決着!
潔岳高校戦ラスト
重音の大鉈が唸るたび、乾いた打撃音が立て続けに響いた。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ――っ! はぁはぁ……くそっ! 変形三人騎馬、なんてやりにくい!!」
相手は通常の騎馬とは勝手が違う。前方に武器が集中しているせいで、間合いを一つ読み違えれば即座に迎撃を食らう。しかも残っている潔岳の部隊は、最後まで食らいついてくる執念深さまで備えていた。
「そろそろ倒れろ! 重音和音!!」
潔岳歩兵部隊のモブBが、息を荒げながら突っ込んでくる。
「ぬぅん!」
重音が大鉈を振り抜く。
だが、モブBも食らいつく。横合いから他の潔岳部員たちも次々に仕掛けてきた。正面には変形騎馬。左右からは歩兵部隊複数人。それでも持ち前の技と勘、元部長としての意地で持ち堪える重音。
「そうだそうだ!! イケメン死すべし!! ぐはぁっ!」
「死すべし死すべし!! ぐはぁっ!」
「そうだそうだ何がホワイトナイトだ!! その顔面を俺によこせ!! ぐはぁっ!」
ドボンドボンと、重音の斬撃をくらい、文句を言いながら勝手に倒れていくモテないモブ部隊。何しに来たのかよくわからないが、厄介なのは厄介だった。
「はぁはぁ、終わりだ! でやぁあああ!!」
重音が左斜め上から袈裟懸けに切り落とす。
……が、疲労の色は隠せなかった。
モブBが槍で受け止め、ずらす。渾身の一撃を叩き込んでくる。重音はそれを受け止め、弾き、さらに返す。
「くっ! ぐぬっ! たあっ!! 負けてなるものかぁっ!!」
打ち合いの最中、嫌な感触が走った。
大鉈が手元から弾かれ、地面に転がる。
「ぬあっ! しまった……我の武器が!」
「重音和音!! もらったぁぁっ――!!」
モブBが勝利を確信して踏み込んだ、その瞬間。
「見よう見まね……牙突!!」
一直線の鋭い突きが、モブBの尻の肉を斜めから割るように——綺麗に刺さった。
「あっ❤ は――ん!!」
モブBが目を白黒させながら吹き飛ぶ。
「……あ、ごめん変なとこに刺さっちゃった」
郁佳だった。
本人はわりと本気で謝っていたが、刺さった側からするとたまったものではない。
「ま、まさるー! ひどい!」
モブBは、まさるという名前だったらしい。潔岳モブCDEの悲鳴とともに、まさるの頭上からローションが降り注ぐ。「無念」ずるりと倒れたその姿を確認してから、重音はようやく大きく息を吐いた。
「はあはあ、郁佳か、今のは危なかった! 助かったぞ! 守備隊の方は大丈夫なのか?」
「どういたしまして。向こうは縦島君たちが頑張ってくれてるよ」
「そうか。では我らは遥の加勢だな! 本隊を叩きに行くぞ!」
郁佳が頷く。二人はすぐさま視線を前へ戻した。
◇
その頃、遥の部隊は潔岳部長の直属部隊との一騎打ちに近い激突を繰り広げていた。
「てやぁぁああっ! 唸れバスターソード! 六連撃!! おおおおおおおお!!」
巨大な剣が、信じられない速度で連続して振るわれる。
重く、長く、普通なら扱いづらいはずの武器を、遥はまるで身体の一部のように振り回していた。
「何度も食らうかぁっ! おらぁっ!」
潔岳部長もまた強い。
真正面から受け、流し、そして隙を狙って斬り返す。
「甘いっ!」
遥の一撃が相手の肩口をかすめる。だが決定打にはならない。
「ちぃっ! そこだっ!」
「なっ!」
「甘いのはお前だ! 回転斬り!!」
潔岳部長の身体がぐるりと回転し、横薙ぎの斬撃が遥を襲う。
「しまっ……!」
まともに食らえばただでは済まない。センサーのダメージ判定は正確だ。
遥は咄嗟に身をひねったが、浅く肩口を打たれた。
「きゃあっ!」
「くそっ! 浅かった! 仕留め損ねた!」
「っく! あ、危なかったぁ! 流石は総大将! やるわね!」
その時だった。
背後から力強い足音が迫る。
「おおおおおらぁ!!」
重音の咆哮とともに大鉈が振り下ろされる。
「ぬおっ! 貴様! 重音和音!!」
「遥! 無事であるか?」
「遥! 加勢に来たよ!」
「二人とも!」
「ウエーイ……俺もいるんだけど」
「あ、田中君」
田中よしおだけ軽く流される。可哀想。
もはや瀬戸際の主力が勢揃いである。
「ちいっ! 竜司達までやられたのかっ!? くそっ! 流石にここまでか。お前ら、俺を降ろせ」
潔岳部長は騎馬を解き、自ら地面へ降り立った。
その顔には、もはや焦りと悔しさしかない。それでもなお、妙な誇りだけは捨てていなかった。
「おい、電光石火、お前は強い! 既に勝敗は決した! だが武人としてお前に一騎打ちを申し込みたい、騎馬を降りて俺と勝負しろ!!」
遥は一瞬ぽかんとした。
「……え? なんで? 嫌よ」
「……え?」
今度は潔岳部長がぽかんとした。
「……おまっ! ここは一騎打ちを受けて盛り上げるところだろ!!」
「え? いやいや、だって、私武人じゃないし、目的は試合に勝ってみんなとの毎日を守りたいだけだもの。目的と手段を履き違えるわけないじゃない。みんな! 一気に攻めるわよ!!」
あまりにも正論だった。
「そんな! つか俺もう一騎打ちする気満々で騎馬から降りちゃってるんだけど!?」
「我らの勝利だな」
「僕たちの勝ちだね」
「ウエーイ……ちと同情するがな」
「いくわよー! せぇーの!」
瀬戸際の主力と周囲の部隊が、一斉に武器を振り下ろす。
「ぎゃああー!!」
潔岳部長の頭上から、これでもかと赤いローションが降り注いだ。
直後、審判の笛が高らかに鳴る。
「ゲームセット! 勝負あり!! 潔岳高校総大将のリタイアを確認。瀬戸際高校の勝利です!!」
一瞬の静寂のあと、瀬戸際側から爆発するような歓声が上がった。
「大勝利――!!」
「「うおおおおおおお!!」」
◇
実況席でも、その熱狂は抑えきれなかった。
「いやぁ、素晴らしい試合でした! 総大将の最期はダサ過ぎましたけど……。とにかくこれで来年度より潔岳高校は消滅することになります。この名勝負がもう見られないというのは残念ですが、騎馬戦ゲームの歴史に残る名勝負だったでしょう!! 木戸さん、何かコメントを下さい」
「ああ……」
「木戸さん?」
「ああ、わたし、用事を思い出しました」
「え? 木戸さん? どこに行くんですか? 木戸さん!?」
「どいて、羽虫」
「私の名前は羽月ですよ! 羽虫ってなんですか?!」
「私、重音選手の所に行ってくりゅ……」
「行ってくりゅ、じゃねーよ! ボケぇぇえっ!! あ、ちょっとそこのスタッフさん手伝って! 木戸さんを捕まえて! あ、えっと、以上中継でした!!」
◇
その頃、敗者となった潔岳側では、御手洗由美が膝をついたまま呆然としていた。遠くからは瀬戸際高校の歓声が聞こえてくる。
「そんな……! まさか私の潔岳が負けるだなんて……」
そこへ、携帯電話の着信音が鳴る。
「……はい、御手洗で……っ! 貴方は!!」
相手は波里日校長だった。
声だけで、もう腹が立つ。
「……潔岳校長、試合に負けてしまいましたわね❤ とっても残念だわーん❤ それにしても以前の校区交換の時にあたしは言ったでしょう。瀬戸際高校には手を出しちゃだめだって。今あそこには伝説を色濃く受け継いだ四騎士の子供たちがいるのよ? 瀬戸際校長ちゃんとあなたの間にどんな因縁があるのかは知らないけどぉ……まあ自❤業❤自❤得❤ですわね」
「波里日校長っ!! 校区の交換を申し出たのは貴方の方でしょう!!」
「いやだーん❤ 私はかねてからのあなたの望みを叶えた、だ❤け❤ 逆恨みは止して~ん❤ まあ? 強豪が一校消えたのは私にとっては朗報だけどねぇ❤」
「まさか! あなた、最初からそのつもりで!!」
「さぁねぇ、どうかしらん❤ うふふ❤ そうねぇ、とりあえず、失業祝いにでもいっちゃう? レッツパーリー❤」
「ひっ! む、無職はいやぁあああ!!!!」
叫びが虚しく響き、通話は切れた。
電話の向こう側で、波里日校長は楽しげに笑う。
「さてと、我が校自慢のパリピナイツは全国大会一位。大丈夫でしょうけど、一応対策を練っておこうかしらね❤ そうねぇ、尼剃根栖高校と松擦流高校あたりと同盟でも組んでおこうかしら❤ ふふふ、ははは、――は―――っはっはっはっはっは!」
次なる嵐の気配を残したまま、その笑い声だけが長く、長く響いていた。
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次回よりい四話の閑話を挟んで本編に戻ります。




