道場破り
今日中に5話までは転載する予定
引き戸が勢いよく開いた。
「たのもー!!」
「うわっ!?」
自分で叫んでおいて、遥は一瞬だけ息が詰まった。
汗と滑り止めの臭い、床には打ち合い用の武器が転がり、壁際にはヘッドギアやバックパックが並んでいる。
そして――視線が、刺さった。
部室にいた男子たちが一斉に振り向いたのだ。
さっき驚きの声を上げたのは、中央に立っていた長身の先輩だった。部長さんだろうか? 爽やかなイケメン顔は甘く、精悍でもあり、モテそうだ。
その先輩が、状況を理解しようとするみたいに、少しだけ眉を寄せる。
「え……っと、君たちは道場破りか何かかい?」
あ、しまった。遥の額から汗が一つ流れ落ちる。
入部希望で「たのもー!」はない。
だが遥は胸を張る。今さら引けない。
「はい! 私たちも騎士部に参加しようと思いまして」
ほんの一拍。
次の瞬間、部室は爆発した。
「「……っわー――!!!」」
「やったー!! 女子キター!!」
「やっと、やっと男子ばかりの騎士部に女子が……!」
「苦節1年3か月……あ、あの髪の長いコを乗せたい!!」
「俺はあの茶髪のボブの子が良いぜ!」
「お、俺の腕にあの太ももが!」
「チチシリフトモモ、チチシリフトモモ……」
さっきまでの勢いはどこへやら。
遥の目が死に郁佳の目が死ぬ。瑠衣の目もたぶん死んだ。
――無理。普通に無理。やっぱ帰ろう。
遥がそう判断するより先に、郁佳と瑠衣が即座に切り捨てた。
「うわっ! キモ!」
「……キモイです」
我に帰り、つい反射で叫ぶ郁佳。
そして瑠衣の評価は短い。だが的確だった。
結女だけが、楽しそうに肩をすくめる。
「あらあら男の子ねー、……チラっ☆」
少しだけスカートの裾をたくし上げる。二度目の爆発。
「「うお――!!!」」
普通にうるさい。郁佳が嗜めた。
「ちょっと、結女、やめなよ」
「えへへー、ごめんごめーん」
場を収めるように、さっきのイケメンな先輩が咳払いをする。けれどその咳払いは、空気を整えるというより“圧”だった。
「……あ、あー、ごほん。僕は騎士部の部長をやらせてもらっている重音和音だ。その辺で勘弁してくれるかな? こいつらには目の毒だ。な? お前ら?」
笑顔で凄む和音。部員全員が慌てて頭を下げる。
「「す、すみませんでしたー!!!」」
なるほど、これが先輩というやつか。
安堵と共に遥の目に生命が戻った。
この人なら、話が通じる。よね?
和音が改めて四人を見渡した。その目は柔らかいのに、芯が硬い。
「で? 騎馬戦ゲームに参加するってことは、なるほど。君たちもニュースを見たんだね? それは心強い。うちのチームは……残念ながらあまり強くはないから、新しい戦力は大歓迎だよ! とりあえず君たちの名前を教えてもらってもいいかな?」
遥は一歩前に出る。
「牛島遥です」
「長谷部郁佳です」
「日野結女ですー、よろしくお願いしますー」
「…… 山ノ井瑠衣、よろしく……です」
「よろしく。あー、敬語はいらないから普通に話して」
「ありゃ? そうなの? おっけー! じゃあ普通に話すわね」
遥の切り替えの速さに、重音先輩が吹き出す。
目の奥の硬さは見えなくなっていた。
「あはは、切り替えが早いね! えっと、ところでチームに参加したいってことだけど、君たちは何か武術的なものの心得とかはあるのかな?」
目をぱちくり、そしてにやり。いきなり“実力”の話。いいじゃない。
遥は肩を回して、できるだけ軽く答えた。
「私はそんなのはないかな。運動は超得意だけど」
郁佳が続く。
「僕は一応、剣道の初段を持っています」
結女は笑顔のまま、さらっと逃げる。
「内緒です―っ❤」
瑠衣は胸を張ったまま、さらりと言った。
「柳流古武術を一通り……。瑠衣、これでも師範代」
渾身のドヤ顔である。無表情だけど。
重音先輩の目が、ほんの少しだけ細められる。
「へー、剣道に古武術か。古武術の方は聞いたことがない流派だけど……君、師範代なんだ。それは楽しみだね! 一応訪ねておくけど、皆は騎馬戦ゲームのルールは知ってるのかな?」
「もちろん知ってるわ! 大丈夫よ!」
――――――――――
部室の片隅にある黒板の前に立った遥は、おもむろにスマートフォンを取り出し、なにやら音を鳴らし出した。
《SE:ジングル》
《M:楽しい》
「こんにちは! 牛島遥です!
話の途中なんだけど、ここらへんで物語の中心
―― 騎馬戦ゲームのルールを簡単に説明するから、みんなよく聞いて覚えてねっ!」
「おぉ……」
「はーい」
「いったい何が始まったの?」
低体温のまま驚く、楽しむ、困惑顔。三人三様の反応を見た遥は、どこからともなくハンドポインター(指差し棒)を取り出して、
ニヤリとわざとらしく咳払いをする。
小指と中指が曲げられた”ぐわし!“の形になっている。微妙な顔の重音はつっこみをひかえた。
(おっほん)
「まず、騎馬戦ゲームは簡単に言うと、バックパックを背負ってヘッドギアをつけて戦う“騎馬戦”よ!」
チョークが走る。黒板に雑な図が三つ並んだ。
「騎馬の形は1人、2人、3人の三種類ね。
3人騎馬は三人の馬役が土台になっていて、馬役の負担が少なく安定して強いけど、小回りが利かない!
2人騎馬は馬役が二人だから、小回りが利く代わりに、馬役の負担が増える分、スタミナが切れやすいのが難点ね!
1人騎馬はシンプルに歩兵扱いよ。速いけど判定が不利になるわ!」
ハンドポインターがくるくると元気に動く。
「そしてここがキモなんだけど、今言った判定ね。騎馬戦ゲームは帽子の取り合いじゃなくて、生体センサー付きのスポチャン武器で殴り合う団体戦!」
遥は一瞬だけ遠い目をした。
「……当たるとけっこう痛いんだよな、アレ」
気を取り直して
「で、当たる位置、角度、威力(速度×重さ)でダメージが蓄積して――、一定量を超えると」
遥は黒板にでかでかと書いた。
『ヌルヌル』
「ぬるぬるー?」
「ヌルヌル……」
「うわぁ……」
「バックパックの真っ赤なローション(血糊代わり)が、頭からどばー……って……」
「それはいやねー」
「それは大惨事……」
「そう! 大惨事! こうなったら立つのも難しいからリタイアね! 勝利条件は制限時間終了時の生存率か、総大将が落ちた時点で決着!って言うゲームよ!」
「だいたいわかった」
「そうねー」
「って、いったい誰に説明してたの?」
「え? 読者のみんな」
「それ言っていいの!?」
「メタい……」
遥はチョークを置き、満足げに頷く。
「ま、細かいルールはおいおい出てくるから、ぜひぜひ本編を楽しんでいってね! ではでは!」
《SE:ジングル終了》
—――――――――――
重音先輩は頷き、すぐ次に進める。
「ふーん。そっか! じゃあ一度模擬戦でもしてみようか? 君たちの今の実力とか適正を知るのにはそれが一番手っ取り早いからね」
遥の胸が、どくんと跳ねた。
いきなり試合。けれど、望んでいたのはそれだ。
不敵に笑う顔はニヤリと心底嬉しそうだ。
「模擬戦かー! 楽しそうじゃない! ルールはどうするの?」
「そうだね、4対4の組み合わせ自由のフリー対戦なんてどうかな?」
結女が首をかしげる。
「フリー対戦って何ですかー?」
「騎馬の構成を陣営ごとに自由に決めて戦う対戦方式のことだよ。他にも騎馬限定戦とか歩兵限定戦とかもあるけどね!」
「……へー。じゃあ、そのフリー対戦の形式でお願いしますー」
重音先輩の目が細くなる。笑っているのに、見透かされている感じがした。
「……何か作戦があるみたいだね?」
「ふふふー。さてー? どうかしらー?」
「ははは。差し詰め君の役どころは軍師ってとこかな? ……面白いね。よし、まずは作戦会議の時間にしようか」
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カクヨムからの転載です




