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MIDNIGHT  作者: 赤良狐 詠
チャプター1 日常+非日常
9/16

『異態』

 真夜中。東京都千代田区霞が関二―一―一。警視庁。地下二階。警視庁公安部特殊公安第一課、異態特別事件対策係室。深夜二時頃。


 特殊公安第一課異態特別事件対策係、通称、異態と言われるこの対策係は超法規的組織である。設立から三年程しか経っていない。メンバーはノンキャリアの係長で切れ者の後藤辰巳。キャリアの木村陽菜。同じく野原哲夫。ノンキャリアで所轄から引き抜かれた小野寺りゅう。設立当初は十五名がいたが、現在は四名だけである。設立当初からいるのは後藤だけであり、彼の一声で現在のメンバー構成に変わった。


 係長の後藤以外は能力者である。後藤は特殊公安第一課設立時に所轄から抜擢された。家族構成は同い年で元同僚の妻、早苗さなえと現在中学二年の奈美なみの三人家族である。


 この異態に配属されてから、後藤は能力のある人材を探していた。能力者に対抗できるのは、同じ能力者が必要不可欠と考えていたのだ。

 妻と子供には会ってはいるが会話は少ない。異態になってから能力者に振り回され、事件を解決できない日々が続いていたからだ。それが一年も続けば不満も出てくる。これは奈美が小学六年最後の春の会話である。


「もう来月には中学生だな。心の準備はできてるか?」


「お父さんには関係ない!」


「奈美! お父さんにそんな言い方ないでしょ!」


「家にいない人が良く父親面できるね! 早苗母さんだって寂しいんだよ! それがあんたに分かるのかよ!」


「奈美!」


 奈美は頬を叩かれ、早苗を睨むのではなく父親を睨んだ――。


 成果のない日々。それが改善されるきっかけとなる人物が現れる。


 相手の力を見抜き、そしてレーダーのように力のある者を探せる陽菜。彼女はその能力で警察大学校の時点で異態にスカウトされた。これは異例中の異例でだった。自らを能力者と言った彼女はそれを証明した。


「私なら彼らを見抜き、そして見つけることができます! 信じてください!」


 陽菜はその時まだ在校中で平日や土日の空き時間を使って捜査に協力したいと願い出た。練馬区周辺で起きていたATM強奪事件で超怪力の能力を持った男を逮捕することができたのは、彼女がそのレーダーで居場所を突き止めたからだ。異態にとって初めて解決できた事件でもあった。それは車で張り込みをしていた深夜一時頃だった。


「今能力を使ってます……ここから近いです!」


 相手は現行犯逮捕となるはずだったが、街路樹を棒のように振り回して後藤達は近づくこともできなかった。


「オレに近づくんじゃねぇー!」


「クソ! どうすれば……」


「私がやります! はぁぁぁぁぁー!」


 彼女のサイコキネシスでホシを制止した。しかし今度は捕まえたホシを留置する場所やホシが能力を使える状態が問題だった。

 とりあえずホシは一か月の入院生活だが安心はできない。あと二か月も陽菜は警察大学校があるため連絡先を後藤は教えた。


「連絡先を教えておく。こちらからも君に協力を頼むことがあるかもしれん」


「分かりました。何かあれば連絡します」


 その数日後、陽菜の休日。相手の能力を無力化できる能力を持った小野寺龍を見つけたのだ。彼は府中署の刑事で自分の能力を隠していた。それを彼女が府中駅周辺で感知して、後藤は彼を引き抜くことになる。陽菜からの突然の連絡に奇跡が起きたと思った。


「もしもし後藤係長? 木村です。相手の能力を無効にできる人を多分見つけました。府中署にいます」


「本当か!? 今すぐ向かう!」


 後藤は一人で陽菜と合流してすぐに府中署に向かった。陽菜は呼び寄せられるように相手の場所に移動していく。


「後藤係長。感じます。相手の力を無力化できる能力者が……微弱ですがここにいます……彼です!」


 龍は自分が指差されたことに驚いていた。


「え!? 自分は……違いますよ! 普通の人間です!」


「自分でも知らないだけです。あなたの能力はサイコキネシスだけじゃないんですよ」


「え!? 一体他に何が? あ! しまった! この口が! オレって馬鹿―」


 彼の手で触れた物は全て能力者の力を無効化できる。今のところ例外はない。手錠や銃弾には彼の込めた力が入っている。だが人物に触れての無効化はできない。


「小野寺君は物を媒介して無効化にできる能力。物に集中して力を込めるしかないです」


「木村警部、それでも良い。能力を無効化できるのならな。ホシの出所後がネックになるが、それは上が考えるだろう」


 現在二十七歳で少し小太りではあるが、龍は柔道も強く後藤のお気に入りだ。


「良い動きだ小野寺警部補!」


「あざーす!」


 彼のおかけで能力者特別留置所ができた。留置所の壁、天井、床、鉄格子、全てに彼は触れた。物に力を込める時には、彼は集中しの紫の光を放つ。その中で能力は一切使えることはない。今のところ完全と言って良い。例外はない。


 そして後藤と陽菜が新しい能力者がいないか警察学校と警察大学校を視察した時だった。警察大学校で陽菜は哲夫の能力を見抜いた。それはあらゆる空間や物を創造できる力だった。それに加えて陽菜と龍を上回るサイコキネシスの持ち主である。


「後藤さん! 彼は能力者です!」


「あの青年か?」


「はい!」


 後藤と陽菜は訓練が終わった哲夫に近づいた。


「ちょっと良いかな?」


「はい? 何でしょうか?」


「あなた名前は? 私は木村陽菜」


「あの……野原……哲夫です」


「野原哲夫君。よろしく」


 陽菜はわざと手を出した。そして哲夫と握手を交わした。


「あなたには創造の力がある。そして凄まじいサイコキネシスを持っている。間違いないわね?」


「え!? な、何でそれを?」


「彼女はお前と同じ能力者だからだ! 安心しろ!」


 創造の力は使うことはないが、それでも強力なサイコキネシスを後藤に買われた。それでホシの逮捕に繋がる活躍を見せる。誰に対しても気さくに接してくる優しい男である。しかし、一度怒りに任せてしまうと感情をコントロールできなくなるのが玉に瑕であるが――。


 少女を誘拐し傷つけた透明になる能力男の時は止めるのに苦労した。


「あ、あんたは……なんてことしたんだー!」


 男の部屋に突入した瞬間。傷つけられた少女を見た哲夫は、サイコキネシスで相手の首をずっと絞め続けた。


「やめて哲夫君! 相手が死んでしまうわ! 哲夫君! クッ!」


 陽菜が自分のサイコキネシスで哲夫をなんとか止めた。衝撃波を食らわせ気絶させたのだ。


「うわー!」


「はぁはぁ……哲夫君……」


 陽菜はありったけの力を使ってそこで膝を付いた。


 メンバーを能力者のみにすることを承認してくれた特殊公安第一課、課長の浅田あさだ敏郎としろうには感謝しても足りない。人事部に多くの声を掛けてくれた。

 後藤と同じノンキャリア。階級は警視。特殊公安第一課創設からずっと支えてくれていた。


「君以外を能力者だけにする? 本気か後藤君?」


「はい! 浅田課長! 今の他のメンバーは要りません。私と彼らだけです」


「能力者のみの組織か……後藤君。何も気にせんで良い。君の好きにやってくれ。私は信じている。君と君の正義をね。これは賭けでもある。特殊公安という特別扱いを受けていても私達はすぐに切り捨てられる。設立当初から上の目は冷たいままだ。成果を上げろ! 精進してくれ!」


「はい! 浅田課長!」


 陽菜の能力の難点があり、彼女もそれは自覚している。


「私のレーダーはおよそ十キロの範囲まで感知できます。それでも相手が空を飛ぶだけでは感知できません」


「それでもお前は自分の成すべきことをしている。もっと自信を持て」


「はい! ありがとうございます!」


 能力者が関わる全ての事件を異態の四人だけで捜査することは容易なことではないが、それと同様に能力者が事件に関わっているかどうかを精査することも必要であるため、気の遠くなる捜査時間が要する。

 広域捜査に及ぶ事件もあれば、地方で起きた事件にも彼らが捜査を担当していた。能力者が関与している疑いの事件であれば各担当、各部署が異態に事件の捜査を依頼してくるケースも少なくない。

 四人はここ数日、渋谷放火事件の車中で明け方までパトロールしていたので、対策室に備えられているベッドで寝泊まりしていた。午前中に渋谷放火事件のホシの身柄を病院から本庁に移すことになっていたので、今日も対策室のベッドに横になっていた。龍は天井を見つめながら、


「明日は病院で隔離してる渋谷放火事件のホシの移送かぁ。もう少しゆっくりしたいですよね」


 と言った。男性陣と仕切り用のカーテン越しにいる陽菜はその言葉に溜息を吐いて、


「仕方ないでしょ小野寺君。他に任せることができないからね」


 と言った。


「分かってるよ陽菜ちゃん。まぁ、これがオレ達の仕事だしねー」


「分かっているなら少しでも寝ておきましょう」


 哲夫もその会話に入って来た。


「そうですよ龍さん。安息の時は長くないかもしれないですからね」


「哲夫君、それは言わないでよ~。事件が起きたら仕方ないけどさすがに連続はきついよ~。身体が壊れちゃう」


「くだらんこと言ってないで口を閉じろ小野寺警部補。これでは眠れんぞ」


「はい……すいません、後藤係長……」


 後藤の少し強めの口調で龍は口も目も閉じた。後藤は目を閉じていながら考え事を巡らせていた。それを忘れる前に口に出さなければいけないと思ったのだった。


「木村警部。まだ起きているか?」


「は、はい? 何でしょう?」


「銀髪の男の件だが木村警部。お前の知り合いの『探偵』に頼んでもらえるか?」


「え!? 別に構いませんけど……あっちが引き受けるかどうかは分かりませんよ?」


「構わん。頼んだぞ木村警部! あの『探偵事務所』なら何か掴める。俺の勘がそう感じている」


「わ、分かりました。依頼してみます」


「おう! 頼んだぞ木村警部!」


「……あの『探偵』なら掴めるはずだ……」


後藤は捜査の糸口になれば良い、そう考えていた。陽菜は探偵と持ちつ持たれつの関係で何度か事件の捜査にも探偵事務所総出で協力してくれた。こちらも探偵が欲しがった情報の提供をしたことがある。それに『見逃している彼ら』ならどんな依頼でもやってくれると確信していた――。

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