TSヒロイン・懐かしき大地へ
2018/12/13・14に投稿した『地球へ……』『ママ』の2話を結合し、表現、誤字等を中心に改稿しました。
オレ達を見据えながら、カーズさんが深いため息を一つした。
「この日を示唆しておきながら、実際にこの日が来るまで随分と時間がかかったな」
痛烈な駄目出し。
反論の余地もありません。
「おい、そこのエロ猿」
えげつない名指し。
アル君が顔を真っ赤にして俯いています。
や、カーズさん、アル君だけがお猿さんだったんじゃなく、オレもお猿さんだったんですよ?
とは言えない。
いや、口を挟む雰囲気じゃないのですよ。
別に怯えてるんじゃないのですよ?
余計な口を挟んだら、けちょんけちょんに正論で潰されそうな気がするだけで……
ただ、まぁドキドキと心臓は震えているけど。
だけど、ふとカーズさんが柔らかな笑みを浮かべアル君の頭に手を置いた。
「欠けていた物は埋まったか? 満たされたか?」
「先生?」
「未来とは前にしかなく、決して後ろには無いものだ。お前の足りない物、満たされない思い……埋めてくれる者と出会えたのなら、後は振り返る事なく勇往邁進せよ」
「ありがとうございます」
素直に頭を垂れるアル君。
うん、アル君に【先生】と慕われるだけあって、優しさと厳しさの塊みたいな人だ。
「さて、いささか時間はかかったが異界への扉を開くとしよう。だが、その前に。リョウよ、格好はそれでいいのか?」
アル君に優しい眼差しを向けていたカーズさんが、何故かオレには呆れたような視線を向けてきた。
ふぇ? オレ、アル君に言われて向こうでもそんなに違和感ないような格好に着替えたつもりだけど、カーズさんの目にはどこかおかしく見えるのか?
「えっと、何か問題でも?」
「私が知る限り、宇宙が一巡する前の地球には白狐族は表だっては居ないはずだが?」
「白狐……あ、ケモ耳と尻尾!」
言われて気が付く、オレの頭の上の耳と尻尾。
確かぶっ壊される前の記憶だと、オレは一度向こうの世界に戻って姉貴と会っている。
エルフ耳の姿で。
YESな先生にお願いしたの? とか散々聞かれたけど、さすがにYESな先生でも、ケモ耳にはして、くれ……あの先生ならやれそうだなぁ。
いや、それ以前に尻尾まで付いた姿で会うのは、かなりハードルが高い。
まぁ、どっちがどうとは言えないけど、ケモ耳娘になった元息子と再会するのとエルフ娘になった元息子と再会するのなら、後者の方がダメージは少ない気はするな、うん。
「この獣人国に入るためにその格好に変身させたんだろうが、とっくに元の姿に戻しても問題なかっただろう」
「えっと、あ~……その、何と言いましょうか……狐耳のリョウが可愛かったから戻す気になりま――」
ゴンッ!!
「あ、ば……ふ……」
「アルくん!?」
ゴロゴロゴロ……
鈍い音と共にアル君が悶絶して地面を転がる。
黄金に輝く鋼鉄の王錫がアル君の頭をぶちのめしたのだ。
「そこまでにしておけこのバカ猿! 愛情を育む事に異論は無い。むしろお前自身には絶対に必要だ。だが色にかまけ目先の事を見失うなど言語道断だ!」
「ひゃ、ひゃい……」
「それとリョウ!」
「は、はいっ!」
「この色惚けした猿が真っ当になるのもならんのも、お前の胸三寸次第だ! 男などいくつになってもガキだと言う事を理解しておけ! 賢い女の存在こそが、男を正しく導く存在だと肝によく銘じておけ!」
「は、はい……」
元の世界に旅立つ前に特大のお説教を喰らった。
「で、どうするのだ? まぁその姿は紛れもなく異界の住人になった証明とも言えるだろうが、お前の両親は流石に引くんじゃないのか?」
「えっと……アル君、どうしよう?」
「自分の事だろう! 人任せにせず自分で判断せんかっ!」
「は、はい! 戻ります、戻して下さい!」
うぅ……
神コロさまに叱られる〇天やトラ〇クスの気分だ。
「まったく……先が思いやられる。その変化の呪い、解いてやるから静かにしていろ」
そう言って手をかざされると、オレの姿はあっさりと元に戻る。
元と言っても、男の頃の姿じゃなくエルフの姿だけど。
オレの横でちょっとしょぼんとしているアル君の姿が、また何とも言い難い。
って言うか、なんでキミはカーズさんの前だとすっかり駄目な子になるかなぁ。
まぁ、それだけ歳相応になって甘えられる存在なんだろうけど……
うん?
……あれ? 元に戻った?
「あ、あのカーズさん」
「なんだ?」
「こうやって元の姿に戻れると言う事は、男の姿にも戻せるって事ですか?」
「不可能ではない。だが、おそらく現段階では強制力を働かさねば無理だろう」
「強制力?」
「魔術や魔法の基本は執着にある」
「執着……」
「そうだ、何かを顕在化させたい、何か願いを叶えたい……それらの願いが強ければ強いほど成功するし、願いが弱ければ失敗する。それが法理や理をねじ曲げる意志の力と言うものだ。おそらく、今のお前自身は男に戻りたいとは欠片も思ってはいまい」
「ハッキリ言われると照れますが、そうですね」
「それにお前の魂の波長とエルフの肉体は親和性が良いようだ。だからこそ、今私の解呪の魔術に反応し戻ったのはそのエルフの姿だったのだ」
「そ、そうなんですか?」
「その理由も遠くない将来、分かる日も来るだろう」
今の感じの答え方だとその理由は分かってても教えてくれなさそうだな。
まぁ気になるけど、良いさ。
確かにこの世界に来たのもこのエルフの姿になったのも、ある意味ご先祖野郎の呪いだけど、今更それを恨んじゃいない。
ただ呪いが解けなかったって事は、オレが女として生きると覚悟を決めた証拠だと受け止めよう。
うん、戻る気なんてサラサラない。
アル君にメッチャ甘えさせてあげたいしね。
それに、ここで男に戻ったら、両親を説得する意味が薄れてしまう。
ふふ、この姿を維持してる事がいかにオレがアル君を愛しているかって言う証明でもあるのだ。
アル君、嬉しい? 嬉しい?
もちろん嬉しいよね♪
ちょっと押しつけがましかったか?
ま、まあ、それだけオレがアル君を愛してるって事さ。
とにも!
これで準備は整った!!
後は向こうの世界に! む、向こうの……向こうの、世界に……帰るだけだ!
皆に会いたいけど、帰れるとなった途端に会いたという思いと恐怖が拮抗するぞ。
「さあ、扉を開くぞ。準備は良いな?」
「お願いします、さ、行くよリョウ」
「あ、うん……」
オレの折れそうな思いとは別に、二人の話が進んでいく。
ああぁあぁっ!
女は度胸だ!
「お願いします、カーズさん!!」
半ば破れかぶれなオレの決意に、カーズさんは薄く微笑んだ。
「リョウ、お前の覚悟が身を結ぶことを……遠きこの地から祈っているぞ」
「ハイ! ありがとうございます!」
やっぱりカーズさんはどこまでも温かな人だった。
オレは自分の中のどこかにあった逃げ出したい気持ちが、カーズさんその何気ないたった一言で救われた気がした。
「時の扉よ! 二人の未来ある若者を誘い導け!」
地面に溢れ出る光。
眩む視界、高い塔の上から落ちていく見たいな目眩……
「リョウ……リョウ……」
「あ~、アルくんだ~」
「寝ぼけた声出してるけど、しっかりして!」
「え?」
オレは抱き起こされ事で自分が意識を失っていたのを理解する。
「う、ん……」
辺りを見渡せば、それはどこまでも見覚えのある景色。
「ここ……」
「リョ、リョウ! ちょ、急に走ったら危な――」
オレは静止するアル君にも気が付かず走り出していた。
遊具が無くなった小さな公園、夕日がさしかかった裏山、住宅街に造成された町並み……
覚えてる、覚えてるんだよ!
オレ、ここで生まれて、ここでソフィーと出会って、ツレ達とよく遊んで喧嘩して……
その角を曲がれば、
「あっ……た」
――日野――
自分じゃ、ほとんど気にとめた事も無い小さな表札。
それなのに……
それを見た瞬間、オレの頬を伝い落ちていた涙。
「帰って、来た……」
何だ、この気持ち?
向こうに居た時は、アル君だけいれば良いって思っていたはずなのに、オレ……
「リョウ……」
「あゆくん……ご、ごめん、おりぇ……ずびっ……」
「謝ること無いよ。ボクも覚えている。ここ、ボクも昔来た事がある。リョウの実家だったね」
「うん、良かった。ちゃんとあった。オレ、本当は怖かったんだ。向こうの世界に行って、実はこっちの世界の事が夢だったんじゃないかって考えた事があってさ……ここにオレの家が無かったらどうしようって……」
「そっか……でも、キミはちゃんと帰って来た。ここがキミの生家だよ。だから、あと、もう一歩だけ前に進もう」
「うん……」
アル君に優しく背中を押されたオレは、ドキドキする気持ちを抑えきれずにインターホンを押し――
ピポピポピポピポピポピポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポン!!
「リョウ? そのボタンって、そんなに激しく押すものなのかい?」
「ああ! 緊張のあまり高橋名人も真っ青な連射機能がオレの指に……アババババ」
緊張を隠せなかったオレは、強がる事も出来ないままに連射し続けた。
そして、扉の奥から懐かしき声を聞いたのである……
「ハイハイ、ちょっと待っててね~」
そのどこか間延びした感じのしゃべり方は、懐かしき母さんの声た。
扉一枚向こうから聞こえてくる母さんの声と足音。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。
「アル君ごめん!」
「え? あ、リョウ!?」
オレは咄嗟にアル君の背後に回ると、そのまましゃがんでしまう。
「ハイハイごめんなさいね、お待たせしちゃって。でもダメよ、あんなにボタン押したら、イタズラと思われちゃうわよ」
「あ、え……と」
のんびりとした柔らかい声音。
間違いない。
母さんの声だ。
ヤバい、声聞いただけで視界が滲む……
「あの、えっと……その……」
突然、振られて逃げ場のないアル君が、らしくもなくしどろもどろに会話を始める。
「あら? あらあらあら! お久しぶり! 昔、何度か遊びに来た事あるソフィーちゃんよね? この間……逃げられちゃったけど、やっぱりソフィーちゃんだったのね! って、ごねんなさいね。おばさんばかり話してるわね」
「あ、いえ、その……お久し、ぶりです。えっと、リョウですが……」
「あ、そうよね。ソフィーちゃんが遊びに来てくれたって事は、うちの子に会いに来てくれたのよね」
母さんの声音が一つ下がる。
それは、オレが親にかけてしまった心配の時間……
「うちの子、もう四ヶ月も前から行方不明なの。あの娘の姉が修学旅行に行った時にうちの子っぽい情報はあったって言うんだけど、その……何か要領よく説明出来無いところ見ると、アタシ達を励ますために言ってくれたのかなって。ほら、色々と世の中にはあるから……って、あらあら、ごめんなさいね。すっかり立ち話しちゃって。うちの子は居ないけど、もし嫌じゃなければ上がってお茶でも飲まない? 愛ちゃんもうちのワンコの散歩に行ってて居ないから、おばさんの話し相手なんてつまらないかも知れないけど」
「いえ、おばさんだなんて。若くて凄く綺麗だと思います」
「あらあら、ありがと。外国の人なのにお上手ね」
アル君が視線だけを向けてくる。
「ねぇ、リョウ……良いの、このままで?」
……良い、わけない。
オレは意を決して、アル君の背後から姿を現した。
「あら? あらあら、もう一人お友達が……」
お袋がオレと目が合った瞬間に、ピタリと動きを止めた。
「あの、えっと。分からないと思うけど……ただいま……」
「良ちゃん!」
抱きしめられた。
メッチャ抱きしめられた。
え?
「何で……」
「クンカクンカ、フンフン」
メッチャ匂いかがれてます……
「ああ、この匂い……間違いなくママの良ちゃん!!」
「何でそれで……」
呆れるけど、何ともうちの家族らしい反応に、涙よりも苦笑いが込み上げた。
ふと視線がアル君と絡む。
その瞳は、『キミも含めてキミの家族は犬か何か?』と訴えかけているのがよく分かる。
いや、生粋の人間だよ?
そりゃ、オレが狐耳の似合うイケてる美少女かもしれないけど、間違いなく人間だからね?
「そうよね、帰って来にくかったわよね……ごめんね」
「何で母さんが謝るのさ……」
「だって、愛ちゃんから聞いてたよ……『もし、良ちゃんが女の子になっても怒らないでね』って……ごめんね良ちゃん! 女の子に産んであげなくて! 悩んだよね、怖かったよね? でも、大丈夫よ。そう言う子供たちが一杯居て、声を出せずに苦しんでるって、ママ良ちゃんが居なくなってからネットでいっぱい勉強したから!!」
「あんたもかい! や、あの……まぁそういう風に思われても仕方ないかもだけど……姉貴は何て言ってたの?」
「愛ちゃん? 愛ちゃんは『良ちゃんにも色々あって、もしかしたら女の子になってるかも知れないけど、帰ってきたらちゃんと笑顔で迎え入れてあげてね』って……」
オレはその場に頽れた。
合ってるけど!
間違ってないけど!
誤解! その説明だと、すげぇ誤解招くから!!
「良ちゃん、大丈夫? ママね、もし良ちゃんがお金とか含めて色々と悩んでいたら大変だと思って、おじぃちゃんとおばぁちゃんにも相談したの」
「へ? 何ですと?」
「もし、良ちゃんが女の子になっても、ちゃんと可愛がってあげてねって。あと、手術とかでお金かかってたりしたら、どうか援助して下さいって」
「な、な、なんばしよっとかー!!」
「大丈夫よ。おじぃちゃんもおばぁちゃんも、良ちゃんが無事に帰ってきてくれたら、それだけで良いって……そう言ってくれたから」
「ちゃうねん……そうじゃないねん。何でうちの女どもは変な方向の行動力がこんなにも早いんだか……」
「もう、ダメよ、良ちゃん。女どもなんて言っちゃ。良ちゃんももう女の子なんだから、あ、そうそう、ちゃんと戸籍も変えないとダメよね。良ちゃんがこの町に住みにくいって言うなら、ママ、引っ越しも考えるからね!」
「なんでうちの家族、変な方向にヴァイタリティこんな高いん……」
「大丈夫、もし京一さんが引っ越すの嫌だって文句言ったら緑色の紙チラ付かせるから!」
それ、何て離婚用紙ですか?
あの子供大好き嫁命の父さんにそんな事したら、ショックで寿命縮めるからやめたげて……
「凄い家族だね。キミの家族と言われれば一発で納得するけど……」
「どう言う意味さ」
「そのまんまの意味さ。でもほら、良かったじゃん。話しやすい土俵が出来てたんだから」
アル君の慰めが、すごく痛いです……
「えっと、もしかしてソフィーちゃんはうちの子と居てくれたの?」
「あ、母さん、アル……えっと、ソフィーが居なかったら、オレ路頭に迷うどころじゃなかった。命の恩人以上でさ、その……と、とりあえず! 詳しい事は父さんが帰ってきたら説明するから! えっと、これ見てッ!」
オレは庭にカーズさんに教えて貰った氷の魔術を放つ。
巨大な氷の氷柱が地面からそそり立ち――
「あ」
「ああ、モンジロウちゃんのおうちが!」
家主不在の小屋が吹き飛んだ。
ごめん、モンジロウ><
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