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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第九章 神級食材を求めて
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419食目 神級食材を求めて

桃師匠から出された修行及びプルルのための食材を獲得するため、

モモガーディアンズ及び関係者を桃先生の大樹にある展望台へと招集した。


大半のメンバーは呼び掛けに応じてくれたが、

一部の者は手の離せない状況にあるという理由でここには来なかった。

しかし、後ほど話を聞くというので、そこまで問題視しないこととする。


集まったメンバーにはプルルの詳しい現状と、

神級の食材の収集の指示があったことを伝えた。

このことについては異論はまったく出なかったので、

続けてそれぞれの役割分担を決める相談に移行する。


基本的に身体能力に劣るものは情報の収集を頼むことにした。

グリシーヌ、プリエナ、モルティーナがそれに当たる。

例外としてダナンは情報収集の他に神級の食材と思われるものが

露店に並んでいないかを確認する役目を頼んだ。


「フィリミシアはさまざまな国から珍しい素材が集まってくるからな。

 神級の食材が普通に並べられていてもおかしくはない。

 それらしい物があったら買い叩いておくぜ」


「あぁ、頼む、ダナン」


こういう時は非常に頼りになる男である。

実は脳筋ばかりの我がクラスにおいて

交渉のできるダナンは貴重な存在ではあるが、

いかんせん舞い込んでくる厄介ごとの大半は荒事であるので、

彼の影が薄くなることが否めない。

しかし、彼が居ないと困るのも確かなことであった。


続いて情報収集と実際に食材の獲得に向かうチームを結成する。

といっても基本となる俺とメルシェ委員長の他に

面子を少しばかり加える形となる。

俺とメルシェ委員長だけは修行も兼ねているので固定メンバーとなるのだ。

後は現地に向かう際に向き不向きが発生するだろうから、

それに合わせて編成をおこなうということにした。


ただ、メルシェ委員長には、もれなくフォルテ副委員長がついてくる。

よってこの三人が固定メンバーとなるだろう。


また、プルルだが、彼女は限られた食物しか口にできないので

フィリミシアから離れることは難しい。

よって、残念ではあるが町に待機という形になった。


これはどうしてかというと、彼女は普通の水すら飲むことが許されないのだ。

普通の水は神級の食材ではないということで、

桃先生の大樹からしみ出す湧き水しか飲むことは許されない。

であるからして彼女は今回の冒険には不参加と言うことになる。


それに出歩けばさまざまな誘惑が彼女に襲い掛かってくることは明白なので、

町で大人しく待機していることが最も安全と言えよう。

桃師匠も彼女に目を光らせていてくれるしな。


だいたいが決定したところで

神級の食材についての情報を知っているか話し合うこととなった。

フィリミシア出身者は

それほどの情報を持っていないであろことは予想できている。

よって、期待を寄せるのは留学生達の情報だ。


「ううむ、情報でござりますか? 

 確かイズルヒには古の神々がもたらした『米』があるという話がござりますが、

 おとぎ話に出てくるような話でござるゆえ信憑性の方は……」


「ミリタナス神聖国には『呪われた野菜』の噂がございますわ、エル様」


「ドロバンス帝国にそんな噂はあったか?」


「ガイリンクード君~ドロバンス帝国にも~あ~りますよ~?

 砂漠を泳ぐ~『怪魚』の~伝説が~あります~うふふ~」


「妖精の里に『星の卵』を産む鳥がいるって伝説があったような」


「てけり・り!」


やはり各国には謳われし食材の情報があるようだ。

ただし、ショゴスの言う食材は

明らかにヤヴァイ物だと推測できるので除外とする。


「神級かどうかは知らねぇけど、俺も一つ心当たりがあるぜ。

 ここに来る以前にミリタナス神聖国で親父と一緒に食べた記憶があるんだ」


「ふきゅん、そういえばライオットの生まれはミリタナス神聖国だったな」


意外なことにライオットも食材の情報を持っていた。

それはとある洞窟で食したという『キノコ』だという。

それはそれは美味なるキノコで噛みしめると、

この世の物とは思えない旨味成分が口の中に広がり、

まるで夢の中にいるような気分に浸ることができたという。


これだけ聞くとヤヴァいキノコだと考えるのが妥当であるが、

ライオットが言うには中毒性はないらしく、

更には修行で付いた傷がいつの間にか消えていたそうだ。

傷はキノコを食べる前にはあって食べた後には消えていたという話だ。


食べるだけで傷が消えるだなんて聞いたことがない。

これはきっと神級の食材に違いないだろう。期待が持てそうだ。


尚、外見はシイタケのようなキノコであったそうだ。


「さて、何から探してゆこうか? プルルは何か食べたい物でもあるか?」


そうプルルに問うと彼女は目を輝かせて言った。


「僕は……『親子丼』が食べたいよ」


「ふきゅん……となると最低でも『卵』『ご飯』『鶏もも肉』『玉ねぎ』

『三つ葉』『醤油』『みりん』『酒』『砂糖』『紅ショウガ』が必要になるな」


「三つ葉と紅ショウガは省けるんじゃないの?」


「甘いな、アマンダ。これがあるのとないのでは雲泥の差がでる。

 どうせ食べるんなら『神級の親子丼』を作った方が良いだろ?」


とは言ったものの、彼女が言うとおり妥協する部分は出てくるのかもしれない。

神級の食材が都合良く見つかるとは思っていないからだ。

だが、出来うる限りそれに近付けることはできるはず。


何よりも俺もクッソ美味い『親子丼』を食べてみたい。


「うし、皆、最終目標は『親子丼』を作ることだ。

 ただし、神級の食材であるなら残さず回収する。

 どんな些細な情報でも構わないから集めてほしい。

 以上、早速行動開始だぁ!」


この日から俺達『即席食材ハンター』の活動が始まった。



◆◆◆



即席食材ハンターの活動開始から三日ほど経過したお昼時のことだ。

ヒーラー協会食堂にて、家臣のザインから

『伝説の米』の情報を聞くことができた。


「御屋形様、どうやらイズルヒに

 伝説の米が存在していたことは確かなようでござる。

 それを伝えていた一族は残念ながら家が途絶えてしまったようでござるが、

 分家筋の御老体が僅かばかりの情報を持っているとか……」


「ほぅ……流石に見事だと感心するがどこもおかしくはない。

 数日の暇をくれと言ってきた時には、

 ほんの僅かにビビったが俺の決断は間違っていなかった。ザイン、でかしたぞ」


「お褒めに預かり光栄でござる」


どうやら最初の目的地が決定したようだ。

食材ハンターの最初の目的地は『イズルヒ』とする!


「お待ちどうさま、『特製焼きうどん』ですよ!」


「ふきゅん、ありがとう、エチルさん」


白い大皿に山盛りになった茶色い焼きうどんがとてもよく映える。

その山の頂には白と黄色のコントラストが美しい

半熟目玉焼きがその存在感を示していた。

更には紅ショウガの赤と青海苔の緑が焼きうどんを艶やかに飾り立てている。

やはり焼きうどんはこうでなくてはいけないな。


「……プルルは焼きうどんも食べれないんだったな」


「御屋形様、一刻も早く食材を見つけましょうぞ」


「そうだな、それがプルルのためになるもんな!

 そうとなれば、腹を満たしてから部隊編成だ!

 腹が減っては戦はできぬ、と言うしな!!」


「その意気でござります、御屋形様」


俺とザインは焼きうどんを作ってくれたエチルさんと

食材達に感謝を捧げ食事を開始した。

まずは焼きうどんのみを少量小皿に移して味を堪能する。

目玉焼きの黄身を崩すのはそれからでも遅くはない。


安心と信頼の美味さだった。

焼きそばとは違う太い麺が噛みしめる喜びを与えてくれる。

モチモチとした麺に絡みつくソースの焦げた香りと味。

それが食欲を刺激してもっと食わせろと要求してくるも、

これを鋼の理性でねじ伏せる。


続けて焼きうどんの山頂にある目玉焼きを崩す。

とろりとした半熟の黄身が流れ出し茶色い焼きうどんを黄金に染め上げた。

それを白身と一緒に口に運び咀嚼する。


あぁ……堪らないんじゃあ。


大皿といっても育ち盛りの俺とザインでは少ないくらいだ。

ほんのわずかな時間でペロリとたいらげてしまった。

量的には大人三人前といったところであろうか。

まぁ、後で三時のおやつを食べる予定であるので今はこれでいいだろう。


食べ終えた食器を下げて食堂を後にし展望台へと向かう。

イズルヒに向かうメンバーを選定する為だ。


「回復は俺、魔法はメルシェ委員長だろ、フォルテ副委員長は万能型と……。

 前衛はザインか……もう一人前衛か後衛がほしいな」


「そうでござるな、それならば前衛がよろしいかと」


「ほほう、それならば、わらわが参加してしんぜよう」


その声は俺たちの背後から聞こえてきた。

振り返ると美しい黒髪の姫『咲爛』とその従者である景虎が立っていたのである。

どうやら話に夢中になり過ぎていて彼女らの接近に気が付かなかったようだ。


「ふきゅん、どうしたんだ咲爛? わざわざこんなところにまで」


「なに、父上から『醤油』の話を聞いてな。

 恐らく神級の食材であろうと思われるから報告をしに参ったのじゃ」


これはありがたい、もしも米と醤油が手に入れば親子丼にグッと近づく上に

プルルの食のレパートリーが増える。

なんとしても、この二つを手に入れたいところだ。


「それに、父上が顔を見せよとうるさくての」


「ふきゅん、パパンはどこの国でも一緒だな」


咲爛は長い黒髪を細い指に絡めて恥ずかしげに事情を説明した。

本当は彼女の方が父親に会いたいのかも知れない。

当然、そのことは口には出さないが。


取り敢えずはこのメンバーでイズルヒに向かうことにした。

メルシェ委員長とフォルテ副委員長に〈テレパス〉で連絡を入れて

フィリミシア城に設置されている長距離転移魔法装置〈テレポーター〉で

イズルヒに向かう予定である。


王様の許可を得ているので行きは無料であるが、

帰りは向こう側の決まりに従うため有料になる可能性がある。

お金を出すのは俺となるので大人数で行けないのが難しいところだ。


メルシェ委員長達よりも一足先にフィリミシア城に到着したので

王様にイズルヒに向かう報告と挨拶をしておくことにした。

その間にメルシェ委員長達も到着することだろう。


「……と言うわけで、イズルヒに行ってくるんだぜ」


「うむ、ノブナガ殿によろしく伝えてくれ。それと……」


「ふっきゅんきゅんきゅん……わかってるんだぜ」


俺と王様は秘密の取引をおこなった。

まぁ、モンティスト財務大臣とホウディック防衛大臣も普通にいるし、

会話内容も筒抜けであるので本当に秘密なのかと聞かれると

「秘密といったな……アレは嘘だ」と答えるしかない。


王様に挨拶を終えてテレポーター設置場所に向かうと

メルシェ委員長とフォルテ副委員長が既に到着しており俺達を待っていた。


「随分と急な話ですね、エルティナさん。

 イズルヒに出発するのは明日でもよかったのでは?」


「いや、なんでも咲爛のパパンがごちそうを用意してくれているらしい。

 だったら、是が非でも行かなくてはならないだろう?」


「あぁ、そう言う理由だったんだね、納得したよ」


流石はクラスを纏めるフォルテ副委員長である。

この説明で納得し出発の準備を整えていた。

ちなみにメルシェ委員長はただの飾りである。


実務の全ては彼がおこなっていると言っても過言ではない。

普段は全く目立たないフォルテ副委員長だが、

彼こそが影の支配者であることはクラス内では周知のことだ。


「本当にルドルフ殿はよろしいので?」


「あぁ、なんでも、いつ産まれてもおかしくはないそうだ。

 フィリミシアの周辺で食材を探すならまだしも、

 遠く離れた地で探すのであれば、すぐに駆けつけることができないからな。

 ルリさんも心細いだろうし残れって命令しておいた」


「左様でござったか……で、殿下はどのような御用件で?」


「おや、バレてしまったか。

 この〈カムフラージュ〉には結構自信があったのだけど」


ザインが見つめる空間が突如として歪みそこから金髪碧眼の美少年が姿を現した。

このラングステン王国第一王位継承者エドワード・ラ・ラングステンである。

どうやら特殊魔法〈カムフラージュ〉で景色を歪めて身を隠していたようだ。


「バレたって……バレなかったら、こっそりついてくるつもりだったのか?」


「うん」


まったくもって、とんでもない王子様である。

自分の立場をわかっているのだろうか?


「おいぃ……エドは自分の立場がわかっ……」


「聖女」


ぱた……俺はこの大きなお耳をそっと閉じた。


「俺には何も聞こえないなぁ」


「聞こえないふりをしてもダメだよ、エル」


「ふきゅーん、ふきゅーん!!」


エドワードは極めて邪悪なことに俺の大きな耳を

その手で強引に持ち上げてしまった。

これは第一級の犯罪行為に相当する!


それに前から耳は敏感な部分だって言ってんだるるぉ!?

そんなにテクニカルに触られたらイケナイ珍獣になっちまうゾ!


「さて、そう言うわけでそろそろ行こうか」


「ふむ、まぁ一人くらい増えても問題なかろう。

 ただし、あくまでわらわの級友として紹介するからそのつもりでの」


俺の意見など聞くつもりもないのか、

咲爛とエドワードは二人で勝手に話を進めてサッサと転移してしまった。


おまえらな……。


「咲爛様! お待ちをっ!」「ぴよっ!」


その後を慌てて追いかける従者の景虎と肩に載るひよこ忍者のフライパン太郎。

彼は不思議なことにいつまで経ってもひよこのままであった。

まぁ、フライパンから生まれた不思議パワーの塊だから気にしたら負けだと思う。


「なんだか前途多難な気がしてきたんだぜ」


「御屋形様、何を今更。いつものことではござらぬか」


そう言うザインの顔が頼もしく感じる。

頼もしくなった、あるいは慣れてしまったともいう。

だが、彼が成長したことに間違いない。素直に喜ぶことにしよう。


「んじゃ、俺達もイズルヒに向かおうか」


先に行ってしまった咲爛達を追う形で俺達もテレポーターでイズルヒに転移した。

向かう先ではどのような出来事が待っているのだろうか?

期待と不安で胸がいっぱいになる俺であった。


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