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闇の王子、影の王子  作者: チェル
一章──奔走、影の王子編
19/79

「やさしさと、あたたかさと」






もうだめだ。ヤバい。


俺は現在、自室の床で倒れている。

最近よくこうして転がっているけど、好きでしている訳じゃないんだよ。


理由はもちろん。

お腹がすいて…力がでない!


この王家の決まりなのか何なのか、食事は各自室でとっている。そんなことで、家族の絆は保てるのだろうか?


よし、今度王と一緒に食事でもしよう。王は悪い人には見えなかったし、前の王子よりは仲良くなれるだろう。



そんな平和な事を考えていた俺だが、考えることにも体力は使うものだ、さらに力が出なくなってきた。


「あー、ヤバい…。この形、留まれなくなってきそう。」


つまり、王子の姿に留まれなくなってきそうということで。


そこで誰かにばったり会えば、俺の楽しかった、人間ふれあい期間は終ってしまうわけですよ。

まだ2週間そこらなのに。



ふと、床に倒れている俺の耳に、徐々に近づく足音があった。部屋の前で止まると、激しいノックの音がする。



ま、まさかこのひとは…!



「王子!!生きてますか王子!!」


バーンと扉を激しく開けて飛び込むように入ってきたのは、ランソワおばさんだった。


「王子!何か最近床に倒れてばかりですよ!?しっかりしてください!!ほら、遅いですけど、朝食持ってきましたから!」



何だって!?


ランソワおばさん、救世主!

神だ、神!!



それから最後の力を振り絞り、ガバッと起き上がった俺は、目にも見えないような早さで朝食を食べ尽くした。


テーブルマナーについては多目に見てくれた。


しばらくして一息ついた俺は、ランソワおばさんに心から感謝して言った。


「ランソワおばさん、ホンットにありがとう!おばさんは命の恩人だ!!」


「王子、それはさすがに言い過ぎでは?」


苦笑しながら、おばさんは朝食のあとを片付けている。食べるのに夢中で気づかなかったが、いつもより食器の数が多い気がする。


「それにしても、気づいてよかったわ。私が厨房へ行ったときに、給事の者たちが王子に朝食を、持っていっていなかったのを思い出したようで。」


って言うことは、それまでは完全に俺のことは忘れられていたのか。少しがっかりする。


「ドタバタしていたせいで、私も朝食を食べ損ねてしまったのですよ。」


…あれ?


俺は、あることに気づいた。


もしかして、いつもより食器の数が多かったのは…。


「おばさん、もしかしてお…僕、おばさんの分まで食べたの?」


それだと、おばさんに悪い。

でも、食べたものは返しようがない。


「いいですよ。王子がきっと、お腹を空かせているだろうと思って。それに、もうすぐ昼食ですし。」


ランソワおばさんは優しくにっこりと笑ってくれた。が。


「いいや、僕が気が済まないよ。謝らせて。ごめんね、おばさん。」


その瞬間、俺はおばさんにギュッと抱き締められていた。


素早い…動きが見えなかったよ!


「ら、ランソワおばさん?」


「…このまま。このままの王子でいてください。前までのあなたがしてきたことは、大きな罪かもしれなません。」


たしかに、俺も前王子の性格が悪かったのは知っているけど。


「しかし、これからのあなた次第で、大きく変わってくるでしょう。暖かく、そして優しく。」


「…。そう、かなぁ。」


「はい!そうです。」


始めのうちは、きっとそうだろう。でも、そう簡単にいくとは思えない。


俺が見てきた人間。


優しくもされたこともあったし、一緒に笑い合ったりもした。

働いて、ご飯を食べたりもした。


しかし、人間はやはり変わらない。


俺がうっかり、元の姿を曝した途端。

恐怖に怯える。

追い出す。

傷つける。

殺そうとする。


それでも、俺は人間が好きだから。

近くにいたいんだ。


今、おばさんが抱き付いてきてくれたように、温かさをもらえるなら。


正体がバレても、傷つけられても、殺されかけても。



俺は、この世の全てが無くなる時まで、そんな面白い行動(・・)をする人間を見ていたいんだ。



これだから、化けるのはやめられない。



「ありがとう、ランソワおばさん。」






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