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銀河戦國史 (アウター“ファング” 閃く)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
第1章 決起
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第13話 惨殺・制圧・掠奪

 敵戦闘艇部隊の内の「ヴィルトシュヴァイン」に対する殲滅戦の間に、カイクハルドは、敵戦闘艦の様子も(うかが)っていた。散開弾で表面構造物を薙ぎ払われ、無防備なところに爆圧弾を見舞われた。しかも、敵はミサイルを、艦体表面付近のランチャーに装填した状態だったらしい。艦体を覆う装甲の直下にあったそれは、爆圧弾の衝撃で信管が作動、誘爆した。

 4本の比較的小さい火柱と、1本の巨大な火柱が、敵戦闘艦から吹き上がる。装甲にひび割れが走る。大きな火柱の周囲は特に激しく、網の目のごとくに、ひび割れが広がって行く。そのひび割れからも、微小な火柱がところどころから上がる。

 敵艦の具体的な惨状まで、カイクハルドに見えている訳ではないが、レーダーや熱源の反応から想像はできる。沈黙せざるを得ないだけの打撃を、与えたと考えて良いだろう。

 「ヴァルヌス」の攻撃だけで戦闘艦が沈黙にまで追い込まれる事も、カイクハルドの予測の範囲内だった。艦の表面に不用意にミサイルなどの爆発物を配置している事も、整備が行き届いておらず損傷が拡大しやすい事も、戦う前に推察した通りだった。

 第4・5単位は、それぞれに4隻で30隻の「オイレ」に対応していたが、各艇が敵に付かず離れずの距離で、敵には追随不可能な転進を繰り返す事で攪乱しつつ、時折突如のフォーメーション攻撃に移る、という戦い方で、敵を封じ込めていた。

 出鱈目(でたらめ)に動き回っているようで、数に勝る敵に包囲攻撃をさせないような、巧みな位置取りをしつつ、いつでも連携攻撃に遷移できる状態も保つ、という事を彼等はやってのけている。

「第2から4単位、距離を置いたテトラピークフォーメーションで、大きく囲め。」

 「ヴィルトシュヴァイン」を全滅させた第2・3単位と、「オイレ」を混乱に陥れている第4・5単位が、凄まじい勢いで戦域を離脱して行く。

 4つの単位で、敵レーザー射程の遥か外側に巨大な三角錐を形成し、中央に「オイレ」の2隊を置く陣形を取る。運動性能で勝る「ファング」戦闘艇のこの包囲から、「オイレ」に逃げ出す術は無い。

「ナーナク、ヴァルダナ、敵のど真ん中に入り込んで、駆けずり回れ。」

 かなり無茶な指示だ。第4・5単位に撃ち減らされてはいるが、いまだ50隻近く残っている「オイレ」の群れの中に、たった2隻で入り込め、という事だ。

 が、2隻の「ヴァンダーファルケ」に、躊躇(ちゅうちょ)は無かった。壮絶な転進の連続で、敵に的を絞らせず、四方八方から錯綜する「オイレ」のレーザーを、ことごとく回避して行く。

 呻きと悲鳴を連発しつつ、ナーナクとヴァルダナは重圧に耐えている。身体能力の限界に追い込まれながらの、地獄の訓練だ。

「ナーナク101-22、ヴァルダナ65-189、ダッシュ!」

 転進方向を座標で指定しての、カイクハルドの指示。寸分の狂いなく実施して見せる、ナーナクとヴァルダナ。二隻の「ヴァンダーファルケ」の軌道が交錯し、離れて行く。

 その転進の結果、一定の宙域に、7隻の「オイレ」が密集して来た。敵の誘導を企図した転進指示を、カイクハルドは出していた。カイクハルドに踊らされて、敵は一か所に集められたのだ。

 その宙域に、プラズマ弾が飛び込んだ。カビルの「ヴァイザーハイ」が放ったものだ。発射のタイミングと炸裂位置は、予めカイクハルドが指定してあった。

 7隻の「オイレ」の群れのど真ん中で、プラズマ弾が炸裂する。灼熱エリアが、7隻全てを捕えた。プラズマが描き出す、青白く輝く涼し気な球体の中で、灼熱に焼かれた「オイレ」が、7つの爆散の光芒となって花開く。14の人命も、無慈悲な終焉を迎えたはずだ。

「上手いぞ、ヴァルダナ。良い動きだ。」

「言われた通り、動いただけだ。こんなんで、いちいち褒めるな。」

「ははは、そうか。無理な動きを、指定したつもりだったが。」

 残った敵も、ほとんど全てが、高磁場エリアに捕捉されたようだ。等速直線運動に陥っている。操縦不能になった証だ。

「よし、第2単位と交代だ。」

 テトラピークフォーメーションの一角を、第1単位は、第2単位と交代する。

「敵戦闘艇の回復を待って、第2単位もフォーメーション攻撃の練習だ。どれを試すのかは、任せる。」

 本物の敵を相手に、実戦の中での訓練だ。考えようによっては、敵をなぶり殺しにしている、とも言えるだろう。

 戦闘艦も、沈黙を続けている。修復して再参戦して来る事もあるか、と警戒は解いていなかったカイクハルドだったが、取り越し苦労だったようだ。

 それを悟った何隻かの、操縦可能だった「オイレ」が、もはやこれまで、と逃亡を企てたが、テトラピークフォーメーションを抜ける事はできない。どの方向に突き進もうとも、素早く「ファング」が回り込み、行く手を防ぐ。三角錐を形成してその中心に敵を置けば、そういった包囲が可能になる。

 逃げ出そうとした敵も、諦めざるを得ず、結局三角錐の中心付近に敵は集中させられた。プラズマ弾による高磁場で動けなかった敵も、ようやく回復し、第2単位の“訓練”が開始された。

 敵の周りを4隻でグルグルと回ったあげく、狭い空間に身を寄せ合うことになった6隻の「オイレ」を、4方向からのレーザーの網の中に捕えた。1方向からのレーザーも、数門の銃から10発以上を浴びせている。それが4方向分合わされば、敵に逃れる隙は無かった。文字通り、一網打尽だった。

 また、12個の生命(いのち)を飲み込んだ6つの光芒が、一斉に花開く。「オイレ」も2人乗りだから、1つの光芒が、2つの人命を滅している。

 第3・4・5単位も同様に、それぞれの選んだフォーメーション攻撃でのなぶり殺しのような訓練を実施し、「オイレ」は全滅させられた。百回近くに渡って敵から発せられた降参の申し入れや命乞いは、ことごとく無視した。

「訓練の成果は、上々だな。最初の実戦でこれだけ動けりゃ、大したもんだ。」

 実を言うと、多少は不満があったが、カイクハルドはそれを口にはしなかった。ネガティブな要素は、他の者がいないところで個別に伝えるようにしている。

「お前になら、こういう動きも、できると思うんだ。挑戦してみてくれよ。」

などと、思い付く限り、前向きな表現で伝えるようにもしている。自信を失った者に、「ファング」のパイロットは勤まらない。プライドを傷つけては、統率を維持できない。自信を削ぐ事なく、プライドを傷つける事もなく注文を伝えるのも、組織の長として不可欠の資質だ。

「取り敢えず、あのでかぶつから、かっぱらえるものをかっぱらって、さっさと戻るぜ。」

 “でかぶつ”とは、小型戦闘艦の事だ、“小型”でも戦闘艦は、「ファング」にとっては“でかぶつ”だ。その周りに、「ファング」第1戦隊の戦闘艇が集結した。

「我々は、中立な立場であり、誰にとっても無害の、銀河連邦支部の者だ。“技術支援部隊”として、周辺集落を巡っているだけだ。攻撃しないでくれ。」

 戦闘艦からは、そんなメッセージが送られて来る。

「よく言うぜ。さっきは戦意剥き出しで、突撃して来たくせに。」

 呆れ口調のカビル。

「申し訳ない。あなた方を無法な盗賊と勘違いして、攻撃してしまったが、そうでは無かったようだ。あれだけ統率の取れた戦いをするのだから、いずれかの名のあるファミリーの方々とお見受けする。これまでの不手際は、伏して謝罪するので、なにとぞ・・・」

「やかましい!」

 カイクハルドは一蹴した。「ごちゃごちゃ御託を並べやがって。俺達は、(れっき)とした“無法な盗賊”だ。さっさと(ふね)を放棄して、非武装のシャトルかなんぞで、全員出て来い。艦は10分後に、問答無用で撃破する。」

「積荷や女を、忘れるんじゃねえぞ。」

と、カビルは念を押しにかかる。「お前らが俺らに、どれだけ値打ちのあるものを献上できるかで、何人が生き伸びられるかが決まると思え。できるだけ値打ちのある積荷とイイ女を、死に物狂いで用意しやがれ。」

 そんな宣告を浴びせた1分後、

「了解した。直ちに艦を放棄し、非武装のシャトルで離脱する。ありったけの物資と女性を拠出するので、命だけは見逃してもらいたい。」

と、怯え切った震え声が返って来た。

 それを待つ間に、第4戦隊が合流して来る。

「こっちも訓練終了だぜ、かしら。」

 第4戦隊の隊長、テヴェが、報告を入れて来る。「似非(えせ)連邦支部を一個ぶっ潰して、こっちは無傷だ。新入りが順調に腕を上げてるのを、確認できたぜ。」

「そうか、ご苦労。戦利品の方も上首尾か?」

「ああ、希少な元素をたっぷり溜め込んでいやがったし、女も大量ゲットだ。戦闘艇じゃ運び切れねえんで、『シュヴァルツヴァール』に、シャトルの応援を頼んだくれえだ。」

「銀河連邦の支部に、なんでそんなに、女がいるんだ?」

 そう問いかけて来たのは、ヴァルダナだった。「銀河連邦というのは、『グレイガルディア』からはあまりにも遠くにあって繋がりは薄いが、銀河全体の平和と安定を目指す、共済組織みたいなものだろう?法の支配や人権尊重を加盟国に求め、その代わりに、技術や知識を供与して、加盟国の運営や平和的発展に寄与する、ってのが設立の趣旨のはずだ。」

「いやいや、ヴァルダナ。あれは“似非”の連邦支部だ。連邦の振りをして、不遇の民を救済しますって看板掲げることで人を集めたり集落に乗り込んで行ったりして、そっから先は、盗賊と同じ事をするのさ。襲って殺して奪って犯して、ってやりたい放題だ。」

 カビルの説明に、テヴェが続く。

「連邦支部だと信じた庶民は、格好の餌食だな。何の抵抗もできずに身ぐるみ剥された上に、奴隷化されて、男は死ぬまで酷使され、女は死ぬまで慰みものにされる、ってな。」

「そんな簡単に、騙されるものなのか?庶民というのは。」

 通信機を伝って来たヴァルダナの疑問に、カイクハルドは応えた。

「まっとうな支部もあるからな。多くの流浪の民を受け入れたり、ジリ貧の集落を訪れて食料支援とか、資源採取や生産の手段の供与、なんて事をやっている連邦支部も、少なからずある。本来、銀河連邦は、そういう活動をする目的で、『グレイガルディア』に支部を置いてるんだからな。」

「その銀河連邦の活動を逆手にとって、盗賊的な活動に利用しているのか、“似非”支部ってのは。」

「ああ、そんなところだ。」

 テヴェの声が応じる。「第4戦隊でぶっ潰した支部も、生産手段に関する知識を学ぶ教育機関を無料で開放します、って触れ込みで近隣の集落から若者を集め、男達には一生終わらない“実地研修”で資源採取活動をやらせ、女達には娼婦の“実地研修”とか言って散々慰みものにした上で、客を取らせ体を売らせている。もちろん男も女も、収益は全部“支部”に吸い上げられて、無報酬で酷使されていた。」

「見分けは付かないのか?ちゃんとした“連邦支部”と“似非連邦支部”とは。」

 ヴァルダナの疑問は続く。

「難しいだろうな、庶民がそれを見分けるのは。元々まっとうな“連邦支部”だったところが、ある時から突然、変質するケースもあるんだ。昔から代々世話になって、恩恵を授かって来た連邦支部に突然変質されて、悲惨な目にあわされてる集落もある。」

 テヴェが教え、カビルも続いた。

「まっとうな支部の一部の悪い奴が、その支部の上役にバレねえように悪さをするケースも、あるって話だぜ。俺達、第1戦隊で潰したこいつらは、『ノヴゴラード星系第3支部』って、伝統と実績のある連邦支部から暖簾(のれん)分けされた、ってのを名目に信用を勝ち取って、人を集めてやがった。」

「そんな嘘が、簡単に信用されたのか?」

「嘘って事も、ねえんだぜ、ヴァルダナ。」

と、カイクハルド。「伝統ある支部の幹部を買収して、暖簾分けの証明書みてえなのを、もらってたらしいからな。」

「そうか。そんな、クズみたいな、ロクでもない連中が、うようよいるんだな。『グレイガルディア』には。」

 吐き捨てるような、ヴァルダナの言葉だ。

「まあ、俺達も、言えた義理じゃねえがな。盗賊兼傭兵なんて稼業をやってるからな。ロクでなしには違いない。」

「でも、ちゃんと、ロクでなしって看板掲げてるロクでなしと、“連邦支部”なんて看板掲げてるロクでなしだったら、“連邦支部”の看板を掲げてるロクでなしの方が、ロクでもねえぜ。そうだろ?かしら。」

「そうだな、カビル。俺達が訓練の道具として、気兼ねなくなぶり殺しにして構わねえくらいには、ロクでなしだな。」

「銀河連邦は、そんな状況を放置しているのか?」

 ヴァルダナの疑問は尽きない。

「遠いからなあ、連邦の本部は。タキオントンネルで何か月、スペースコームジャンプを何十回って壮大な旅をして、ようやくたどり着ける距離だ、『グレイガルディア』星団と連邦本部は。放置する気はねえんだが、面倒見切れねえ、ってのが本音だろうな。」

「へへっ、経験者の言葉は違うな、かしら。行ったことがあるもんな、かしらは、連邦本部に。」

「えっ!? そうなのか?カイクハルド。お前、連邦本部に・・・」

「あったりまえだぜ、ヴァルダナ。なんで『ファング』が、こんなにも最新鋭の戦闘艇や空母を、持ってると思ってんだ。』

「おいおいカビル、そいつは、あんまり軽はずみには、言わねえ約束だぜ。」

「あはは、済まねえかしら、つい。」

「そうか!連邦本部から、直接仕入れているのか、戦闘艇とかを・・。だから・・」

「詮索すんなよ、ヴァルダナ。お前は、行った事ねえのか?テヴェよお。」

 話題を変えたかったのか、カイクハルドはテヴェに注意を振り向けた。「お前こそ、連邦支部の幹部にまでなってたんだ。行った事あっても不思議はねえぞ。」

「そ、そうなのか?テヴェ。支部の、幹部、だったのか、お前?」

 ヴァルダナは、驚きの連続だ。

「それも、知らなかったのか。連邦支部に関する情報に、テヴェが精通しているからこそ、こいつらを訓練の道具に使えてるんだぜ。」

「お前が自慢することじゃねえぞ、カビル。」

「ははは、そうだな、かしら。わりい、テヴェ。」

「まあ、俺は、本部には行った事はねえが、本部から人が派遣されて来て、活動状況をチェックして行くところを、何度か拝んだ事はあったな。不正が発覚して幹部が追放されたり、再教育とか言って現地採用のエージェントが本部に連れて行かれたり、ってのが何度かあった。連邦本部の、『グレイガルディア』をどうにかしよう、って意気込みだけは感じられたな。」

「それでも、不正は立ち切れなかったのか、テヴェ?」

「そんなもんだぜ、ヴァルダナよ。こっそりと新たな支部を、暖簾分けとかって名目で設立しちまえばよ、そっちにまでは目が届かねえだろ、本部のエライさんもよ。支部の方でも、本部からの技術や知識の供与が無けりゃ、活動が立ち行かねえから、本部からの視察を受け入れねえわけにはいかねえけど、誤魔化す方法はいくらでもあるんだ。」

「銀河連邦支部に、興味津々だな、ヴァルダナ。テヴェ以外にも、『ファング』には支部から逃げて来た連中が沢山いるからな、色々聞いてみれば良いぜ。新入りの中にも、いたはずだ。つい最近まで、支部にいた奴が。」

「そうか。新入り同士で、あまり話した事もなかったが、そうだな、少し、話してみるか。」

 会話の途中で、ようやく敵艦から出て来たシャトルを、カイクハルドは目にした。3機いた。

「ナジブ、第3単位に任せて良いか?」

「応」

 3機の内の一つの、支部代表とかいう奴が乗っているらしいシャトルに、第3単位は戦闘艇を横付けした。宇宙服姿で漂い出して来た4人のパイロットが、シャトルに向かう。窒素ガスを噴射して推進する装置に、彼等は牽引されている。押すタイプより引くタイプの移動補助装置の方が、宇宙空間では扱い易かった。

 一応、ハンディーな銃を構えて乗り込んで行くが、まあまず抵抗される事は無い。16隻の戦闘艇にレーザー銃を突き付けられている状態だから、抵抗できるはずがない。そのシャトルに、支部の構成員は全員いたようだ。残りのシャトルに、幾つかの集落から掻き集めて来た男女や掠奪して来た物資等が積んである、と報告が来た。

 ナジブと支部代表とかいう奴の話は、直ぐにまとまり、集落民と物資を全てもらい受ける事で、似非支部エージェント達の命だけは、助けてやる事とした。

 集落民に対しては、支部の連中と同じシャトルで逃げ出すか、一機のシャトルを与えられて開放されるか、「ファング」の捕虜になるか、の3つの選択肢を与えた。

 解放と言っても、シャトルだけでこの宙域からどこかの集落か何かにたどり着ける可能性は、ほとんど無い。たどり着けても、何十年も、下手をすれば百年以上も先になるだろう。事実上、自殺行為と言って良い。

 つまり集落民には、似非支部の捕虜であり続けるか「ファング」の捕虜になるか、の選択しか与えられなかったも同然だ。

 「ファング」も、捕虜達にとっては初対面の盗賊団でしか無く、安心して身を委ねられる対象では絶対に無かった。が、捕虜の何人かは、「ファング」の名に聞き覚えがあったらしい。“似非”支部よりは少しはマシらしい、という噂程度の情報をもとに、捕虜たちは「ファング」の支配下に置かれる道を選んだ。

 “連邦支部の技術支援部隊”という看板で油断させ、集落に入り込み、破壊と殺戮と掠奪の限りを尽くした連中とは、絶対に行動は共にしたくない、というのも当然の事だ。肉親を殺された恨み等を抱えた者達も、少なからずいる事だろう。

「俺達の捕虜になったら、気に入った女は『ファング』が囲う。気に入らなかった女と男は、根拠地に送って働かせる。」

 シャトルに乗り込んだカイクハルドは、集落民にそう告げた。「それが嫌なら、支部の連中と一緒に行くか、シャトルでどこかに行くか、だ。」

 女達の中には、その場にいる集落民の男達の妻や娘や恋人といった者もいたが、そこは彼等も盗賊団だから、情け容赦はない。引き剥がして囲う。哀れな集落民達は、その運命を受け入れるしか無かった。

「ようし、新入りども、今回はお前らが主役だ。戦績順に、好きな女を選んで連れて行け。」

 カイクハルドの号令一下、戦術コンピューターにより公正に判定された、戦闘での成績が良いパイロットから順に、新入り達が集落民のシャトルに乗り込んで行く。シャトルの中にいた20人程の女達の中から、気に入ったのを選び出して連れて行く。

 父や夫や恋人の目の前で、「ファング」パイロットに連れ去られて行く女達だが、ついさっきまでは、“支部”の捕虜にされていて、全てを諦める心境でいた者達だったので、今更反抗する余力も無かったようだ。観念したように、おとなしく従った。

「俺は、女を囲うつもりなんかないんだ。」

 ヴァルダナは、生真面目に告げた。

「良いのか?イイのが居たぜえ。凄んげえ美人でナイスバディーだったぜえ。」

 新入り仲間にしつこく言われたが、頑として態度を変えなかった。通信機越しに盗み聞きしたカイクハルドは、苦笑を禁じ得なかった。

 戦闘艇のコックピットにも、パイロット以外に1人くらいは積み込める。新入りパイロット達は、選んだ女を同乗させてホクホク顔だ。座席の後ろに押し込んだ奴もいるが、膝の上に乗せて操縦する、といった不埒(ふらち)をしでかす奴もいる。

「お、他の戦隊も集まって来たぜ。じゃあ、『シュヴァルツヴァール』に戻るとするか。」

 カイクハルドの一言のもと、百隻が一団となって、「ファング」は帰途に付いた。


 「シュヴァルツヴァール」の傍には、小型の輸送船が並列していた。今回の“訓練”で、大量の物資や捕虜が獲得できると見込んで、根拠地に送り届ける為の輸送船を、カイクハルドは手配しておいたのだ。

 各戦隊が、“似非支部”かもしくは他の盗賊団を襲って壊滅させ、物資と捕虜を獲得して来た。希望する全ての新入りが女を囲えるくらいの、上出来の戦果だ。物資も「シュヴァルツヴァール」に積み切れないくらいあった。

 いくらかの物資と捕虜を「シュヴァルツヴァール」に収容し、残りは根拠地行きの輸送船に積み込んだ。後は輸送船を送り出すばかり、となった。

 が、根拠地行きの宇宙船の発進直前、「シュヴァルツヴァール」から、慌てたようにシャトルが一機、輸送船に向かった。

「何だ?ありゃ。」

 「シュヴァルツヴァール」の航宙指揮室に設置されたモニターでそれを見たカイクハルドが、操艦を担当しているトゥグルクに尋ねる。

 お気に入りの少女を、相変わらず裸同然の恰好で(はべ)らせ尻を撫でながら、トゥグルクが応えた。相変わらず羞恥に顔を赤らめている少女だったが、幾分慣れた様子も覗える。

「せっかく奪い取って来て、囲った女を、元の(さや)に戻す、って阿呆な話だ。根拠地経由で、戻れる可能性を探らせてやるんだと。」

「・・そうか。新入りどもは、ほとんどが下層民の出身だからな。帝政側や軍政側や連邦支部と、支配の主は違えど、似たような境遇の連中だ。同じ下層民の娘に泣いてせがまれれば、情の一つも湧くってか。まあ、囲った女をどうしようが、勝手だがな。」

「手を出した上で戻すんだか、手も出さずに戻すんだかは、知らんがな」

 トゥグルクは、白けた顔で語る。「元の鞘に戻って、どんだけ良い想いができるか、だな。支部に騙されたり盗賊を追い払えんかったり、ってそんな集落に戻ってもなあ、前途は明るいと思えんぞ。多分、『シュヴァルツヴァール』に残った方が、良い生活ができるんじゃがな。」

 撫でていた尻を、ぴしゃりと軽く叩いたトゥグルク。叩かれた少女は複雑な表情で、モニターの中のシャトルを見ている。戻るのと残るのと、どちらが幸せか、彼女にも答えを見つけられないのか。

「さあな、それは、人それぞれだ。贅沢や安全だけが、幸せでもねえからな。」

 それがカイクハルドの答えだ。「が、せっかく頑張って戦績上げたのに、女を囲えんかった連中も哀れだな。もっと身分の高い女だったら、遠慮なく慰みものにできたのかもな。訓練で帝政貴族や軍閥エリートに手を出すのは重た過ぎるが、この次は、気楽に囲える上流階級の女のゲットを目指すか。」

「あっはっは、よく言うわ」

 尻を撫でる手つきも軽やかに、トゥグルクは笑った。「2年間も、高級貴族の娘に手を付けておらん奴が。」

「馬鹿野郎。俺は遠慮とかで抱いてねえんじゃねえぞ。じゅ・・」

「熟成じゃろ。何回も聞いたわ、その意味不明な言葉は。」


 訓練は、それからも更に続いた。「ファング」だけでフォーメーションの確認をする事もあるし、手頃な似非支部や盗賊団等を、訓練の道具として襲撃する事もあった。15日程に渡って訓練し続けた後、彼等は「バーニークリフ」へと戻って行った。

「格闘タイプと攻撃タイプと防御タイプを織り混ぜて、一個の単位(ユニット)を形成しておるのか。非常に有効なようじゃが、各単位のリーダーには、かなりの能力が求められるじゃろうな。それを、どうやって仕立てたんじゃ?」

 模擬戦闘のデーターをディスプレイ上に見ながら、プラタープ・カフウッドが尋ねる。「ファング」と、プラタープ配下の戦闘艇部隊との間で行われた、模擬戦闘の結果だ。「バーニークリフ」第1セクションの指令室内で、カイクハルドはプラタープとデーターの検証を行っていた。

 訓練の仕上げでもあり、「カフウッド」ファミリーへの売り込みの為の、デモンストレーションとしての意味もあった。

 模擬戦闘とは言え、「ファング」に全くダメージを負わせる事無く、配下の軍を全滅させられたプラタープが、彼らを評して語った。

「仕立てるなんて、特別な事はしてねえよ。取りあえず、やらせてみるんだ。パイロットとしての腕と経験が、ある程度備わって来たと思った奴から順番にな。リーダーとしての能力なんて、実践の中で確かめ、実践経験を重ねて磨くしかねえんだ。」

 ほとんど重力の無い指令室内を漂いながら、カイクハルドは答えた。

「リーダーに抜擢する奴の腕や経験というのは、どんな基準で決めておるんじゃ?」

「明確な基準はねえ。戦闘での動きを見たり、本人と話したりした上での、直感的な判断かな。連携の重要さや、各フォーメーションでの味方や敵の動きに対する理解度が、ある程度以上なら、単位のリーダーをやらせてみよう、って気になる。大事なことは、普段からちゃんと全員を見て、全員と話をして、その上で判断する事だ。見もしねえ、話しもしねえでは、正しい判断はできねえ。」

「ちゃんと全員を見て、全員と話しをしてか、なるほどのう。」

 名将は、深い思慮に堕ちて行った。恐らく軍閥の棟梁という立場の者には、全く効き馴染みのない「ファング」独自のやり方が披瀝(ひれき)されているのだが、プラタープは大きな抵抗も無くそれを咀嚼(そしゃく)しているようだ。

 「ファング」のやり方が正しいかどうか、彼等にとって使い物になるかどうか、はともかく、色々な考え方を受け入れる思考の柔軟さを、プラタープは持っているようだ。カイクハルドの名将への評価を、更に幾分か高める姿だった。

今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 '18/4/28 です。

似非支部、というものが何をモデルにして描かれているのかは、この物語が下敷きにしている古典が何かに気付いた人には、理解されているでしょう。古典が何かまでは気づかなくても、なんとなくあれがモデルかな?と感づいた人もいるかもしれません。いずれにせよ、表面上は慈善団体であるように見せかけ、実質的には非道な事をして私利私欲を追及している団体、というのは歴史上には数えきれないくらいあるでしょう。歴史上だけでなく、現代社会でも、慈善団体や福祉施設の看板を掲げながら、実は灰汁どい事をしている連中もいるのだと思います。企業や政治団体や、もしかしたら国家にも、そんなのがあるのかもしれません。始めから悪い事をするつもり満々なのに、表向きは世の役に立つ団体であるかのような看板を掲げている場合もあるでしょうし、始めは本当に善意に満ちて団体を作ったのに、途中から変質して、そうなってしまったものもあるでしょう。似非支部の描写を通じて、表は慈善裏では極悪といった団体の、色々な類型を表現してみよう、という気持ちで書いてみているのですが、難しいなあ、という感想で居ます。いくら表面的に良さ気に見えても、団体というのを簡単に信用したらダメだな、なんて読者様に思ってもらえれば、まあ、ぎりぎり成功、と言えるでしょうか。でも、それはあくまでサイドストーリーなので、あまり深入りもできず、ただ複雑さを増しただけ、になってしまっているかもしれません。なんか、ややこしくて面倒だな、と感じられた読者様は、似非支部の事は完全に無視して読み進めて頂いても、特にストーリーを見失う事はありませんので、お気軽に構えていて下さい。でも、物語の世界観に深みを持たせるためには、こんなサイドストーリーもあった方が良いんじゃないのかなあ、という思いで、作者はこれからも書き続けます。ご了承下さい。というわけで、

次回 第14話 戦争への気迫 です。

模擬戦闘に関する話し合いが、次話の前半では続きます。ここもかなり理屈っぽいですが、スコーンと読み飛ばしてもストーリーは見失いません。ご興味のある読者様だけ、熟読頂ければ良いか、と。ですが、そんな読者様が1人でも多くおられると、作者はとても嬉しいのですが。後半には、ストーリーの理解に必要と思われる固有名詞も登場するので、よろしくお願い致します。


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