋める事の出来ない熱量の差があり、シンが引いている様子は観客席からでも容易に察する事が出来た。

 シエルデヴァイスに目を向けると『your turn』と表示されており、音声コマンド入力の待機画面となっていた。

 更に催促するように六十秒から時間が減っていく。



「俺から? 俺は【魅わ】っと。モンスターで攻撃」



 長い耳をピクッと動かした兎はワイバーンへと走っていき、太い足首に噛み付いた。



「……ッ!?」



 その愛らしい攻撃を見て、観客と実況者には笑みが浮かんでいたが命令を下したシン、観客席に座るリョウ、亜梨乃、麻々乃はその行動に驚いた。



 実際にバトルを行なっているシンと青年は互いに敵モンスターの体力を確認出来ない。

 シエルデヴァイスに表示されるのは自分のモンスター情報だけだ。

 観客席も同様で実際に生のバトルを見ている者達には戦況を数字としては読み取れない。

 しかし、大スクリーン越しに或いはテレビ越しに見ている者達には公式が用意した体力ゲージが映し出されている。



「【飛翼の小動物】で敵モンスターを攻撃ッ!」



 足首に噛み付いたままの兎が蹴り飛ばされ、シンの足元へと転がった。

 痛々しく小さく鳴いた兎を抱き寄せようとしたが、それはホログラムであり何度やっても掴む事は出来ない。



「ッ……ごめん」



 顔を上げたシンの瞳には先程まで無かった闘志が宿っていた。

 彼からは静かな怒りが漂い、やがて観客にも伝わった。



「俺は【魅惑の小悪魔】で【飛翼の小動物】を攻撃ッ!」



 先程、シンは自身の契約モンスターと相手のモンスターの力量を測りたいと思いながらコマンド入力を行っていた。

 その思いはシンにしか分からない筈だ。

 しかし【魅惑の小悪魔】は彼の意図を汲んだかのように毒の尻尾を使わずに攻撃し、返り討ちにあった。



 降り掛かる罪悪感は一人と一匹の目を醒し、本来の戦い方で敵を蹂躙する為に立ち上がった。

 シンの音声入力を受け、シエルデヴァイスは自動的にマスクネーム機能を解除し、全世界中に彼の契約カード名が公開された。



 兎が腰を振った事で黒い尻尾が解き放たれ、鋭い毒針となってワイバーンの胸に突き刺さった。

 尻尾を元の位置に戻し、土を払うように前足を勢いよく振る【魅惑の小悪魔】と視線がぶつかり合い、心が通っている事を再確認する。

 ワイバーンの身悶え方はやけにリアルでホログラムとはいえ、観客達にも痛々しさが伝わった。



『ちょっ、ちょっと、少々お待ち下さいっ! まさか、これはっ!?』



 実況者の動揺は観客、テレビ視聴者にも伝わり、暫くの間は異様な空気感だった。



『公式から情報がありました。シン選手が七枚之悪魔デモン・オブ・セッテの契約者で悪魔のカードは"スキル"持ちだぁ!』



 続報を聞き、会場が湧き上がる。

 しかし、今のシンにはその歓声すらも耳に入らない程、目の前の敵に集中していた。



「お、おのれ。毒状態がなんだ!? 羽ばたけ【飛翼の小動物】。進化だッ!」

「進化!?」



 シンの驚きを掻き消すように実況者の声が会場に響いた。



『オリヴァー選手、ここで進化宣言! これで勝負は分からなくなりそうだ!』



 青年がズボンのポケットから取り出した二枚目のカードを振り上げ、シエルデヴァイスにセットされたランク序のカードの上に重ね合わせた。

 ディスク全体が輝き、同時にホログラムの【飛翼の小動物】が繭に包まれた。

 光を放つ繭が開くと、巨大化し凶暴性の増したワイバーンが姿を現わした。

 【飛翼の小動物】は姿のみならず【飛翼ひよく幻獣げんじゅう】と名称を変え、雄叫びを上げる。



「怯むな。もう一度、攻撃だ!」



 兎の尻尾がワイバーンの腕に刺さると、その周囲は毒々しい色に変色し体力を大幅に削った。



「くっ! 【飛翼の幻獣】で攻撃!」



 その後も攻撃を繰り返したが先に力尽きたのはワイバーンだった。

 シンの兎は攻撃を躱し続け、毒のダメージで残りの体力を削りきった事で勝敗が決した。



 試合後、握手を交わし互いの契約カードを讃えて爽やかに勝負を終えた。

 他のブロックでもバトルは決着しており、ベストエイトとなる選手が出揃っていた。

 シンは敗退するまでリョウ達と接触出来ない為、次の相手の情報を得られないまま休憩を終え、二回戦に挑むことになる。

【飛翼の小動物】→【飛翼の幻獣】

ランク:序→破

カテゴリー:mythicalミシカル

モチーフ:幻獣 ワイバーン

効果:不明

契約者:イギリス人 オリヴァー選手

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