〈閑話5〉はるかとゆめのはじまり
前日譚、第0話みたいな話でしょうか
音声ドラマ版では語られていないエピソードを含む閑話を4話、投稿後に本編に戻ります。
これは、わたしとはるちゃんが初めてちゃんと話した日の回想録だ。
ついでに言えば、瑠衣ちゃんをひょいっと拾って、ふみちゃんが巻き込まれて、なんだかんだ四人組の原型みたいなものができた日でもある——。
——わたしは、たぶん可愛い。
別に自慢したいわけではない。事実として、そうなのだと思う。
中学の頃は、先輩にも後輩にも告白された。サッカー部のキャプテン、バスケ部のキャプテン、テニス部のスーパールーキー。そうそうたるメンバーだ。おかげで今度はそれが気に食わない誰かに遠巻きにされた。
面倒くさいなあ、とずっと思っていた。
歴史上の戦争も、案外こんなくだらないやっかみから始まっていたりするのかな、と考えたこともある。
美人が一人、王の寵愛を受けたとか。誰かの嫉妬が火種になったとか。
だとしたら、人類は思っていたよりずっとしょうもない。
教壇の前で、担任がぱん、と手を打った。
「はい、校外学習のグループ決めを行う。それぞれ仲のいいメンバーと組んで良いぞ」
教室が一気にざわつく。
机を寄せる音。
名前を呼び合う声。
笑い声。
いつものことだ。
わたしは頬杖をついて、ぼんやり窓の外を見た。
「出たー。仲のいいメンバーがいない人はどうしたらいいのー?」
小さく呟いたつもりだった。
「先生に聞いてみる?」
すぐ隣から返事が来て、わたしは思わずそちらを向いた。
そこには、見覚えのある女子が立っていた。
向日葵みたいにまっすぐで、無駄に迷いのない目。
たしか、遥。そんな名前だったはずだ。
「“仲がよくなくても組めますか?”って」
彼女は妙に真面目な顔で続けた。
「それ、聞けるくらいなら苦労しないんだけどー」
「そっか」
あっさり引いた。
優しさで踏み込んでくる感じじゃない。
それが少し意外で、わたしは彼女を見た。
遥はわたしの前の席の椅子をくるりと反対向きにして、勝手に座った。
「じゃあ、わたしと組む?」
「……え」
「わたし、まだ決めてないし」
「本当に?」
「うん」
即答だった。
あまりにも迷いがなさすぎて、逆に警戒する。
「同情?」
「いや?」
遥は、にしし、とでも書きたくなるようないたずらっぽい笑みを浮かべた。
……海賊王にでもなるの?
「じゃあ何?」
遥は少しだけ考えて、それから、けろっと言った。
「さっきの台詞、なんか面白かったから」
「……ほえ?」
わたしの口から出たことのない音が出た。
「仲のいいメンバーがいない人はどうしたらいいの、って。すごい真顔で言うんだもん」
失礼な人だ。
でも、笑われたことに、そんなに嫌な感じはしなかった。
たぶん彼女は、わたしを可哀想だから拾おうとしたわけじゃない。
単純に、気になったのだ。
それは少し、珍しかった。
「変な人だねー、遥さん」
「そっちもね」
「初対面で言うー?」
「結女さんだっけ」
「名前は知ってるんだ」
「そりゃ同じクラスだし」
遥はそこでふっと笑った。
「でも、ちゃんと喋るのは初めてだよね」
その言い方が、妙にまっすぐだった。
教室のあちこちでは、もうグループができはじめていた。
二人、三人、四人。
楽しそうな輪がいくつも重なっていく。
その中で、わたしの机の前だけが、なんだか別の空気だった。
「……わたしと組んだら、面倒かもしれないよ?」
「いいよ」
「即答だ」
「結女、頭よさそうだし。校外学習って、こういうとき頭いい人がいると助かるじゃん」
「利用目的がはっきりしてるわねー」
「あと、可愛い。もふりたい」
「……っ、ぷっ! なにそれー」
「褒めてるんだけどなあ。それに、わたしはわたしが面白そうって思うかどうかが一番だいじだし」
あっけらかんと笑う。
なるほど。
こういう人は、強い。
たぶん、この人は誰かを救おうとして手を差し伸べるタイプじゃない。
気になったら、勝手に隣に来る。
それだけだ。
だけど、そういう無遠慮さに助けられることも、たぶんある。
わたしは小さく息をついて、頬杖をやめた。
わたしにしては少しまじめな顔を作る。
「じゃあ、組む?」
「うん。組もっか」
「よろしく、遥」
「よろしく、結女」
その瞬間、担任が名簿を見ながら声を上げた。
「決まったところから順に書きに来いよー」
遥はすぐに立ち上がった。
「行こ」
そう言って、当然みたいにわたしを振り返る。
わたしは一瞬だけ、その背中を見た。
ああ、なるほど。
こういうのを、きっかけと言うのかもしれない。
戦争の始まりは嫉妬かもしれないけれど。
友愛の始まりも、案外、こういうどうでもいい一言なのだろう。
わたしは立ち上がって、遥の後を追った。
予感? わからないけど……
「なんか面白くなりそう」
……あの日、漠然とそんなことを考えながら、わたしははるちゃんの背中を見ていた。
きっとあの日が転換点とかいうやつだったんだ。
ちなみに、わたしと同じように教室の隅で空気になっていた瑠衣ちゃんを、はるちゃんが軽い感じで誘って、いや、小脇に抱えて先生のところに行ったら「……お前らだけじゃ心配だ」
なんて言って、無理やり私たちの中に入れられたのがふみちゃんだ。
「なんか、トラブルの匂いしかしないんだけど」みたいな嫌そうな顔をしてたなあ、と思い出すと少し笑ってしまう。
それにしても引率の同級生ってどういうこと?
まあ、おかげで仲良くなれたからよかったんだけど。
このあと四人でぐだぐだできる場所をゲットしたり、はるちゃんが色々やらかしたり、瑠衣ちゃんの実家まわりの変な事件に巻き込まれたり。
そのあたりはまた別の話、かなー。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次回予告:瑠衣と遥と薄い本
こちらは音声版にはないオリジナルストーリーとなっております。
ちなみに、音声ドラマ版はこちら
⬇️
https://youtu.be/gRI-3_WpV20?si=oSTRsGV91S3PhCWZ




