626食目 修復力
「誠司郎の体の件が片付いたとはいえ、現状としてはまだまだ余談を許さない状況だ」
したがって、俺たちがやるべきことはただ一つ。
「第一回【誠司郎、君、ちゃん会議】は~じま~るよ~」
「今……余談を許さない状況だ、といったよな?」
「気のせい」
「……まったく」
トウヤの鋭いツッコミは、俺の鉄壁のガードでシャッタアウトだっ!
「本日、集まっていただいた方々は、その筋のスペシャリストだと認識している。どうか、誠司郎の明るい未来に協力してくれい」
大神殿会議室に呼び寄せた精鋭たちは、いずれもその道を究めんとする者。
きっと、この会議は有意義なものになるに違いない。
まずは、女性代表として選ばれたメルシェ。尻はくそデカいが我がモモガーディアンズの中での女性らしさは断トツであろう。
続いて、男性代表として選出されたのはダナンだ。
なんと、我がモモガーディアンズの男性陣は、そのほぼ全てが一癖も二癖もあるヤツらばかり! これではまともな男性像が浮かばない、浮かびにくい!
したがって、消去法で選出した結果、ダナンが残ったわけだ! 壊れるなぁ、選出。
更に、男女の肉体をを知り尽くした大人、ルドルフさんを招いている。彼の豊富な経験はきっと役に立つであろう。子持ちであるという点も大きなポイントだ。
更に更に、モモガーディアンズ本部で暇そうにしていたスケベトリオにも来ていただいた。
ほぼまったく期待していないが、肉体に掛ける執着心はぶっちぎりであるため、何かの拍子でぽろっと良い案が転がり落ちるやも知れない。
そしてそして、ユウユウ閣下だ。彼女も暇そうにしていた人物であり、彼女に発見されてしまったのが運の尽きというもの。
やっぱり、〈テレパス〉で呼びかけるべきやったんや! じ~ざす。
「ふきゅん、それでは会議を始めるぞぉ」
誠司郎はその出生のため、性別というものが無い。だが、身体は女性がベースであり、精神は若干ながら男性寄りである。たぶん。
しかも、数年後には背中から翼がにょっきりと生えてくるだろう事が予想される一人摩訶不思議生物だ。
そんな誠司郎のために、俺は一つのプレゼントを用意しようと考えたのだ。
「まずは手元の資料を見てほしい。それは誠司郎の身体に付いて纏めたものだ」
俺の指示に従って、集まったメンバーは資料を手にして目を通し始めた。
「へぇ……天使ねぇ。どんな声で鳴いてくれるのかしら?」
「えっ?」
「えっ?」
しょっぱなから空気をくっそ重くする容赦のない女がいた! 訴訟も辞さない!
「誠司郎を鳴かせちゃいけないんだぜ」
「うふふ、そうよね、ちゃんと【教育】してからだったわ。ごめんなさいね」
絶対に理解していない。誰だっ、この場にユウユウを招いたヤツはっ! 出てこい!
『おまえだろうが』
『さ~せん』
俺は早くもトウヤのツッコミによって白目痙攣状態となり、会議の先行きに不安を覚えた。
だが、ここで止めてしまうわけにはいかない。なんとしても、一定の成果を上げておくのだ。
「ふきゅん、その資料にあるとおり、誠司郎は身体は女性寄り、精神は男性寄り、数年後には翼が生えてくる、といった存在だ。これは誠司郎の世界では異常なんてものじゃない。下手をすれば研究対象として捕まり、解剖されかねないレベルだ」
「あぁ、正直、異常だな。そもそも、性別が無いってなんなんだ?」
ダナンが資料をパンパンと叩きながら質問をぶつけてきた。ゆえに俺は簡潔に答えた。
「そのまんまだ。性別ってのは赤ちゃんを作る役割分担みたいなもの。それが一切ないんだよ」
「この、精巣と卵巣が無い、って記載がそうですか?」
メルシェの表情が厳しくなった。温厚な彼女にしては珍しい表情だ。
「そうだ。子宮もないな。子宮とは、お母さんのお腹の中にある赤ちゃんのベッドのことだ」
俺の答えに皆は深いため息を吐いた。口にして出すとショッキングな内容だったからだ。
「まぁ、誠司郎に性別、生殖機能が無い、というのは分かりました。では、エルティナは彼、あるいは彼女をどうしたいのですか?」
流石はルドルフさんだ。いきなり本命に突撃してきた。別に隠すことでもないので俺はハッキリと告げる。
「誠司郎には男か女になってもらう」
「おいおい、どうやってだよ?」
「そうそう、身体を弄るにしたって、相当な負担になるんじゃねぇのか?」
「わちきは取り敢えず、むっちりとしたケツさえあれば、どっちでもいいさね」
俺の提示した結論にスケベトリオが意見した。珍しくアカネ以外はまともな意見だ。
「そこはもう考えてある」
「へぇ、ちなみに、どんな方法か聞いてもよくて?」
ユウユウが頬杖を突き挑発的に問うてきた。したがって、俺も胸を突き出し挑戦的に答える。ふっきゅん!
「全てを喰らう者に、誠司郎の【性別無し】を食わせる」
「……」
重苦しいほどの沈黙が会議室を支配した。どういうこと?
「いくらなんでも、それは無茶苦茶過ぎませんか?」
メルシェの表情はやはり厳しいままだ。そんな彼女に俺は反論する。
「無茶苦茶も何も、それこそが全てを喰らう者なんだぞ」
全てを喰らう者は【全て】を喰らうからこその脅威なのだ。こいつらに食えないものはない。
まぁ、水の中で溺れるヤツはいるが。
「そんなことができるのですか? 仮にそれができるとして試したことは?」
「ない」
「だめじゃないですか」
「じゃけん、実験しましょうね~」
ルドルフさんは、やはり鋭いお方であった。これも愛弟子とも言える誠司郎を想っての発言である事は間違いない。
だが、俺とて誠司郎のことを軽んじているわけではないのだ。
「かも~ん、身体は男、心は女の悩める少女君、オイフェちゃん」
俺の呼び掛けに応えて入室した者は、女性物の衣服を身に纏った茶髪と褐色の肌を持つ少年であった。
細身ではあるが、がっしりした体を持つ男前である。だが、それにピンク色のフリフリした女性物の服は当然、違和感しか感じない。ルドルフさんクラスが着れば違和感はないのだが。
まぁ、彼は極めし者だから仕方がない。男状態でも色っぽ過ぎんよ~?
「おいおい、エル。マジにやるのかよ」
「当然だろ、ダナン。それに、この子の覚悟は本物だぁ」
異世界カーンテヒルであっても、オカマちゃんは嫌煙される存在であった。
だが、逆にレズやホモは受け入れられているのが謎である。これはつまり、中途半端なことを嫌っているからだろうと推測する。
あくまで推測だからっ! 確定じゃないからなっ!
「お、お願いします、聖女様。こんな辛い生き方はもう嫌です!」
「ふきゅん、任せておけぇ。俺がなんとか、かんとかしてやる」
俺は早速、テーブルの上にオイフェを立たせた。念のためにルドルフさんに彼のパオーン様を確認させる。この中では男女の身体に慣れているのは俺と彼だけであるからだ。
スケベトリオに見せようものなら、拒絶反応を起こして死亡しかねないし、ユウユウ閣下に見せようものなら、極上の笑顔でもって「こうした方が早いわよ」とかいって、直接パオーン様をもぎ取ってしまうだろう。超震えてきやがった。
「それでは、実験を開始する。来たれ、光の枝!」
俺の呼び掛けに応えて魂から出のは赤髪の女性、初代エルティナだ。
「って、なんで裸なんだぁ?」
「え~っとぉ……」
確かコツコツと魂を紡いで服を数着つくったはず。これは、いったい全体どういうことであろうか。
尚、ザインの服は目下制作中だ。おパンツしかできあがっていないのは内緒な。
「いたしておりました」
「にゃんにゃんし過ぎだるるぉ」
まったく……ラブラブも大概にしろ。せめて、日の明るい内は勘弁願いたい。
「初代様、例の件、お願いするんだぜ」
「えぇ、任せてちょうだい。この子を食べればいいのね」
まてまて、その状態の初代様がそんな発言をしたら勘違いされる。
「うふふ、怖がらなくてもいいのよ。すぐに終わるから」
舌なめずりまでしてしまわれたっ!? これはもう、いけない展開、待ったなしだぁ!
「ま、冗談はさておき、始めましょうか」
「ま、そうだな。そんじゃ、ハイエルフに覚醒っと」
俺はプラチナの髪を持つハイエルフに覚醒する。視界が低くなり身体が軽くなるのを感じた。
うん、やはり、身体が軽いのはいいものだ。特に肩への負担が無くなるのは喜ばしい。
俺の覚醒と同時に、初代様も八つの目を持つ白き大蛇へと変化した。
「光の枝よ、我が命に従い、彼の者の性を喰らえ」
「フォォォォォォォォォォォォォォッ!」
白き大蛇が咆哮を上げる。するとオイフェから光の粒が発せられ、それは光の枝に吸収されていった。要はオイフェの性別を食っているのである。
俺は椅子によじ登りオイフェのパオーン様を観察する。すると、見る見るうちにパオーン様は縮んでゆき、やがて消滅してしまった。
後には何も残っておらず、平らな股間がそこにあるだけであった。
「ここからだな」
『えぇ、修復力が働くわ』
その時、オイフェが身じろぎし始めた。ビクンビクンと身体を震わせる度に喘ぎ声を発する。最初こそ男性の声であったものの、やがてその声は女性の物へと変化し始める。
「おいおい、まじで女に変化していってるぞ?」
「体の線も丸くなってゆきますよ」
「おっぱい!」
「くびれ!」
「ケツ!」
「あらまぁ、見慣れた部分が出来上がったわね」
俺たちが見守る中、オイフェは立派な女性へと変化を果たしたのであった。実験は成功である。
かつては中途半端な男少女であったオイフェは、今や超美少女へと変貌を果たした。
ピンク色の服も今の彼女であれば違和感なく着こなせている。本人は嬉しさと戸惑いで少しばかり混乱しているようだが、この程度であれば問題はないだろう。
「ふきゅん、思ったよりもスムーズに修復力が働いたな。チユーズ」
『ひゃあ』『しごとだ』『まかせろ』『まかせろ』
しっかりとチユーズにオイフェの体内を確認してもらう。結果は文句なしの合格だった。
「そうね。性別無し、あるいは雌雄同体の可能性もあったけど」
白き大蛇から人の姿に戻った初代様はさらりと、とんでもない発言をした。
「ふきゅん、やっぱり、それはランダムなのか」
「えぇ、でも、本人の強い意志は反映されるのよ。特に魂の叫びはね」
「つまり、オイフェちゃんはなるべくして女性になった、と?」
「そういうことね。でも、これは基本的に一回こっきりよ。次は修復力も容赦しないでしょうしね」
そう言い残し初代様は魂の中へと還っていった。きっと、にゃんにゃんの続きをするつもりであろう。末永く爆ぜろ。
修復力とは、即ち世界が歪みを正そうとする行為の事を指す。
それは次元の歪みであったり、壊れたオゾン層の修復だったりもする。
また修復力は初期段階に発生するものであり、この段階で修復されなかった場合、世界は「仕方がないね」とかいって仕事をボイコットし、この状態は普通だから俺知らね、と不貞腐れて寝てしまうのだ。
だが、修復力事態も結構いい加減であり、破損したもののカテゴリー内のいずれかを適当に当てはめる、といったものだ。
それでいいのか……修復力よ? 『これでいいのだ』 ……さいですか。
俺は圧倒的な修復力のいい加減さに白目痙攣状態になった。
「クスクス、可愛い娘になったものねぇ。大したものだわ」
「え? ちょっと、その?」
ユウユウ閣下がオイフェちゃんの服を引っぺがし彼女を抱きかかえた。
「ちょっと、味見してくるわ」
「ヤツを止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
こうして、第一回【誠司郎、君、ちゃん会議】はぐだぐだなまま終わりを迎えてしまったのであった。
折角、女性になったのにレズに目覚めたオイフェちゃんは鳴いていい。もとい、泣いていい。ふきゅん。




