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「ところで、結婚式いつやるの?」
勇者がわくわくした様子で聞いてくる。
「4ヵ月後くらいじゃないか?」
「ええ!?」
「はあ!?」
アルがさらりと言った言葉に二人は驚いて声をあげる。
すぐに結婚式は終わると思っていたのだ。今は夏期休暇だからその間に済ませれば問題ないと思っていたのに…。
「いや、俺はてっきり瑠那ちゃんの結婚式が近日中にあるんじゃないかと思って、帰って来たのに…」
勇者はがくっと膝をついた。
「各国に発表もしたし、彼女が俺の妻であることを知らしめれば大丈夫だろう。あとはそのうち適当に済ませればいいだろう」
「お前っ何てことを!結婚式は女の子の憧れだぞ?質素な結婚式じゃあ一生後悔すんだよ?可愛い妹の結婚式を蔑ろにしたら許さないからな!」
勇者はアルに掴みかかる。
「…………ルーナ、何で黙っているのだ?」
「……………………」
「もしかして、怒っているのか?」
「…………帰る」
「……………………は?」
「地球に帰るって言ってるの。そんな何ヶ月もこちらにいられないわ。それに祖父母のことも気になるし…」
「瑠那ちゃん!俺をおいて帰る気か?」
「ルーナ!王太子妃が不在でいいと思っているのか?」
二人が必死で止めるにもかかわらず、瑠那は無視して歩き出そうとした、が…
瑠那は勇者と王子、二人に両腕を掴まれ、動けなくなってしまった。
「別にいいでしょ?4ヵ月後には帰ってくるって言ってるんだから」
「駄目だ」
瑠那はアルをじとっと睨むがアルはまったく気にしない。
「そんなことを言うなら結婚式まで本気で閉じ込めるぞ?」
い、今さらっと恐ろしいことを言われた気が…
「分かった!ここにいます!…でも、できるだけ早くしてね?」
最後は、可愛らしく頼んでみた。
「…………分かった。善処しよう」
アルはそっぽを向いて答えた。
…もしかして、効果アリ?うっわー、イケメン王子のありえない一面…。意外と女性に耐性ないのか?でも、これは面白いぞ?
瑠那はにやっと笑って顔を背けたままのアルの頬にキスしてみた。
案の定、顔を真っ赤にした。
「…………っ、何やってんだ」
「いや、善処してくれるって言うから、感謝のキス?」
おどけて言ってみせる。
「あー!アルずるいぞ!瑠那ちゃん俺にも…」
…一人蚊帳の外な勇者であった。