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29 孤独と共感 3

 29


 なんで僕が前項のようなものを書いたのかと言うと、こういうある人の台詞を思い出したからなんですよ。


「矢暮君は強いからいいよね。でも私はそうじゃないんだ。だから……」


 その人は小さい会社ながら、当時会社役員をやっていた人の言葉です。


 ☆☆☆


 これは二十年以上も前の、僕が社会に出て間もない頃の話。


 その頃はバブル景気崩壊の前後の時期でして、僕らの世代に於いては今ひとつ浮世離れした感覚はあっても、それなりにバブリーな恩恵がない狭間な部分がありました。


 その頃、某○ウム真理教という集団が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしているような世相が時勢を表しているように、様々な〝新興宗教〟が世間に広まっていました。

 いわゆるバブル景気の裏に〝新興宗教ブーム〟と言うものがあったんです。


 ☆☆☆


 その会社役員は僕の上司でした。それもかなり上のランクの。


 まあ、ここまで書けば分かるかと思うのですが、その人はとある新興宗教の信者でした。

 その新興宗教というのは、世間ではあまり有名ではないので、これを読まれている方々は多分知る由もないところなのでしょうが、調べてみるとそれなりの信者数を誇っているという集団なのです。


 もちろんそこの信者はその人だけではなく、ある一派(役員がらみ)に強引に勧誘された一般社員も相当数いたように記憶されています。


 僕はというと、この性格ですからね。思考を単一化することを子供の頃より好まないので、無論断り続けていました。そのおかげで軋轢ばかりが増えて……。


 そこんとこはよくある、新興宗教勧誘あるある話なので割愛しますが、ホント、心身がボロボロになるほど大変だったんですよ。


 ただね、そのおかげで世の中の色んなこと知ることが出来、奇妙奇天烈なことが体験できたわけですから、今となっては形のない宝のようなものだと思っています。

  

 ☆☆☆


 その時の、その役員の上司はどこか理解があって、


「矢暮君には、私たちの信じている宗教はいらない」


 と言って、その人だけは僕を強引に勧誘することはなかったんです。


 その人、その時分、若いペーペーだった僕の目から見てもとても仕事の出来るような人ではなかったんですけど、どこか気持ちの優しい、というかお人よしのところがあって、ときどき一緒に出張するときなどは、色んな話し合いをしたんです。


 その時に、僕は率直に聞いてみたんです。


「○○さん(上司の名前)は、なぜあんなものに入信なんかしたんですか?」と。


 そしたら、その上司も率直に答えてくれたんです。


「私たちの世代は、田舎の貧乏百姓の出が多くて、それで頑張って大学なりの学校をなんとか出て、それでふんばって生きてきたのよ。それがあれよあれよと言う間に好景気が来て、それでもってこのバブルだろ? 何も考えず、ただ金が欲しい、いい暮らしがしたいってやって来たから、気がついたら〝いつまでこのいい暮らしが続くのか?〟〝これでいいのか?〟ということが不安になって……」


「それで神頼み……てなわけですか?」


「いかにも、(少し間があって)……そうだね。言葉で言うのは簡単で、それでいて安っぽくなってしまうが、とどのつまりはそんなところだ」


 そんな会話が交わされた後、上司は最後の締めくくりにあの言葉を言ったんです。


「矢暮君は強いからいいよね。でも私はそうじゃないんだ。だから……」



 ☆☆☆


 





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