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歌の龍王  作者: 朱鷺田祐介
22/74

【22】ゲグの玉座(承前)

運命の劇場へようこそ

龍の秘密を追う魔道師ザンダルは、奇妙な運命に導かれ、旅立つことになる。


「歌の龍王」は、拙作のダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界を舞台にした幻想物語です。


 赤の海王


嵐に荒れた海も時が過ぎれば

すべてを呑み込み、静かになる。



 船に乗っていた。

 港町ラズーリの領主の娘、アナベルに導かれるまま、領主の所有する交易用の大型帆船に乗り込み、船出したのだ。

「船旅日和ですわ」

 心地よい潮風が船の帆を押す。

 晴れ渡った空には、入道雲一つない。

 それでも、ザンダルは奇妙な胸騒ぎに襲われていた。


 これは見かけにすぎない。


 ザンダルの敏感な感覚は、心地よい海のどこかにアナベルが信奉する深海の邪神ゲグがいて、ザンダルに触れようとしているのに気づいていた。

 《策謀》

 ラヴィオスの長老はそう言っていた。

 ザンダルがスゴンの赤き瞳を持って旅すること、そのものが何らかの《策謀》の一部であるというのだ。確かにそうかもしれない。ラズーリの街に着く直前、ザンダルを訪れた幻視は、海底に封じられた何かの夢だった。おそらくは、海に封じられた魔族。

 ラズーリの館では、手掛かりは得られなかった。

 ゲグなる海の邪神を信仰しようとも、所詮は、魔法使いではない。魔道師学院のような知識の書を蓄えている訳ではない。

 やむを得ぬことだ。

「《策謀》というならば、無碍には殺されまい」

 ザンダルは思っていた。

 我を手駒に使う気ならば、一息で終わるものかと。


 心地よい船旅は午後になって一変した。

 日が傾くにつれ、地平線にもくもくと入道雲が湧き上がり、風のように迫ってきた。船はずいぶんと沖に出ており、もはや、港に戻ることもできそうになかった。心地よい潮風は冷たい雫混じりの突風と化し、海面は泡立つほどの波が立ち、船は激しく揺れた。

「ゲグ様のご加護がある。

 帆を降ろし、嵐に備えよ!」

 アナベルは落ち着いて、船長に指示した。船長もまた、豪気にうなずき、船員たちに帆を降ろすように命じた。それでも帆柱はぎしぎしときしみ、ザンダルは手近な索具に捕まらずにはおられなかった。アナベルは、邪神の加護があるのか、甲板にしかと立ったまま、揺らぎもしない。ドレスが波の雫に濡れ、体にべっとりと張り付いたが、それは豊かな胸のふくらみをあらわにするばかりで、彼女を苦しめている様子はかけらもない。濡れた唇には会心の笑みが浮かんでいる。

「ごらんなさい」

と、アナベルが空を覆う暗雲の一角を指差す。ザンダルが目を向けると、そこに銀の光が見える。ザンダルはぞくりとした。風虎の魔力が荒れ狂い、雷鳴とともにザンダルの耳を撃つ。懐で赤き瞳がどくんと鼓動で答える。


「戦いの時は来た。目覚めよ、我が盟友」


 声が響き渡る。

 嵐がさらに強まり、風が吠える。海面はもはや荒れ狂う波で渦巻いている。

 暗雲からいくつもの稲妻が飛ぶ。

 帆柱の上にも次々と落雷し、甲板の上をいくつもの球電が跳ねた。

 ゲグの加護を信じる船乗りたちも悲鳴を上げ、船室に飛び込んだり、舷側にしがみついたりしている。


「目覚めよ!」


 世界を轟かせる声とともに、雷雲の中から巨大な銀の球体が現れる。城のごとく巨大な銀の宝玉……

 ザンダルは、やっと思い出した。

 これは、《宝玉の大公》。

 風虎座の魔族の重鎮にして、すべての姿を奪われた者。

 地上に近づくことを禁じられ、遥か西方の天空をさすらい、唯一、彼に許された玉座の地を求めているという伝説の存在。

 それがなぜ南海の海に嵐をもたらしているのか?

 ザンダルの問いは、立て続けに放たれた稲妻で答えられた。

 稲妻に乗って、奇妙な七色の光が帆船の甲板に降り立った。それは形のない蜃気楼のような何か。


(飢え?)


 ザンダルの脳裏に激しい渇望が浮かぶ。

 あれは飢えている。

 まさか……

 ザンダルが声を上げる前に、七色の光は船員たちに襲いかかった。まるで輝く煙のように船員の上に漂うと、船員の瞳から緊張と警戒が消え、次にその手から力が抜けた。

 そこで、再び、巨大な波が船を襲った。

 七色の光に襲われた船員たちが波にさらわれて消えた。


(お前たちは使者)


 ザンダルの脳裏に、海底へ沈んでいく船員たちの姿が見えた。

 淡く七色の燐光に包まれながら、海の底へ沈んでいく。

 嵐に泡立つ海面とは裏腹に静かな海の中。

 そして、海底から「それ」はやってくる。

 船よりも巨大で平板な肉体は、エイに近い。


(さあ、目覚めよ、盟友)


 七色の光は船員たちの水死体とともに、巨大な海の邪神に向かって歌う。


(戦いの時は来たのです!)


 そして、ザンダルはアナベルの声を聞いた。

「覚醒の時は来ました。

 さあ、ザンダル殿、ゲグ様との謁見の時です」

 海神の巫女は、ザンダルに口づけした。

 そして、再び、巨大な波が船を襲う。

 竜骨が砕ける音とともに、ザンダルは海に投げ出された。

 一瞬、背後の海面に巨大な三角の影が見えた。



★本作は、朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、現在も継続中(最新64話/2021年春まで)を転載しているものです。


http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/

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