大人たちの事情 〜ゲンドーポーズとおじさまと筋肉漢女〜
騎馬戦で校区を奪い合う、新しいスクールウォーズです。
戦術、戦略、盤外戦に熱いバトル。
最強(最凶?)4人の美少女たちと、愉快な仲間たちが織りなすギャグだらけのスクール(スペース)オペラ!!
美しい三日月が、静かに街を見下ろす夜。
春の残り香は薄れ、空気はゆるやかに夏へと塗り替えられていく。遠からず、蝉の声が満ちる季節だ。
だが、街の片隅にあるその会議室だけは、移ろう時の流れを拒むかのように窓を閉ざしていた。
室内は張り詰めた静寂に包まれ、空調の低い唸りだけが微かに響いている。
コの字に並べられた会議用の机を囲み、年嵩の男たちは肘を付き、無言で掌を組み、口元を隠すように手を当てていた。
そう、誰もが一度は見たことのある——
**“ゲンドウポーズ”**というやつだ。
……なお、一人だけ(?)がいる。
全員がゲンドウポーズで真剣な眼差しを向け合うその絵面はかなりシュールなのだが、本人たちはいたって真剣であり、その沈黙は、重い。
静かに、鋭く、三対の視線が交差する。
しばらくの無言。その沈黙を破ったのは、彼らをこの場に集めた中心人物――瀬戸際高校の校長だった。
「少子化が社会問題に取り上げられ始めて早や三十数年。生徒数の確保がいよいよ難しくなってしまった」
その声に、空気がずしりと動いた。
瀬戸際校長から見て左に座る筋肉質な人物が、わずかに身じろぎしたのだ。
その人物――波理日高校校長が、野太く、それでいて艶っぽい声で相槌を打つ。
剃り上げた頭の頂にのみ残された髪を編みあげた――いわゆる弁髪を左右に揺らしながら……。
「瀬戸際校長ちゃん……そうよねぇ。……困ったもんだわ❤」
はち切れんばかりの大腿四頭筋を、チャイナドレスに似たワンピースのスリットから覗かせ、ごん太の上腕二頭筋をミシリとうねらせ、西洋人がやるような仕草で両の掌を天に向ける。
お手上げ、とでも言いたいのだろうが、その背中には某オーガさんの“オーガさん”が棲んでいそうだ。
その向かい側で削れたSAN値を保つように、ゆっくりと目を閉じ、高級そうなスーツに身を包んだ中肉中背の男、宇恵井高校校長は深く頷いて言った。
「生徒の数が昔と比べて半分にも満たないとは……。瀬戸際校長、波理日校長、時の流れとは言え寂しいものです……」
瀬戸際校長は、宇恵井高校校長を一瞥し、数瞬、瞑目する。寂しい。だが寂しいで済む話なら、今日ここにはいないのだ。本題へと話題を進めていく。
「ええ。宇恵井校長の仰る通りです、ですが、寂しいで済ますわけにも参りません。このまま何も手を打たなければ我々の地位も危ういでしょう。学校の統廃合が進むのは仕方がないにしても、廃校の側に回ってしまうと……。我々の年齢で失業は死活問題です」
……男たちの額から、暑くもないのに汗が流れ落ちる。部屋に落ちた沈黙の中で、最初に本音を落としたのは波理日校長だった。
「……あたし、家のローンがまだ残ってるのよん❤ ……やばいわ」
最後にポツリと呟いた一言は、それまでと打って変わって、ただ太く、どんよりと濁り、艶っぽさは1ミリも含まれていなかった。
続いて宇恵井校長も、苦い笑みで続く。
「それは……私も元妻への慰謝料を払い終えておりません。やばいです」
その顔は絶望の縦線で目元まで隠れている。
瀬戸際校長は、もはや逃げ場のない声で言った。
「……ええ。自分も子供の教育ローンがまだまだたんまり残っており、かなりやべー状況です。そこで皆様に提案がございまして……これを見て頂いてよろしいですか? この内容で教育庁に連名で提出しようと思うのですが……」
机の上に置かれた書類。
そこに書かれていたのは――
“騎馬戦による学校同士の陣取り合戦”。
校区を、戦って奪い合うという、冗談みたいな企画書だった。
⸻
それから数週間後の朝、テレビから一つのニュースが流れる。
「おはようございます、ニュースキャスターの木戸菜月です。今朝のニュースをお伝えします。先ほど、教育庁から校区についての重大な発表がありました。
昨今の出生率の低下に伴う少子化問題で、教育施設の統廃合のため、学校同士の陣取り合戦が始まるとのことです。
陣取り合戦には、プロスポーツでも人気の高い騎馬戦、騎馬戦ゲームが選択され、当該校は隣接する学校に対して騎馬戦ゲームの宣戦布告をすることが認められます。
対戦で負けた学校は校区を奪われ、担当校区がゼロになった学校は廃校となり、最終的には学校の数を今の3分の1まで絞り込む計画のようです。
それでは次のニュースに参ります………」
朝食のパンを食べながら、ぼんやりテレビを眺めていた少女、遥の手が止まった。
胸の奥が、嫌な冷たさで固まっていく。廃校。校区ゼロ。陣取り合戦。宣戦布告。
どれも自分たちにとって遠い言葉のはずなのに、来年の自分たちの“日常”に直結している。
急いで着替え、パンを咥えながら学校へと向かう。
通学路の途中で美少年とぶつかるようなテンプレは起きない。
もし起きても吹っ飛ばす勢いの遥である。
騎馬戦で校区を奪い合う狂った世界、開幕。
可愛い女の子たちを期待していた人たち、おっさんばかりですみません:(;゛゜’ω゜’):ミステナイデ!
次話、ヒロイン全員集合。
そして物語はだいたい変な方向へ走り出します。
気に入っていただけたら、ブックマーク・評価・感想などいただけると嬉しいです!




