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帰って来ました。
※すいません、一話抜けていました…抜けた一話は放っておいてください。
ついに結婚式当日。
何時間にも及ぶ身支度が整うと、アルは準備を整えて瑠那を待つ。
女性はおそらく時間がかかるのだろう…と思いながら待っていると瑠那が美しいドレスを身に纏い姿を現す。
アルは瑠那を見た瞬間目が離せなくなってしまった。
白い肌がドレスの間から覗き、美しい黒髪は結い上げられベールを被せられている。
「綺麗だな」
「ありがと、殿下も素敵ね」
瑠那は不機嫌な顔をしているかと思ったが、その様子もなくアルはほっとした。
その後、結婚式は滞りなく進んでいった。瑠那は王太子妃になるに相応しい完璧な振る舞いをしてみせた。
「――――――それでは、誓いの口づけを」
瑠那とアルは向き合って互いに笑みを浮かべる。
アルはベールをそっと上げると息を呑んだ。
会場の明かりによって彼女の瞳はキラキラと輝き、小さな唇には紅がのせられて彼女は傾国の美女と言われてもおかしくないくらい美しかった。
二人の唇が重なった瞬間、城中が拍手に包まれた。
アルヴィアスは瑠那の寝室に向かっていた。その表情は、幸せな結婚式を迎えたにしては浮かないものだった。
彼の悩みは、愛しい妻に関するものだった。
いままで彼女の寝室に入ることに躊躇いはなかったのだが、彼女が結婚を嫌がっていたことから考えて、初夜は受け入れてもらえないのではないか。
しかし、妃になることに難色を示しているわけではない。妃の義務である子作りは、了解しているのだろうか。
そんなことが頭の中を巡りつつも、ついに寝室のドアの前に来てしまった。
「ルーナ、入るぞ」
彼女の部屋は、灯りも点けられておらずわずかな月明かりだけが差し込んでいた。
「ルーナ?」
「嘘っ、アル?何で?」
真っ暗な中で、彼女の影が寝台の近くで動いた。
アルヴィアスは彼女の傍まで近づき、抱きしめた。触れるだけのキスを何度もし、徐々に深く口づけ、そのまま彼女を寝台に押し倒す。
「………………なんで、そんな恰好をしている」
「………………」
服に触れると、彼女の服は夜着ではないことが分かった。そもそも服は、手触りからして城のものではない。庶民が普段着で着るような、質素なものだった。
このまま彼女と共に夜を過ごそうと思っていたが、彼女の予定は違ったようだ。
「妃としての役割を放棄するわけではないだろうな?」
「それは、違うけれど…」
「では何故、初夜に脱走するつもりなんだ?」
彼女はアルヴィアスの問わんとしていることを理解したようで、口を開いた。
「えっと…子ども作るのは、待って?私、まだあちらの世界では学生なの」
瑠那はまだ一応中学生だ。子供なぞできるとまずい。
もともと、母が早くに家からいなくなっているのに加えて、兄と姉も異世界に行っている。
若くして家出の上父親が誰かも分からない三人の子供を育児放棄し実家に預けたままふらふらしている母に、最近まで礼儀も完璧だし頭も良いし優等生ね、なんて言われていたのに突如家に帰って来なくなった兄たち。
――――――――そんな状況で自分が妊娠、とか言ったら世間様の目が…。
「何年、待てばいい?」
「んー、大学まで行きたいから、あと6、7年くらい?」
「ふざけるな、俺に7年も待たせる気か」
「ごめんね。私、こっちの世界と地球、どちらもまだ選べないの」
瑠那は悲しそうに笑った。
もちろん、ここで地位を得てしまった以上こちらを手放せないことは分かっている。だが、母も兄も姉もいなくなった家に祖父母を置いて行くことはできない。というか、瑠那まで失踪したら、いくら祖父母が家族の事情(=異世界に行ってる)を知っていたとしても、心配するだろう。
「これから聞くことは、誰にもしゃべってはだめよ?」
瑠那はアルに念を押すととんでもないことを語り始めた。
「セレイアの王族は、ある義務を負っているの。“世界が危機に瀕した時、その力でもって救わなければならない”という、義務。もちろん、勇者はいるしその出番はめったにないけれど…。
セレイアの王族が動くときは、本当に危機に直面している時…つまり、勇者の手に負えない事態があるとき」
「だが、今回の勇者は歴代最強だ」
「その、歴代最強が、魔王もだとしたらどうする?もともと勇者は不利なの。魔王とその多くの配下に対して、勇者は一人。だけど、勇者は魔王を倒せば終わりだったから今まで勝つことができた。
でも、今回の魔王は賢い。もしかして、魔王に手が届かないかもしれない。…だから私が力を貸すの」
アルは目を瞠ったまま、動かない。
「ごめんね。これは言い訳に過ぎない。私が王太子妃としてここにいる自信がないだけなの」
そのまま瑠那は窓から身を乗り出した。
「待て、行くなっ!!」
「何か王太子妃の仕事があるならこれに連絡して。ちゃんと帰ってくるから」
そう言って彼女は連絡用の魔石をアルに放ると、そのまま窓から跳んだ。
「おい、ルーナ!」
その時突風が吹き、カーテンがバタバタとはためいた。
アルは思わず体を伏せて絨毯の毛を掴み、風に耐える。
風が収まると、慌てて窓に駆け出した。
窓から身を乗り出して見ると――――星空の下、空を駆ける黒龍が遥か彼方に見えていた。
まだ完結ではありません。結婚編?が終わっただけです。