448食目 行く手を阻む者
遂に到達した獄炎の迷宮地下六十階。だが、その最初の一歩で俺たちは即座に地下五十九階へとバックステッポゥ! するハメになってしまった。
「うわっちゃちゃちゃちゃっ! なんだこれっ!? 熱過ぎて下に降りられないぞ!!」
「臭いもきついわ……鼻が良い私じゃ耐えられないかも」
「ふきゅん、グーヤの実の効果は継続中なんだぜ。という事は、ここから先はアスラムの実じゃないとダメだってことか」
地下六十階はまさに別次元の熱であったのだ。グーヤの実の冷却効果をプークスクスと笑い飛ばしてしまうほどに。
さて、これは困ったことになった。俺は輝夜と協力してグーヤの実を桃力と魔力のある限り生産することができる。だが、その上位種であるアスラムの実は無理だ。そればかりは氷の迷宮に生えているアスラムの大樹から、いただいてこなければならない。
現在、手持ちのアスラムの実は五十個ほどしかない。つまり、全員に渡してしまうと、全てなくなってしまう。
この地下六十階がぶっぱなしている熱気は異常だ。たとえアスラムの実であっても、その効果が制限時間きっちりまで続くとは限らない。したがって、一人につき二個、もしくは三個ほどの予備を持たせたいところなのだが……。
「エルティナ、確かアスラムの実は残りが少ない、と言っていたね?」
「あぁ、そうなんだぜ。フォク」
俺の返事を聞いたフォクベルトは、スッと人差し指で眼鏡の位置を調整した。その際に眼鏡がギラリと輝いたのは錯覚ではないだろう。
間違いない、彼の中にいる、もう一人のフォクベルトが表に出てきたのだ。これは一波乱ありそうだぜ。
「よし、地下六十階に降りるのは十人とする。人選は僕がおこなう。エドワード様はその間、残った皆をよろしくお願いします」
「ふむ……アスラムの実が少ないのであれば、その方法しかないだろう。その分、危険性が増すことになるから人選は慎重に頼むよ、フォクベルト」
「心得ております、殿下」
思案に思案を重ねた結果、フォクベルトはガンズロック、ライオット、ヒュリティア、リンダ、俺、といった珍獣保護パーティーに加え、キュウトとモルティーナ、ダナン、ララァを選出したのである。
キュウトとララァ、モルティーナの選出はだいたい理解できる。だが、何故ダナンが選ばれたのか、これが分からない。
彼の戦闘能力はクソザコナメクジだし、魔法が得意というわけでもない。桃仙術の初歩が少しばかり使えるだけである。
それに、彼はソウルリンクの中継地点としての役目があるので、基本的に安全な場所に居てほしいのだが……。
「エルティナ、皆にアスラムの実を」
「ほいきた。アスラムの実だ、受け取ったら一つ、むしゃりといってくれ」
俺は選出されたメンバーにアスラムの実を五つずつ手渡した。これでアスラムの実はすっからかんだ。ここの探索が終了したら補充しに行くことにしよう。アスラムの実は神級食材なので、プルルの分もついでにもらっておかなければ。
俺たち選抜メンバーは獄炎の迷宮地下六十階へ続く階段を慎重に下っていった。流石はアスラムの実だ、なんともないぜ! と、どこかの重装甲水陸両用ロボットのパイロットの気分に浸りつつも遂に地下六十階に侵入を果たした。
「これは酷い」
俺は思わずそう呟いた。きっと皆も同じ思いであっただろう。そこは一面、マグマだったのだ。地面もマグマ、壁もマグマ、天井もマグマである。
この有様には、もう一人のフォクベルトもこっそりと帰ってしまったようで、いつもの彼に戻ってしまっていた。俺たちはまさに、出鼻を挫かれた、といった状況だ。
こんなの、どうやって進めばいいんだよ。ふぁっきゅん。
アスラムの実は強力な冷却効果があるのだが、流石にマグマに入るとアウトである。即座に蒸発して死に絶えてしまうことだろう。
このどうにもできない光景に呆然としていた俺たちであったが、この状況であっても冷静であったヒュリティアが、彼女の感じた違和感を訴えてきたのである。
「……おかしいわ、あの壁を見て。マグマが下から上へあがってる」
「確かに上がっているね。なるほど、カラクリが読めてきたぞ。あの溶岩はモンスターだ」
フォクベルトが言うには、今俺達が見ている溶岩全てがモンスターだというのだ。確かに下から上に上がる溶岩なんて噴火の時にしか見られない。こんなに緩やかに上へ昇るわけがないのだ。
「……ききき……『マグマゼリー』だって……」
ララァが〈ステート〉を使用してマグマの正体を突き止めた。
彼女の〈ステート〉の練度は凄まじい。学校に入る前から怪奇現象を追い求めていた彼女は、まず相手の能力が分かる特殊魔法〈ステート〉を会得した。それ以来、何かあれば必ず〈ステート〉を発動させてきたのだという。
才能もあったのだろうが、その結果、彼女に判別できないものは、殆どなくなってしまったのだという。そのことにララァは不満を漏らしているが、自業自得なので俺からは何も言えない。
ちなみに、例外として俺のステータスは見れないらしい。何故か全ての項目に『ふきゅん』の文字が羅列しているだけなのだそうだ。なにそれこわい。
「むぅ……あれはマグマゼリー!」
「ふきゅん、知っているのか? ダナン!」
ここで影の薄いダナンが必死のアピールを敢行してきた。心優しい俺たちは、彼のうんちくに耳を傾けることにする。まともな説明だといいのだが。
「フレイムゼリーの上位種であり、その身に流れるマグマは鉄をも容易に溶かす、とされているが実はその身は溶岩ではなく超高温のゼリーである……って辞典に書いてある」
「辞典かよ。というか、モンスター辞典なんて持ってたのか」
ダナンが手にしているのは、なんともボロくてカビ臭そうな黒い辞典であった。こう見えても俺は読書家であり、聖女の権限を濫用してフィリミシア城の書物庫へ読書通いをしていたりする。
そこには世界各地から集められたという希少な本が沢山あった。もちろんモンスター辞典なるものも多数存在していたが、ダナンが持っているような辞典は見たことがない。それにあそこまで分厚くはなかった。
「へへっ、俺の祖父さんから譲り受けた魔法の辞典さ。遭遇したモンスターの情報を自動的に書き記してくれる本でな、モンスターに出会えば出会うだけ、こうして分厚くなってゆくって仕組みさ」
「へぇ、それじゃあ、ジェフト家の家宝みたいなもんか?」
「そんなところかな?」
得気な顔をするダナンであったが、褒められるべきはモンスター辞典であることに気が付いていない。そんな彼に俺たちは優しい眼差しを送った。
「ダナン、もっと詳しい情報は書かれていませんか?」
「あぁ、いいぜ。ここだったかな……あった、あった」
「相変わらず、一発で探し当てますね。たいしたものです」
ここでフォクベルトがもっと情報はないかダナンに訊ねた。するとダナンはモンスター辞典を無造作に開き、しおりも何も挟めていないというのに、一発でマグマゼリーの情報が載っているページを開いたではないか。
地味に凄い能力だ。便利なので俺も是非とも習得したい。
「ん? ちょっと待ってくれ。あぁ、今、情報が更新された。一匹、一匹の体温は百度程度だが、寄り集まって身体を付け合ったマグマゼリーは超高温を発するようになる、だそうだ」
「ふむ……なら継続して冷却する魔法か攻撃方法があれば、もしかすると倒せる可能性があるな。問題はその魔法があるかどうかだが……」
「きゅおん、中級攻撃魔法〈アイスチェイン〉がそうだな。でも、俺はまだ習得してないぜ」
「あー、あれかぁ。難しいよね」
水属性中級攻撃魔法〈アイスチェイン〉。大気中、あるいは手持ちの水を利用して氷の鎖を作り出し、対象を拘束する魔法だ。
拘束された対象は冷気による継続ダメージが加えられ、徐々に身体を凍らされてゆく。最終的には完全に凍らされて鎖によって粉々に粉砕されてしまうのだ。結構、怖い魔法である。
とても強力な魔法ではあるが習得が難しく、なかなか使い手がいないのが現状だ。アルのおっさん先生はこの魔法をホイホイ使ってみせるが、そんなことができるのは彼くらいなものである。
後少しでゲルロイドが物にできるとは言っていたが、ここでそれを待ってもいられない。この面子、そして現状でなんとかするしかないのだ。
「ふきゅん、どうしたものか……はっ!?」
ここで俺はティンときた。俺一人では無理だが輝夜とでならば可能なあの技がある。そしてチゲが放った、あのオナラの原理を応用すればいけるかもしれない。よし、やってみよう。
「皆、ちょっと離れてくれ。試したいことがある」
「え? えぇ、構いませんが」
皆が離れたことを確認した俺は輝夜に大量の桃力を送り込み力ある言葉を放った。
「凍れる戒めの茨!!」
唯一、地面が見えている箇所から大量の氷の茨が生まれ、マグマゼリーに向かって伸びてゆく。そして絡み付いてゆくのだが、その全てがことごとく溶けて蒸発してしまった。桃力で強化したというのに効果を発揮しなかったのである。せめて、桃先輩と身魂融合できていれば結果は違ったのだろうが……。
「ふきゅん、ダメだったか」
「いえ、そうでもありませんよ? ライオットはマグマゼリーに獅子咆哮波を放って吹き飛ばしてください。その後にエルティナは先ほどの技を。残りの者たちは魔法障壁を形成して防御を」
「吹き飛ばすって……ははぁん、なるほどな。吹き飛ばして分離したマグマゼリーを仕留めてゆく作戦か」
「そうです、ダナン。貴方の辞典にはそう書き記されていたはず。その情報が正しければ、この方法でなんとかなるはずですよ」
流石はフォクベルトだ。僅かな情報でこのような作戦を思い付くとは。ダナンもすぐに理解できる点には高く評価せざるを得ない。惜しむらくは戦闘能力が殆どない点であろう。
「……私、何もできないわ」
「ヒーちゃんは後ろで踊っていてくれ」
「……踊るって……誰も見ることはできないじゃないの」
「ヒーちゃんの踊りは見てなくても効果があることは体験済みなのだぁ」
そう、彼女の踊りは間違いなく俺たちに力を与える。それはミョラムの森で確認済みだ。見なくてもいいのだ、彼女の踊りは。ヒュリティアが心を籠めて踊ってくれるだけで、その心は俺たちに届く。
でも、じっくり見ていたい、という自分がいることは確かなことであった。
「……わかった。がんばる」
そういうとヒュリティアは踊りだそうとした。だが、俺は肝心な事を忘れていたのである。
「まった! ヒーちゃん、制服を忘れているんだぜぇ」
「……制服? あぁ……でも、アレを着ないでも踊りの効果は変わらないわ」
「俺たちのやる気が変わる」
「……」
そう、やはり彼女が踊る時は半裸でなくてはならない。俺は〈フリースペース〉より、彼女の衣装を取り出し彼女に手渡した。すると、彼女は階段を上り地下五十九階と六十階の中間地点で着替えをおこない帰ってきた。
「やはり、ヒーちゃんが踊る時はその姿じゃないとな」
「激しく同意だ」
「……ききき……ダナン……そんなに……あの姿が良いなら……私も着るわ……」
「えっ、ララァが!? いや、ちょっとまて! おまえが着たら確実に違う意味の踊り子になる!」
ダナンが言うように、発育が良過ぎるララァがヒュリティアのような半裸状態になったら確実に全身にモザイクを入れなくてはならなくなるだろう。それほどまでに彼女の半裸はエロくて危険だ。絶対に全裸よりもエロい。
「……踊ってもいいのかしら?」
「「あっはい」」
俺たちがこのようなやり取りをしていても、ヒュリティアはいつもどおりであった。まじクール。
そして、彼女の舞が始まった。情熱的であり、そして穏やかでもある不思議な踊りだ。静と動が入り混じった不思議な舞が始まると、徐々に身体に力が湧いてきたことを認識する。
「ヒュリティアの舞をじっくり見られないのが残念ですが、そろそろ頃合いでしょう。ライオット、エルティナ、準備はいいですか?」
「あぁ、任せてくれ。強力なヤツをぶち込んでやる」
「こっちも準備万端だ。いつでもいけるぜ」
「それでは……始めましょう。ライオット、お願いします!」
「うっしゃっ! 喰らえ!〈獅子咆哮波〉!!」
ライオットの構えた拳に凝縮された膨大な闘気が解き放たれた。その闘気は獅子の姿を形成し、マグマの振りをするちょこざいなマグマゼリーに襲いかかる。そして呆気なく命中し、溶岩のようなゼリーたちは爆ぜた闘気の獅子によって吹き飛ばされてしまう。
ここからは俺たちの出番だ。輝夜と力を合わせて再び〈凍れる戒めの茨〉を発動させ、悲し気に宙を舞うマグマゼリーを『げっちゅ』する。
すると、たちまちの内にマグマゼリーは凍り付き氷の茨に囚われてしまったではないか。うん、これならいける!
「やったぜ。マグマゼリーは後で食べてみよう。フレイムゼリーも食えたから、たぶん食えるはず」
「おまえは相変わらず歪みねぇな」
「それほどでもない」
ダナンに対して謙虚な態度を見せ付け、大人の余裕をアピールする。目的地に辿り着くためとはいえ、命を奪った者に対しては謙虚な姿勢を見せなければならない。そして、無駄にしてはいけないのだ。その命を。
ある程度、大きなマグマゼリーは氷の茨でキャッチできるが、流石に細か過ぎる破片まではカバーはできず、こちらにまで飛んできてしまう。そこは残ったメンバーで魔法障壁を何枚も張って防ぐ。俺の得意とする〈多重魔法障壁〉を数人掛かりで形成したのである。
それは見事に高温のマグマゼリーの破片を防ぎきったのであった。
「よし、なんとかなりそうですね。魔力も減るどころか増してゆくような感じです」
「ヒーちゃんの〈月明かりの舞〉の効果なんだぜ。もう暫くすると身体がピカーって光り出すぞ」
「へぇ、俺は『気』を使ってるけど、気も回復していってる感じがするぞ」
どうやらヒュリティアの〈月明かりの舞〉は節操がないようである。失ったエネルギーを何でもかんでも回復させる能力があるようだ。ただし、その速度はあくまでゆったりと、そして穏やかだ。まるで彼女の舞そのものと言えようか。
「今のでマグマゼリーがだいぶバラけたみてぇだなぁ。熱量も下がったんじゃねぇかぁ?」
「うん、さっきよりも熱さが和らいだ気がするよ、ガンちゃん」
「リンダの言うとおりだぜ、俺たちも〈アイスボルト〉で支援するか?」
確かにリンダの言うとおり周囲の熱量がガクッと落ちた。きっとこの異常な熱量は、溜まりに溜まっていた、とんでもない数のマグマゼリーが放っていたのだろう。ここはキュウトの言うとおり早期決着を狙うべきだと思う。
「いえ、数が減ったとはいえ、マグマゼリーはいまだ危険な熱を持っています。焦っては事を仕損じるといいますし、ここは安全を取って慎重に行きましょう。殲滅戦はもう少し後でおこないます」
だがフォクベルトは慎重だった。それはきっと損傷した魔法障壁を確認したからだろう。彼が目視している魔法障壁は五十層にも及ぶ分厚いものであった。だが、よく見ると極一部の箇所が薄皮一枚で残っている状態だった。よくこんな細かい部分まで気が回るものだ、と俺は感心することになる。
「わっ!? よく見たら魔法障壁に穴が開きそうになってる! あんなに、がんばって張ったのに!」
「仕方ねぇさぁ、俺たちの魔力でよぉ、エルの魔法障壁を再現するなんざぁ、無理があらぁな」
それでもこの〈多重魔法障壁〉は見事な物だと感心するがどこもおかしくはない。もう少し早く展開できるようになれば実戦でも通用するはずだ。まぁ、それ相応の魔力を消費することになるけどな。
「では、慎重にそして丁寧にマグマゼリーの処理をおこないましょう。手順は先ほどと同じです。エルティナとライオットには負担を掛けますがよろしくお願いします」
「おう、任せておけ!」
「ふっきゅんきゅんきゅん……大船に乗ったつもりでいるんだぁ」
マグマゼリーの排除が再び始まった。灼熱の大地を駆ける輝く獅子、無慈悲な凍れる茨が溶岩もどきを次々に蹂躙してゆく。ちょこざいにも反撃してくるマグマゼリーもいたが、それらの攻撃は〈多重魔法障壁〉を順次、張り直してゆくことで防御に成功している。
「そろそろ頃合いですね。キュウトは〈アイスボルト〉の一斉掃射でエルティナたちの援護を。残りは〈魔法障壁〉の維持に努めてください」
「きゅおん、やっと出番か! 防御ばかりで鬱憤が溜まっていたんだ、派手にイクぜぇ!」
その言葉が言い終わると同時に、とんでもない量の氷の矢が前方のマグマゼリーに飛来した。このただごとではない量の氷の矢に俺たちは戦慄することになる。とても一人が放てる量を遥かに凌駕しているからだ。〈フリースペース〉内の水もかなり消費したことだろう。
「おいおい、キュウト。そんなに飛ばして平気なのか? いくら魔力が回復してゆくとはいえ、急には回復しないんだぞ?」
あまりに飛ばすキュウトを心配したのかダナンが彼女を戒めるも、彼女はまったく平気そうな表情であった。そして蕩けるような笑顔を見せて種明かしをしたのである。
「はい、種明かし」
そういうと彼女は胸をはだけた。当然、豊満な乳房が姿を……。
「ぷるぷる、種です。ぷるぷる」
そこから現れたのはキュウトのブラジャー役を一手に引き受けているゲルロイドであったのだ。すっかり忘れていたが、彼らは二人で一人であったのだ。なるほど、これなら膨大な量の氷の矢が放てる理由になる。ゲルロイドも、かなりの量の魔力保有者だしな。
「いやいや、いくらゲルロイド様で隠しているとはいえ、女性がそのようなことをするものではありませんよ?」
「そうそう、ゲルちゃんの身体って透けてるから、先っちょも見えちゃってるよ?」
「マジで?」
「うん、マジマジ。それにしてもキュウトちゃん……乳輪おっきいね!」
「きゅおんっ!?」
リンダの容赦のないガールズトークにキュウトは撃沈された。
うむ、確かにキュウトのピンクは大きい。とはいっても、ララァほどではないから気にしなくてもいいんじゃないのかな?
ララァの乳房は大きいということもあるが、彼女のピンクはマジで大きい。だが、それがいいという人も世の中には大勢いるので、そこまで気にすることもないとは思うが。
「お、俺の行き場のない怒りは、おまえらで晴らさせてもらう! きゅおん! きゅおん!」
これにはマグマゼリーたちもいい迷惑であろう。怒りに任せた〈アイスボルト〉の掃射で溶岩もどきたちは物言わぬ氷のオブジェと化した。これは酷い。
「取り敢えずは、お疲れさまでした。かなり気温も低くなりましたね」
「あぁ、でもこの先にマグマゼリーの溜まり場がないと決まったわけじゃない」
「そのエルティナの言うとおりです。引き続き、このメンバーで探索を続行します。各員は状態を確認して万全に整えてください」
こうして、マグマゼリーの群れを排除した俺たちは、獄炎の迷宮地下六十階の本格的な探索を開始することになった。