699食目 治療完了です
というわけで、ケツの穴は即座に治療完了。【ぢ】を治すのもヒーラーのお仕事なので、これくらいはちょろいもの。少しばかりハードな使用のされ方をして壊れたくらいでは、この珍獣の治療を阻む事などできぬぅ。
「うし、綺麗なお菊様の復活だぁ」
「見事なものだね」
ずにゅ。
「バカ野郎、なんで指を突っ込んだ」
「しまりの方はどうかな、と」
エドワードはやりたい放題だ。今度やったら、ルーフェイの個人スキル【反転】で女にしちまうぞ、と脅すとしょんぼりした。今はもう大人しい。
「油断も隙も無いんだぜ。さてさて、次は体の方だ」
女性器ほどでもないが、こっちも相当なものだ。油性マジックでの落書きはまだしも、焼き鏝でヘンテコマークを焼き入れる、とか頭の中どうなってんだ。一度、頭をかち割って中身をご拝見したいものだ。もう頭にきますよ。
「こっちは〈スキンヒール〉でいいな。地球なら致命的な致命傷になるぞ」
「あっちは魔法が無いんだっけ?」
「まぁな。外科治療はこっちが上だけど、内科治療は地球の方が優れているかな」
「ふぅん、でもエルはどっちも凄いよね」
「俺はある意味で規格外だからな。でも、治療というのは個人が突出してても意味はないんだ」
そう、俺がきちんと診てやれるのは、あくまで一回に付き一人だ。範囲治癒魔法は、チユーズに丸投げにするため妙なところを手抜きする。問題は無いといえば無いのだが、後遺症が発生する場合があるので軽視するわけにはいかない。やはり、戦闘後にちゃんと診ているのである。
しかし、それではあまりに時間が掛かり過ぎる。だからこそ、知識と技術は後進にきちんと伝え、その人数を増やしてゆく必要があるのだ。一人で出来ることは限りがあるのだから。
「おう、乳首に穴増やすのはやめろ。赤ちゃんがお乳を飲み過ぎるだろうが」
「それは良い事なんじゃないの?」
「これを見て……どう思う?」
「凄く……長いです」
無理矢理いじくられた痕跡が残る奇形となり果てた乳首と、異様に膨張した乳房の治療に取り掛かる。そろそろ俺に怒りは有頂天となりボルケーノしそうだ。
この異常な状態は薬によるものだと思うが、何をどうやったらこんな状態になるかがよく分からない。質量保存の法則とはいったい? うっ、頭が……。
「考えるだけバカくさい。来たれ、闇の枝」
「ふきゅおん」
俺は闇の枝を呼び出した。その後にトウカさんに〈ペインブロック〉を施して痛覚を遮断する。準備は完了だ。
「んじゃ、闇の枝。ぱいぱいを食って差し上げろ」
「ふっきゅお~ん」
むしゃあ、とトウカさんの胸は大平原と化す。それだけでだいぶイメージが変わるものだ。
「ひえっ、なんだか僕まで胸が痛くなってきた」
「エドは、ぱいぱいは無いだろう。それとも、ほしいのか?」
「僕はエルのだけでいいよ」
「さいですか」
というエドの惚気を頂戴した俺は、早速トウカさんの乳房の再構築をおこなう。桃力を使用すれば肉体の再生などちょろいもん。まぁ、見てなって。
※ おおっと! ※
「……ふきゅん」
「これ、さっきよりも大きくない?」
なんということでしょう、そこには身体を埋め尽くす超巨大乳房の姿が。というか、トウカさんが自分のおっぱいに潰されてるっ!?
「ヤヴェよ、ヤヴェよ」
「闇の枝、早く食べてあげて」
「ふきゅおん」
というわけで再チャレンジ。この珍獣に二度目の失敗は無い。
※ おっぱい は まいそうされました ※
「お、おっぱいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「いい、ヤツだったよ……」
「ふきゅおん」
そこには、大平原にそびえ立つ干しブドウの元気な姿がっ。
「こりゃ、遊んどらんで真面目にやらんか」
「遊んでいるわけじゃないんだぜ。思ったよりも乳房の再生が難しいんだ」
こりゃあ、先にトウカさんの記憶を覗かせてもらおう。在りし日のパイパイの姿を確認しないことにはイメージが纏まらない。
というわけで、おでこ同士をくっつけてサイコダイブ。トウカさんの記憶に侵入。開幕三秒で俺の怒りは天元突破。
なんじゃあ、この胸クソ悪い記憶はっ! あとで纏めて葬り去ってくれる!
ゲロ以下の臭いがプンプンしやがる記憶を潜りながら、彼女の在りし日のパイパイの記憶を探る。そして、見つけた。うほっ、いいおっぱい。
「ふきゅん、風呂上がりの記憶か。ええっと、乳首の色は薄い桃色、形はお椀型、カップはDといったところか? あ、ほくろ発見」
ついでに体の隅々まで記憶してゆこう。手足はこれから再生させるし都合がいい、というものだ。というか……最初からこうしとけばよかったじゃないですかやだ~。
「ふきゅん、イメージが固まったぞ。これでもう失敗しない」
三度目の正直、これで失敗したら俺は泣く。ユクゾッ!
ぷるるん、とイメージどおりのパイパイが復元された。乳首も綺麗な薄い桃色をしている。ほくろの位置もバッチリだ。かんぺきじゃないですかやった~。
「あとは手足だな」
「手足は機械にしないの?」
「するわけないだろ。あと、ドクター・モモ。露骨に残念そうな顔をするんじゃあない」
しょんぼり顔のドクター・モモを窘めた後に、トウカさんの手足を再生させる。この作業はもう慣れたものなのでトラブルも起ることなく無事に完了した。
「あ、処女膜も再生させた方がいいか?」
「ふむぅ、そっちの方がいいかのう。記憶を改竄するんじゃろ?」
「もちのロン、なんだぜ。あんな記憶なんぞ欠片も残すつもりもない」
「なら矛盾が起らんように再生させておいた方がよさそうじゃ」
「分かったんだぜ」
というわけで膜も再生。これで真っ新な肉体に元通りだ。後はレイポォされた精神を治療すれば、トウカさんは元通りの生活を送れるようになるはずだ。
「チユーズ、一度、トウカさんの身体を検査してくれ」
『まかせろ~』
仕上げに、チユーズたちにトウカさんの身体を隅々まで調べさせる、と彼女たちから気になる部分を数ヶ所報告された。まずは歯、数が圧倒的に足りないとのこと。拷問で殴られたのであろうか、何本も歯が欠けていた。
「こりゃあ、うっかりだったな。やっぱり最終確認は大事だな」
ちょちょいと桃力で歯を再生させる。綺麗な歯並びに自画自賛。歯の汚れも除去して綺麗デ~ス。
もうひとつは鼓膜だ。見事に破れている。何をされたかは先ほどのサイコダイブで知っていたが、鼓膜まで破っていたとは呆れるばかりだ。
こちらも、ちょちょいと治癒魔法で治してしまう。シグルドのヤツが「ギャオ~」と鼓膜を破ってくるものだから、治し方は身を以って覚えているのだ。
そして、最後は胃。胃の内部に、べっとりと鬼のネバネバ細胞がこびり付いている、とのことだ。そんなの許されざるよ、というわけで除去に取り掛かる。その方法とはこうだ。
ずきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!
「ダイナミックなキスだねぇ」
「流石は闇の枝。格が違った」
闇の枝に吸い出させる、である。なんかトウカさんがビクンビクンしてるが、ここで手を出すのはNG。事が終了するまでは黙して待つのみ。
やがて、白目痙攣状態となったトウカさんは、闇の枝から無事? に解放された。
「これでよし、後は精神の治療だな。来たれ、光の枝」
最後に、初代様に凌辱の記憶を食べていただいて治療は終了となる。
「それじゃあ、初代様、よろしくなんだぜ」
「えぇ、任せてちょうだい」
八つの目を持つ白く輝く大蛇となった初代様が、トウカさんの記憶を吸い出し始めた。
虚ろな表情だったトウカさんの顔が段々と穏やかなものへと変わってゆく。そして、彼女が安心して眠りに就いた時、精神治療は完了を迎えたのであった。
「これで、もう大丈夫よ。それにしても酷い目に遭ったのね」
「身の毛もよだつ、とは正にこれの事なんだぜ」
「ふぇっふぇっふぇ、見事なもんじゃのう」
「これが俺の使命なんだぜ。苦しむ者を救う、そのための治癒魔法、そのための桃力なんだぜ」
「そうじゃな。桃使いとは、桃力とは、弱者のための力じゃて」
すうすうと眠るトウカさん。治療が終わった彼女をドクター・モモに託して、俺とエドワードは彼の個室を後にした。