TSヒロイン・愛でろ!
2019/02/24・26に投稿した『遙か遠き平穏』『暴走するかまってちゃん』の2話を結合し、誤字表現を中心に改稿しました。
結論を先に述べよう。
物騒な魔術陣は物騒な兵器と物騒な父親のおかげで濁流の如く魔素を吸収した。
「すげぇな、この魔術陣。力が溢れてくるのが分かる……」
「そうだね、まさかこんな発想で魔素を掻き集める方法があるなんて。正直これだけ魔素があれば、正面からごり押しでもソウルドレイクを滅ぼせそうな気がするよ」
「確かに、ね」
遙か彼方(何度でも言うが塔の中だ)で超合金ゴーレムと一緒に無双している父さんを思わず眺めながら、
「でもさ、オレの力は父さんと違って掻き集めただけの借り物だからさ、借り物の力で無双しても……」
父親の圧倒的火力を前にして現実に引き戻される。
強くなるなら自力で、ってのが男としての理想何だよ。
まぁオレは男であるのを捨てたのに男に出戻った身だけどさ……
ポムと頭に手を載せられる。
「アル君?」
「キミのその考え方は、知的で理性的で、とても大切モノだとボクは思うよ。キミが今みたいな事を話してくれなければ、ボクは調子に乗って暴走していたかも知れない」
「そんな事ないんじゃない? アル君はオレと違って何時だって冷静じゃん」
オレの言葉にアル君が達観したみたいな目で薄く微笑んだ。
好きになっちゃった少年の横顔。
それなのに、穏やかな雰囲気なのに、オレの中のどこかがざわめく。
「ア、アル君、あのさ?」
「ん?」
「えっと……あの、ね……」
「なに? どうしたのさ? そんな言いずらそうな顔して」
「いや、えっと……あの、さ……えへへ、オレ達幸せになれるよね?」
アル君が一瞬キョトンとした表情を浮かべると、ぐいっと抱き寄せ……てはくれなかった。
そう、いつの間にかアル君との間に居たモンジロウがアル君に抱きしめられてた。
「おい、モンジロウ、そこ代われ」
「ひゃん♪ ハッハッハッ」
ブンブンブンブンブンブンブンブン……
尻尾が千切れそうな勢いで振りまくるアホの子全開なモンジロウ。
「ペットは飼い主に似る……か」
「おい、しみじみと失礼な事を言うな。それじゃうちの父さんがポンコツみたいじゃないか」
「いや、京一さんの事じゃ無くてね」
「何でそこでオレを見る?」
「ひゃん♪」
ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん……
アホの子全開、脳天気な顔で千切れんばかりに尻尾を振っている。
……え?
オレ、こんなアホの子じゃないですよ?
って言うか、モンジロウはお手をしようとすると盛大に空振りする子ですが、普段はもっと賢……かしこ……かし、こ……
……可愛いのですよ?
「リョウ、認めるのも勇気だよ」
「いや……え? アル君の中でオレ、何時もこんなん?」
「こんなんって言い方はモンジロウに失礼な気が……」
「ひゃん!」
うぬぅ……
意味は分かってないはずなのに、何となくモンジロウに抗議されてる気がする。
「ごめん、モンジロウ……」
釈然としないけど、とりあえず謝っておいた。
「ひゃん♪」
一声無くと、オレの懐に飛び込んで来た。
尻尾をぶんぶん振って……
「ね?」
「何さ、その『ね』って」
「そっくりだよね、行動」
「……いやいや、オレはどっちかって言うと、気まぐれな猫属性。って、何で苦笑いしてるのさ」
オレのツッコミにも、アル君がアメリカ人張りのやれやれって感じのリアクションで肩を竦める。
くっ、ちょっとイラッとしたぞ。
「そんなむすっとしないの。可愛い顔が台無しだよ」
「む、むぅ……何か誤魔化された気がする……」
「気のせい気のせい」
「ひゃん♪」
「ほら、モンジロウも気のせいって言ってる」
くっ、この二人妙なタッグ組みやがって。
モンジロウに至っては「ひゃん」としか言ってないくせに、アル君と手を組むと、こんなに厄介な存在に格上げされるとは。
「ハッハッハッ、父さんを無視して何を楽しんでるのかな、俺の子供達よ!」
いつの間にか背後に回っていた父さんが、ウェイ系みたいなウザい感じでオレ達三人に抱きついてくる。
そういや、アル君&モンジロウタッグより、一番厄介なのがこの人だった。
「父さん、お勤め終わったの?」
「父親を服役終わった元囚人か何かみたいに言うな。とりあえず、視界に入る雑魚共は全て蹴散らしておいたぞ」
にこやかに笑って親指が指した背後では、そんな爽やかな笑顔が似合わない光景が広がっていた。
表現するなら、ヒャッハーがひょっこり現れそうな世紀末感満載な荒廃ぶりであった。
「さ、気合いも入ったところで、その厄介だって噂の例の化け物を殴りに行くとするか!」
すっかりしきり役になっている父さん。
はぁ……アル君とイチャイチャして過ごしていた平穏が、すごく恋しいです。
「んん……ぐむぅ……ぐぐ……」
それは、ソウルドレイクとの決戦を明日に控えた野営地(家だけど)での事だった。
リビングで寝ていた父さんが、夜中に唸り声を上げていたのだ。
母さんからは父さんが夜泣きするとか歯ぎしりする何て聞いた事は無い。
オレみたいにホームシックにかかる繊細なタイプとも思えないし……
どうしたんだろ?
「父さん、どうしたの?」
こんなやんちゃな見た目と言動だけど、中身はもう良い歳だ。
どこか身体に不具合が起きていても不思議じゃ無い。
「父さん、どこか調子が悪……ほわっ!?」
突然目を覚ました父さんに何故か抱きつかれる。
「ちょ、離せって……」
「綾さん、大丈夫だから、オレが絶対に何とかするから……」
「え、母さん?」
「……ん、あれぇ? 高校生の頃の綾さんが居る……おお! ついに17歳教に入信出来たんだねぇ、夢が叶ってよかったね……」
「母さんじゃ無くてオレだってば! 良だよ! ってか、その教団に入ってもリアルに若返るかは未知数だから!」
「うぇ?」
「それに母さん金髪じゃ無いだろ!! ってか、オレまたピンク髪だったっけ!?」
「綾さん、遅咲きのレディースに目覚めた? ってか、ピンクは淫乱って死んだばっちゃが言ってたよ。あ、三人目? 三人目頑張る? 愛ちゃんと良の時は年子で大変だったけ――」
「寝ぼけるなー!」
ゴンッ!!
「ぐぇッ!」
「はぁ……はぁ……」
あぶねぇ、あぶねぇ……
マイファーザーと夜中の寝取られマッスルドッキングなんて、ますますどこに訴求力があるのか分からないニッチすぎるジャンルに突入するところだった。
それにしても、寝ぼけてるとオレと母さんの見分けが付かないとは……
父さんに近付くのは色々と危ないな。
よし、隣の部屋で寝ているアル君のとこに行くとしよう。
「これは別にオレの本能が呼び寄せられてる訳でも、父親が近くで眠りについているのにイチャつこうとか非常識な事を画策しているんでも無く、ただ、危険が危ないゆえの緊急的避難措置である」
抜き足、差し足、ニジリ足……ニジリ、ニジリ……
カ……チャ……
「す~す~、す~す~……」
寝息が輪唱している。
珍しく爆睡中と見た!
うむ、チャンス! (☆Д☆)キラーン♪
「あ~る~くん♪ とあっ!」
「ひゃん!」
「ぐへへ……アル君ってば、びっくりしてそんな可愛い声上げて。ああ~ん、アル君ってば、いつのまにこんなワイルドな感じで毛深くふにゃふにゃに……ふにゃふにゃ……」
ふにゃふにゃ……むぅ……オレへの愛が足りないのか、オレのテクが男に戻って落ちたのか……
アル君のアル君が元気になら……
ガチャ
「何奴!」
廊下の光が差し込むドアに振り返ると、そこには謎のシルエット。
まぁ謎というか、顔が光で影になっていても分かる。
だってそこに居るのは愛しのアル君だもん♪
「何が『何奴!』だよ。人がシャワー浴びに行ってる間に、ボクのベッドに飛び込んで何してるのさ」
「いや、えっと~、何でしょうかねぇ? 久しぶりに夜中のマッスルドンッキング何ぞを……いってー!! いたいたいたたたたたたたっ!! 噛んでる噛んでる、手噛んでる!! アル君噛んでる!!」
「ボクは何もしてないよ」
「がるるるるるるる……」
噛みながら唸り声を上げていたのはモンジロウだった。
「にゃしてここにモンジロウぐぁ……いたたたたたっ!」
「がるるるるる」
「ああ、また潜り込んで来たのか」
「また?」
「うん、また」
「そ、そんなあっさりと……うぅ……アル君がモンジロウに寝取られたー!」
「おい! 何言ってんのさ!」
「アル君のニューハーフ幼女好き!!」
「不穏な単語次から次に並べるな!!」
ごんっ!!
いでぇ……頭突きされた……
「いだい……アル君のミスタードメスティック……」
「何か久しぶりに言われた気がするよ、その称号。て言うか、次から次に人に残念な称号を付けるな。モンジロウは京一さんの鼾から逃げてボクの所に来てたんだよ」
「何でオレじゃ無くてアル君なのさ……」
「……寝相の差じゃ無い?」
「寝相?」
「ボクは昔から気配を察知出来るよう、自然に溶け込んで寝てたから、寝ててもほとんど身動きしないよにしてたんだよ。犬は人の動きに過敏だからね。動かないボクはモンジロウにとって居心地が良いんでしょ」
「う~……そうなの、モンジロウ?」
「ひゃん!」
「何でそこでボクじゃ無くて、モンジロウに聞くかなぁ……」
「だって……」
「だってって、何さ?」
「オレが男に戻ってからアル君、イチャイチャしてくれないんだもん……」
「だからそれはちが……」
アル君が困ったみたいにボリボリと後頭部を掻き毟る。
う~、オレ、そんなに無理難題言ってるかな?
好きな人と一緒に居たいだけなんだけど……
「だ、だからそんな泣きそうな顔しないの! 分かったよ、一緒に寝よ」
「良いの?」
「もちろんだよ。ボクだってキミと一緒に居たい気持ちは一緒だからね」
「ほんとに?」
「ホントだってば。キミが男になった時にも言ったよね。ボクから離れるのは許さないって」
「うん、言われた。言ってくれた」
「思い出したくないけどあの時に君の心がボクから離れかけたのは、ボクがキミに対して愛情表現が少なかったのも事実だもんね」
「アル君……」
「分かった、ボクも覚悟を決め……」
「……覚悟?」
一瞬感動しかけたのに水を差す、謎の隠語。
「覚悟って何?」
「……気のせいだよ」
「何でそっぽ向くのさ」
「気のせい気のせい」
「むぅ……」
こいつ、腹の奥底で何か隠して……
とか、思っていたら、
――母なる大地の精クローディアよ、凍てつく原初の鋼の如き大地の強さを我に与えたまえ 硬質なる肉の恵みを――
一度も聞いた事が無い魔術を唱え始めおった!
「ねぇ、アル君、今の魔術なに? 響き的には肉体の強度を上げる感じみたいだったけど」
「気のせいだよ。ってか、魔法じゃ無く魔術とわかるなんて、リョウも成長したね」
「えへへ、でしょ♪ って、そんな事で誤魔化されるか! オレに襲われるの警戒してお尻の守備力上げたろ!!」
「チッ、気付いたか」
恋人に舌打ちしたよ、この腹黒ショタ!
さっきの優しさどこ行った?
泣くぞ、冷たくするなら引くくらい泣くぞ、良いのか?
「何さ、その目……」
「ドン引きするくらい泣いてやろうかと」
「酷い脅しだ。目に力強い意志を宿して泣くと脅迫してくる人は初めて見たよ……」
「だって……」
「しゃくれないの」
「しゃくれたくもなるもん! モンジロウは可愛がってるのに、オレに与える愛という名の餌は無しですか!? 枯れるぞ! バラバラに散って枯れ果てるぞ!! 最後はラフレシアも真っ青な悪臭放ってTSゾンビエルフ(今は♂)が背後から付け狙うことになるぞ!」
「テンション高いなぁ。今日はまた対処に困るくらいテンション高いなぁ……」
「か~ま~え~、オレをめ~で~ろ~」
アル君の布団にダイブしてそのまま転がり回る。
「人の布団の上でジタバタ暴れないの」
「う~う~!! ふあっ!?」
アル君も布団の中に入ってくると、そのまま抱きしめてくれた。
「アル君、このまま18禁で、あいてっ!><」
チョップされた。
「京一さんも居るし、モンジロウの教育上もよろしくないから今日は一緒に寝るだけ」
「むぅ……えへへ」
久しぶりにアル君の隣で寝られるなら、良しとする……
「あれ、そういやモンジロウはどこ行ったんだろ?」
「……逃げたな(ボソ……)」
「え? 何か言った?」
「や、何も……ほら、もう寝るよ。大人しくね」
「むぅ、大人しくを強調しなくても、ちゃんと寝るよ。オレだって親バレはさすがに恥ずかしいもん」
「いや、そうじゃ……いや、何でも無い。さ、寝よう……」
「うん♪」
抱きしめながら腕枕して背中をポンポンしてくれる。
ヤバイ! 雄子宮がメッチャきゅんきゅんしますです!
やっぱイチャラブしたい!
何て滾りかけたけど、オレもどうやら気が張って疲れていたらしい……
気が付いたら、睡魔に襲われてそのまま眠りに落ちていた。
全体改稿中で既存の読者様にはご迷惑をおかけしております。
もう少し先になりますが、展開が大きく変わると思いますので今しばしお待ちください。






