第66話 重臣の前で
翌日の午前、カルルが来た。「広間にお越しください。侯爵がお待ちです」
広間に入ると、人が集まっていた。重臣全員、主要な家臣が並んでいた。正式な場の空気だった。
エドヴァルドが正面に立っていた。
「来たか。隣に」
隣に、と言った。エドヴァルドの隣に、という意味だ。
私は歩いた。エドヴァルドの横に立った。全員がこちらを見ていた。
何が始まるのか、分からなかった。
「今日、この場に集まってもらったのは」とエドヴァルドが言った。「一つ、明言しておきたいことがあるからだ」
広間が静かになった。
「この二年——辺境の帳簿の問題、食糧管理の整備、医療記録の仕組み、物資計算のすべてにわたって、問題を発見し改善してきたのは」
一瞬間があった。
「妻である、レティシア・オルダムだ」
全員が動かなかった。
「今回の外交折衝も、夫人の兵站計算なくしては成立しなかった。誘拐という危険にさらされながらも、計算を完成させた」
私は——何が起きているのか、最初は理解できなかった。
「私はこの場で明言する。夫人の功績は、この辺境にとって不可欠なものだ」
エドヴァルドが終わった。
ガストンが動いた。白髪まじりの頭が、下がった。
「夫人に、感謝を」
全員が頭を下げた。
* * *
私は——どうすればいいか分からなかった。
「あなた方に、お礼を言うべきは私の方で——」
「受け取ってほしい」
エドヴァルドが、静かに言った。
46話と同じ言葉だった。「受け取る」という行為。
「……ありがとうございます」
全員の前で、言った。
声が少し揺れた。揺れたのを、自分で分かった。でも続けた。
「この辺境の皆さんが、変化を受け入れてくださったから、できたことです。私は記録をつけただけです。でも——ありがとうございます」
頭を下げた。
* * *
ガストンが頭を上げた時、その目には何かがあった。
「見誤っていた」という言葉が胸の中にあった。正式委任の前も、前もそれ以前も——この人を「城に来た侯爵夫人」という先入観で見ていた。役立たずと聞いていたから。
頭を下げることが、遅すぎたかもしれない。でも今日、この場でできた。
* * *
カルルは頭を下げながら、「ようやく」という言葉が内心に浮かんでいた。
ようやく、正式な場で。ようやく、全員の前で。
* * *
広間を出た後、ミレイが廊下で待っていた。
「……夫人、何があったんですか」
「重臣の皆さんが頭を下げてくださいました」
ミレイが目を赤くした。「それは……」と言いかけて、声が詰まった。
「泣かないでください、ミレイ」
「泣いてないです」
「目が赤いです」
「……泣きます」
ミレイが手で目を覆った。
私は少し、笑った。自然に。




