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闇の王子、影の王子  作者: チェル
二章───町の少年R編
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「ノウのいた村」




全身をびっしょりと濡らす大雨の降るなか、俺は目的地へ辿り着いた。


「…久しぶりだなぁ。当時の村人、生き残ってないといいけど。」


そう呟いて、俺は村を囲っている木製の、組み立てただけの塀を飛び越えた。




──────────────



あれは、ここに来てまだ間もない頃。


名前も覚えていないし、どこから来たのかも覚えていない。そうして、オロオロとしたりぼんやりとしたりしていた時期だった。

ひとまず、村の中心辺りにあった役場の空き部屋を借りて、そこで保護されることになった。


ところが数日後、思わぬ訪問者がいたのだ。



「君の名前は何?どこから来たの?」



と、こんなことを一人の村の女の子が、俺に向かって尋ねてきたのだ。その時はまだ意識があやふやだったから、なんと答えていいのか返答に迷った。


「えっと…。その…。」


「おいおい、そいつが困ってるじゃないかレイメイ。記憶喪失だとかで、大人たちも聞いたけど分からないんだ。」


いきなりの助け船がきた。


一人の男の子だった。


「そうなの?それはごめんなさい…。でもフゥエン、遊ぶときに名前がないと呼びにくいわよ!」


え、仲良くなる気満々ですか。


「うーん。名前、かぁ…。」


どうにかして思い出さないと、これじゃあ帰るのも無理になってしまう。というか、俺の家族とかに探してもらえなくなる。


ところが深く考えた結果、思い出せなかった。


ふと、男の子の方がなにかを思い付いたようだ。


名前(ノー・ネーム)がない…。ノゥ、ネィム…。“ノウ”っていうのはどうだ!?」



俺の中に、何かがフワッと生まれた瞬間だった。




「うん、ノウ。俺のことはノウって呼んでよ。」





──────────────




「ノウ、か。俺に名前をつけたあの二人、まだ生きているのかな。」



薄暗く大雨の降るなか、俺は淀んだ気配を辿って、ひたすらに歩きながらそう呟いたのだった。




雨は一向に止みそうにはなかった。

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