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「んー…」
目を覚ましてみると、そこは庭園ではなく自分の部屋だった。
「やっと目を覚ましたか」
声を放ったのは王太子だった。
「あ、もしかして運んでくれたのあなた?ありがとう」
「侍女が泣き付いて来たぞ。次から勝手にいなくなるなよ」
「はーい。…ところで、眼鏡は?」
瑠那にとって眼鏡は必要不可欠なものだ。あれがないと生きていけない。
「必要ないだろう。目が悪いわけではないのだろう?」
そう、眼鏡には度が入っていなかった。瑠那は視力はとてもいい。
「そうだけど、私にとっては命の次に大切なものなの!」
「眼鏡をかける必要はない。お前の瞳は、こんなにも美しいのに」
瑠那がはっと気付くと、王子は目の前に立っていた。
アルヴィアスは瑠那の頬に手を添え、瞳を覗き込んでいる。
「………………ん?」
アルヴィアスが何かに気付いたように声を上げる。
「お前の瞳…青の中に銀が散りばめられたように輝いている」
瑠那の瞳は光が当たって、所々が銀色に煌めいていて、それはまるで空に星屑が散らばっているようだ。
この瞳は平凡な容姿の中で瑠那の唯一目立ってしまう要素だった。日本ではこの瞳を隠すためにカラーコンタクトをつけ、眼鏡までしていた。
…兄達がハーフだということが知れ渡っていることは理解していても、自分がそれだと明かす気にはなれなかった。
「“銀彩の瞳”…お前、もしかしてセレイアの王族か?」
セレイアとは、数年前に滅んだ国の名である。王族たちは類稀な才を持ち、国のために必要な才能…政治能力や勉学の知識、軍の指揮能力などをすべて有している。彼らはその才能を国のために使い国をどんどん豊かにしていったのだが、最後は他国に侵攻されて呆気なく滅んでしまった。
――――今でもかの国が滅んだのは何かの間違いではないかと言われている。
「……それを知ってどうするつもり?私を利用する?」
瑠那は相手の心理を伺うように見つめた。
ほら、やはり信用できない。だから心を許せない。兄の親友であっても、心を許すことは…絶対に出来ないことだ。
「政治に携わるものとして利用させては、もらう」
瑠那はやっぱり…と思ってしまった。
そうだ、人は自分の利益だけしか考えない。自分を犠牲にして誰かのために働くような人は、ほんの一握りしかいない。
「だが、お前を一生守ることは…誓う。王太子としても、お前の夫としても…必ず、お前を守り抜く」
そういうアルヴィアスの瞳は真剣だった。
―――――瑠那は、ただ頷くことしか出来なかった。
「では…こちらの言葉が話せるのは、そのせいか?」
「そうよ。でも、こちらに来たのは少しの間だけだったから、王族として過ごしたことはほとんどないわ」
瑠那は地球育ちだ。こちらの世界でセレイアの姫として暮らしたことはほとんどないのだ。
12歳の時に一度セレイア国に呼び出されてそれっきりだ。
「お前の父は…“最後の王”か?」
「………そうよ。会ったことはないけどね」
「賢明で、素晴らしい王だったと聞く。お前は、その名を持つことにもっと誇りを持つべきだ。…俺が、リーウェンの名を誇りに思っているように」
瑠那はセレイアの名を隠して生きてきた。それはもちろん、命を狙われる可能性があったからというのもあるが、彼女はいまだ自分自身がセレイアの名を名乗ることを拒んでいる。
「……そうね。いつか、胸を張って答えられるようになりたいものね」
瑠那は微笑んだ。
「…とりあえず、言語の教育は外すように言っとくからな」
王子はそれだけ言うと、部屋から出て行った。




