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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十六章 彼方より来たりし者
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627食目 誠司郎と魔導銃

 ◆◆◆ 誠司郎 ◆◆◆


 聖光騎兵団の訓練を終えた僕らは、いつものように木に身体を預け束の間の休憩を取っていた。


 そろそろ、日も暮れようとしている。

 数羽のカラスたちが仲睦まじく赤く染まった大空を飛び去っていった。


「今日もきつい訓練だったなぁ」


「うん、そうだね、史俊」


 僕の体の事情が周囲に知れ渡ってから一週間経った。

 けれども、こんな異質な身体を持つ僕に対し、皆は嫌煙することなく接してくれたのだ。

 そればかりか、急に優しくなった先輩方もいる。だいたい男の人であるが。


 そんな、何も心配はいらない、と思わせる日々。

 だけど、問題がなかったわけでもない。それは、お風呂事情だ。


「セイジロウは男だから俺たちと入るべきだろ? イチモツだってあるんだし」


「何言っているのよ! あれは尿道よ! それに膣自体はあるんだから、Hができることくらい知っているのよ!」


「そうよ、そうよ! 誠司郎の純潔は私たちが護る!」


 聖光騎兵団にはエルティナさんが作った温泉が存在しており、僕らはそこを利用させてもらっていたのだが、僕の身体がこうなってしまったため、男湯と女湯のどちらを利用させるかで騎士の先輩たちがもめているのだ。

 僕としては、正直どちらでもいいのだが。


「誠司郎はどちらかといえば見た目が女だから、あんなにもめているのよねぇ」


「そうだな。仮に俺が誠司郎の境遇だったら、問答無用で男側だな」


「ちょっと、不気味なイメージを湧かせないでよ」


「ひでぇ」


 史俊と時雨も以前と変わらない、いや、以前よりも仲が深まった。

 二人はどんな姿になっても、僕は僕だ、といってくれたのだ。こんなに嬉しい事はない。


 この世界に飛ばされ、元の身体に戻ってしまうという恐怖の毎日。そこから解放されただけではなく、こんな僕を受け入れてくれる人々のなんと多いことか。


「地球も、こんな人たちばかりだったらよかったのに」


「まぁな……ここの人たちは気持ちの良い連中ばかりだ」


「そうよね。馴染んじゃっているけど……これって、とても凄いことなのよね」


 地球ではこうはいかなかったはずだ。きっと、奇異の目で見られ、からかわれて、最後には爪弾きにされていただろう。


 でも、僕らはいつの日か地球に戻る日が来ると思う。その時、僕は選択を迫られるだろう。

 ここに残るか、両親が待つ地球に帰るかを。


「ここにいたか」


「あ……ガイリンクードさん」


 僕が動けるように回復した後、彼は僕に魔導銃を勧めてきた。

 そして、僕の剣の腕前が既に頭打ちだ、ということも宣告してきたのだ。

 それは異形の巨人に叩きのめされたことで痛感していた。


「決まったか?」


「はい、僕は魔導銃を習いたいです」


 確かに僕は剣の限界を感じていた。史俊のように高いSTRを持っていないし、時雨のように攻撃力の高い魔法も使えない。何から何まで中途半端なのだ。


「銃を使うったって……スキルポイントは残ってるのかよ?」


聖女ホーリーレディの言っていた、おまえたちの制限げんかいか? くだらんな」


 史俊の質問をガイリンクードさんは一蹴した。そして、僕に漆黒の銃を手渡し告げた。


「誠司郎、魔導銃ガンパワーでも技術スキルでもない。ソウルで扱う物だ」


「魂で?」


「そうだ、魔導銃ガンはおまえのソウルを感じ取り成長パワーアップしてゆく。そして、おまえに合わせて進化エボリューションしてゆくんだ」


 彼は銀色の魔導銃を引き抜き、照準を離れた大岩に定める。あれは以前、ライオットさんが砕いてみろ、とどこかから持ってきた物だ。

 いまだに砕けた者はおらず、訓練場の一角を占拠する邪魔者として扱われている。


 普通に考えれば、銃弾であんなに大きな岩を砕けるわけがない。

 だが、彼は……彼の銃は、それをやってのけたのだ。


 撃ち出された弾丸は青白い輝きを纏っていた。

 聞いた話だと銃から打ち出された弾丸の速度はマッハに到達するといわれている。

 それゆえに弾丸は光の残照を残し、まるでレーザー光線のように見えたのだ。


 そして、岩に着弾したと同時に力が爆ぜた。

 青白い爆炎は岩を砕き貪る悪魔のようにも見える。恐ろしい力だ。


「ま、マジかよ。拳銃で大岩を砕きやがった」


「魔導銃テスタメントP666だ。もう、十年、戦場しゅらばを共にしてきた相棒パートナーだ。いい魔導銃だろ?」


 ガイリンクードさんは銃口で黒い帽子の鍔を持ち上げ、ニヒルな笑みを浮かべた。


「僕もできるでしょうか?」


「それは、おまえ次第だ。明日から指導レッスンしてやる」


 そう言い残し彼は黒いマントをひるがえし立ち去っていった。


「ハードボイルド過ぎんだろ……あれで俺たちより年下なんだぜ?」


「たしかにね。でも、彼は本物だと思うの。潜ってきた修羅場の数が彼をそう見せているんだわ」


 そう、実はモモガーディアンズのメンバーは僕らよりも年下だったのだ。

 それを知った時の衝撃は今でも忘れていない。


「きっと、精神的に成熟しているんだと思う」


 そうなりたかったのか、ならざるを得なかったのかは分からない。

 でも、彼らが抱える問題……いや、この世界が抱える問題がそうさせているのは事実だ。


「取り敢えず、お風呂に行きましょ、誠司郎」


「え? でも」


「いいの、いいの。背中を流しっこしましょう」


「あ、じゃあ、俺も」


「あんたは男風呂でしょ!」






 結局、時雨の手によって、僕は女湯に入れさせられてしまった。

 女湯に入ると女性騎士の先輩方が過剰なスキンシップを取ってくるので疲れる。

 皆が皆、僕の胸やらお尻やらを揉んでくるのだ。くすぐったいからやめて欲しい。


「綺麗な背中ねぇ。もう少ししたら、翼が生えてくるんでしょう?」


「楽しみよねぇ。天使の姿のセイジロウ。それに合わせて衣装を用意しなくちゃ」


「あ、それいいわね。そうしたら天使の騎士の誕生? やだ、凄くいい」


 本当に僕以上に楽しみにしてくれている。でも、背中から翼が生えてくる、なんて突飛もない事を言われて、僕はいまだに戸惑っていた。

 翼が生えてきたら完璧に人間ではないからだ。


 ここではいいとして、地球に帰ったらどうなってしまうかと不安でならない。


「不安なの?」


「うん、ここだと問題はなさそうだけど」


 湯船に浸かって考え事をしていた僕の隣に時雨がやってきた。

 彼女は以前よりもふっくらとした自分の胸を見ては、顔をホッコリさせるのが日常となっている。


 そんな時雨をリンダさんは「裏切り者~!」と言って罵っていた。そして、彼女の胸をわし掴んで揉みまくるのだ。

 仲は悪くなっていないようなので、ただ単に嫉妬しているだけだろうと思われる。


 でも、僕の胸も揉むのは筋違いだと思う。それによって乳首が硬くなるのでやめて欲しい。

 そうなるとブラに擦れてムズムズするのだ。


「そういえば、ブラにはなれた?」


「うん、フロントホックの方が楽ちんだ」


「あぁ、付け外しが楽だ、という利点だけで選んだのね。でも普通のブラも着けれるようにしておいた方がいいわよ」


「うん、そのうちね」


 そう告げて僕はお風呂から上がった。このまま、長話をしていたら茹で上がってしまう。






「ふぅ、さっぱりした」


 バスタオルで身体を拭き、籠に入っている下着を身に着けた。まだ慣れたとは言えない女性物の下着だ。


 当初はトランクスのみの着用であったが、時雨を含む女性陣からの猛反発に会い、現在では着用を余儀なくされている。


 それにしても、ここは見れば見るほど、昔の日本の銭湯のようだ。新しいはずなのにどこか古くて懐かしい感じがする。

 エルティナさんのこだわりだそうだが、彼女はいったい何者なんだろうか。トウヤさんの入れ知恵の可能性もあるのだが。


 僕は財布から小銭を取り出し、カウンターに座るモグラに手渡す。


「もぐ~」


 すると、モグラは隣の小箱から良く冷えたコーヒー牛乳を渡してくれた。

 何を隠そう、このモグラはコーヒー牛乳の販売店員なのだ。恐るべし、ミリタナス神聖国のモグラ。


 良く冷えたコーヒー牛乳の紙蓋を針の付いた専用の道具で開ける。

 きゅぽん、という音がして飲めるようになったので、乾いた喉に枯草色の液体を一気に流し込む。


「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁ」


「もぐ~!」


 モグラが「おみごと」と言わんばかりに僕の飲みっぷりを賛辞してくれた。

 お風呂上がりのこの一杯は僕の楽しみなのだ。


 飲み終えた空き瓶は隅に置いてある箱に入れておく。再利用のためである。


「あっ、満杯になったよ」


「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」「もぐ~」


 どうやら、僕の入れた空き瓶で満杯になったようだ。

 すると、どこからともなく数匹のモグラがやってきて、空き瓶入れを持ち上げて運び去ってしまった。

 

 その後は空になった容器入れをもって再び現れ、定位置に置いた後、いずこへと去って行く。

 本当に利口なモグラたちだ。下手な従業員よりも優秀かもしれない。


「本当に、不思議な世界だなぁ」


「もぐ~」


 僕は服を身に纏い、モグラの従業員に見送られて女湯を後にした。

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