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全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-  作者: のみかん@遠野蜜柑
『勇者伝』編

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第206話『王城にて……②』





「たわけ! 王である余がいるのにそのように粗雑に入ってくるとは何事か! しかし……ほほう? それが魔王の亡骸で作り上げた意のままに動く人形か? フッ、仕方ない。今回は成果を出した功績に免じて不問としてやろう」


 ハルンケア8世は偉大な王らしく寛容な姿勢を演じて彼女を許したのだが……。


『フハハ、あの小デブの王はまだわかっていないらしいな』


 赤髪の男が女に話しかけながらハルンケア8世を指差し、まるでハッキリとした自我を持っているかのような発言をした。


 その姿はどう見ても意思を持っていない人形などではない。


「き、貴様……なんだ……もしや魔王スザクそのものなのか……!?」


 ごくりとツバを飲み込み、恐る恐る訊ねるハルンケア8世。


『それ以外になんだと思うのだ?』


 至極当然のように男……魔王スザクがそう答えたことでハルンケア8世を始めとする室内にいた側近の貴族たちは一斉に顔を青ざめさせる。


「き、騎士は何をしている! なぜこんなやつらを通したっ! 陛下の身が危ないぞ! 早く誰か来ないか!」


 宰相が慌てて廊下に向けて叫ぶも、応答は一切なかった。


『この城にいるような練度の低い騎士どもに我が止められると思うたか?』


 スザクが手の平に禍々しい炎を灯して不敵に笑う。


「ま、まさか……」


 ハルンケア8世が視線をスザクらの後方に移すと、入り口前には黒い灰のようなものでできた小山がこんもりと二つほどあった。


『陛下、素材集めに協力して下さったこと、誠に感謝いたします。せっかく勇者に排除してもらった国の危機を自ら復活させたがるとは、本当に愚かな王で助かりましたわ』


 つい先日までへりくだった態度を見せていた女が身を翻し、遠慮なく嘲ってきたことでハルンケア8世は感情の制御を失った。


 こめかみに血管を浮かび上がらせ、怒鳴り声を上げる。


「貴様! どこの誰とも知れぬ流れ者を筆頭魔道士候補として城に置いてやった恩を忘れたのか! 誰にモノを言っておる! 不敬にもほどがあるぞ!」


 王の威厳ある怒りに彼女は恐れおののくはずとハルンケア8世は踏んでいた。

 だが、女はてんで堪えた様子もなく余計に侮るような態度を重ねてきた。


『ええ、そこも愚かなのですよ。普通、得体の知れぬ魔道士をあんなにあっさりと国の重要職の候補に据えるでしょうか? 魔王の力が手に入るという甘言に乗り、あそこまで容易くわたくしを受け入れるとは思いませんでしたわ』


「な、な……」


 女に浅慮さをずばり指摘され、二の句が継げなくなるハルンケア8世。


『ふふふ、本当にまったく、あなたは愚王以外に他なりませんね』


 追い打ちとばかりに口元に手を当てて女は小馬鹿にしたように笑う。


「だ、黙れぇ……余は、余は愚かではないッ! 散々平凡な王だと言われてきたが、余はこれから王国、共和国、大聖国に留まらず、あの大国のカッツォ帝国やエビ連邦までを併呑し歴史に名を残す名君となるのだ!」


 魔王の力を手中にして実現を目論んでいた絵空事の展望を語るハルンケア8世。

 今のこの状況になってはどう足掻いても実現不可能とわかるはずの国図拡大。

 それを彼は未だに叶えられるつもりでいた。


『確かに歴史に名は残るでしょうね? ただし、私欲に溺れて魔王を復活させ、国を滅ぼした平凡以下の愚王として』


「く、くあああああぁぁぁああぁぁあっ! よ、余を愚かと言うなあああああああああ! 平凡だと言うなああああああ!」


 ハルンケア8世は顔を限界まで真っ赤にして半ば発狂気味に叫んだ。


 平凡どころか平凡以下、という評価はコンプレックスの許容を越えすぎていて耳に入らなかったらしい。


『ククク……あまりからかってやるな、憐れだろう?』


『だって……もはや愚鈍な王に仕えるフリなど必要ありませんから。討ち取られたと聞いたときは心が張り裂ける思いだった、わたくしの本当の主が復活したのですもの。口も軽やかに回るというものです』


『その件についてはいらぬ心労をかけてしまったな。まあ、公国の王が上手く利用されてくれる間抜けで助かった。おかげでこうして我は蘇ることができたのだから。ハルン公国の王よ、とてもとても、感謝しているぞ? ふはは!』


 嘲笑混じりに礼を言う魔王と歓喜に浮かれる女。


「ば、ばかな……! 余が騙されていただと……!? 余は王族ぞ? 国王なるぞ? こんなことが……きいいいいいいいいいっ」


 ハルンケア8世は頭を抱えて俯き、受け入れがたい現実から逃げるためか、金切り声を上げ始める。


 もちろん、そんなことでは現実は変わらない。


「へ、陛下ぁ……」


 宰相らがただただ落胆し、失望感を抱くだけであった。


『身の程を知らずに栄光を求めた王よ、お前の利用価値はすでにない。死ね』


 スザクが感情のこもらない冷徹な口調で言うと、主人の意を汲んだようにフードの女が魔法を行使する仕草を見せる。


「させないよ」


 女の挙動を素早く察知したシリウスは無詠唱で光の球体を放って女を撃ち抜いた。


 シリウスの魔法を食らった女は後方に吹き飛んでいき、ガシャンガシャンと人体が奏でるには不自然すぎる硬質な音を響かせて床を転がっていく。


 転がる勢いでフードが剥がれ、全身をバラバラにしながらその下に隠されていた身体が白日の下に晒される。


「なっ! 魔導人形だとッ……!?」


 ハルンケア8世が掠れた声を出し、その目で見た事実を述べた。


 そう、女の身体は表面こそ皮膚を模した素材で覆われていたが、その中身は無機質な金属などのパーツで構成されていたのだ。


「やはり本体ではなかったようだね。本物はあっちにいるってことかな……。しかし、このレベルで人として違和感のない声を発し、長期間作業をこなせて自由に動ける人形は僕でも扱いに難しいよ……さすが古代の……といったところだ」


 シリウスはおおよそ検討をつけていたのか、女の正体が明らかにされてもさほど動じていなかった。


 だが、


「ど、どういうことだ? あの女は人間ではなかったのか? それでは、余は何を城に置いておったのだ?」


 ハルンケア8世を筆頭に側近貴族たちは取り乱し、ガクガクと震えた情けない姿を晒す。


 そんな彼らをシリウスは冷めた目で見つめていた。


「まったく、国の政治のトップがこんな間抜けの腰抜け揃いでは先が思いやられる……あの方もこれから大変だろうな」



『心配せずともこの国に先などはない。今ここで滅ぶのだから……』



 スザクが獄炎の炎を手に灯して室内の総員を焼き尽くそうとした瞬間――



 シリウスが溜息を吐きながらパチンッと指を鳴らす。


 すると、魔王スザク以外の室内にいた面々はその場から忽然と姿を消した。



『これは……結界を張られたのか? 城内にいる人間の気配も消えた……。城の者を転移させてから展開し、我を城に閉じ込めるとは凝ったことをしてくれる。しかも、この強度は我でも即座に破壊するのは難しいモノだ。転移魔法と結界、それぞれここまでのものとなると、前々から時間を掛けて仕込んでいたようだな。さすがはシリウス・ドランスフィールド……神から直に力を与えられずとも世の常識を越えた才覚を持って生まれた者の一人よ」



 一人残された部屋にて、スザクはしてやられたことを歯噛みすると共に、シリウスを敵ながらに賞賛するのだった。




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