6
瑠那は今、入浴も歯磨きも済ませて寝ようと思っていたところだった。
そこに、現れた―――イケメン王太子殿下サマが。
「問題ないだろう?夫婦が一緒に寝て何がおかしい?」
「ありまくりだわ。私、事実上の結婚しか認めたつもりないし」
「…まだ、それを言うか」
はあ、とアルヴィアスは溜め息を吐く。
「いい加減、諦めたらどうだ。離婚は出来ないのだし」
「人間、諦めたら終わりよ。諦めないからこそ奇跡は起きるのよ」
瑠那は拳を握り締めながら言う。
そう、何事も諦めたら終わりだ。離婚は駄目だとしても、この城から抜け出すことはまだ諦めない。今現在、脱走のための計画を着々と練っている。
「大丈夫だ。お前が脱走しないように見張るだけだ。何もしないから、安心して寝ろ」
「脱走って…私、そんなに信用ないの?」
「お前の今までの行動を振り返ってみろ。信用できると言う方がおかしいだろう」
今までしたこと?まだ、授業の脱走くらいしかしてないわよ?たまに、悪戯しかけてみたりしたけど。王子は真っ赤になって怒って、結構可愛かった。
「もういいわ。私、別の部屋で寝るから」
「さっきの話、聞いていたか?俺は、脱走を防ぐためにここにいるんだ。この部屋から出すわけないだろうが」
「え~~」
「文句言うな。さっさと寝るぞ」
アルヴィアスは瑠那の手を引っ張り、寝台の方へと連れて行く。
「半径2メートル以内に近寄らないでね?」
瑠那は微笑みながら言った。
寝台の広さはかなりの広さであるから、二人が接触する心配はないだろう。
…けど、念のため。
「では、お休みなさい、王太子殿下サマ」
寝台の端っこに座り、反対の端っこにいるアルヴィアスに手を振った。
「…その腹の立つ呼び方、いい加減やめろ。アルでいい」
「え~?心を込めて呼んでるのに…」
敬意はこもっていないけど、心はたっぷり詰まっている。…おもに、怒りとか、憎しみとか、恨みとか。
「やめろ。今後一切その呼び方で呼ぶな」
「は~い」
二人ともいそいそと掛け布に潜る。
「………なあ」
「…何?」
「やっぱり、おやすみのキスくらいさせてくれないか?」
横になったまま身体の向きを変えてみると、アルがもう近距離にいた。
「もう、仕方ないわね。アルはお子ちゃまなんだから~」
「黙れ」
ちゅ……と額にキスしたのはアルヴィアスでなく瑠那だった。
「ふふっ、驚いたでしょう?」
瑠那は悪戯っ子のような笑みを浮かべて言う。
アルヴィアスは最初こそ驚いて目を見開いていたものの、突然にやりと笑う。
「そうか…お前がそのつもりなら」
アルヴィアスは、瑠那の上に覆い被さってくる。そして、瑠那の唇に口付けを落とした。
「………」
瑠那は固まったまま無反応だった。
「……どうした?」
「やっぱり、兄様にあなたを殺してもらおうかしら?」
瑠那から恐ろしい言葉が聞こえてきて、アルヴィアスは身体を離した。
「兄には何も言うなよ。あいつは妹が絡むと何をするか分からん」
「大丈夫よ。死ぬ前に止めてあげるから」
「……絶対助けろよ」
大真面目な顔で言うアルヴィアスに瑠那はぷっと吹き出した。
「じゃあ、お休み…………アル」
「ああ…お休み、ルーナ」
二人は結局密着して眠ることとなる。その事実に気付くのは、目が覚めた後である。
王子様の容姿変えました。勇者な兄と容姿がかぶるという大失態。
申し訳ありません。
王子がルーナと呼ぶ件に関して。
瑠那の兄弟は異世界と地球の名前、ふたつ持っています。
瑠那はセレイアの王族として、三つ目の名前も持っていますが。