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庭を散策するのは久しぶりね。
ここに嫁いでからは本当に忙しくて随分と足が遠のいていた。
一度も見ることなく庭の花が変わっていることが当たり前になっていた。せっかく庭師が手入れをしてくれているのに、悪いことをした。
「もしかして、王妃様ですかぁ?」
ここ最近で随分と聞きなれた声が聞こえた。
にっこりと無邪気に笑う少女、メアリー・ヘスティア。
護衛としてついて来ていたアルクトスが一歩前に出て私とメアリーの間に入る。彼はいつでも抜けるように剣の柄を握っている。
メアリーは自分と私の間に割って入ったアルクトスに驚いた後すぐに不快を露わにするように眉間に皴を寄せる。
「あなた、随分と無礼ではないの。私と王妃様の間に割って入るなんて」
「‥‥‥」
アルクトスが斬るか?と視線で聞いてくる。
私は首を左右に振って彼の申し出を断る。
「何様のつもり、メアリー・ヘスティア」
「えっ?」
メアリーは私に咎められるとは心底思っていなかったようだ。なぜ咎められないといけないのか理解できないという顔をしている。
「ここは私の庭です」
王族に嫁いだ時に祝いとして頂いた庭だ。王妃には必ず王城のどこかの庭が与えられることになっている。
「私の許可なく立ち入ることは許されないわ。それに彼は私の護衛。あなたが叱責していい相手ではなくってよ」
王妃の護衛を一貴族の令嬢が叱責するなんて越権行為だ。本来なら首が飛んでもおかしくはない。
「王妃様の護衛をしている彼は傭兵でしょう。公爵様がそう言っていたわ。貴族である私が立場を弁えさせて何が悪いというのですか?」
「本気で言っているの?」
メアリーは私の質問に首を傾げた後、にんまりと笑った。
「それにここは王妃様が与えられた庭ですが今日から私の庭でもありますわ。私だって陛下の妻になるんですもの。ああ、でも分け合うのは嫌ですわね。王妃様、この庭を私にください」
なるほど。
王の寵愛深いことを笠に着て私を見下しているのね。
公爵が側妃を許すほどには愚かで身の程知らず。
「庭を与えられるのは王妃のみ。側妃に与えられる庭はないわ。側妃になるつもりなら常識を身につけることね。それと、側妃だと名乗るのなら国益になることを一つでも行えるようになりなさい。ただ王の寵愛を受けるだけの存在は側妃とは認められない。名ばかりの側妃など王家の恥だわ」
気分が削がれたので私はメアリーを庭から追い出すようにアルクトスに命じた後、部屋に戻ることにした。
思ったよりも早く戻った私にリリーは不審な目を向けてきたけどせっかく私を思って提案してくれたリリーに余計なことを言って心配させたくはなかったので私は何も言わず彼女のお茶を飲んでから仕事を再開した。