表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰の役にも立たないと言われて嫁いだ先で、私はようやく普通に仕事ができるようになりました  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/70

第55話 力を貸してほしい

「夫人、侯爵様がお時間をいただけるかとのことです」


 カルルの伝言を受けて、私は少し間を置いた。それから「承知しました」と言った。


 書斎へ向かいながら、試算の紙を持っていくかどうか迷った。呼ばれた理由が分からない。持っていけば「頼まれていないことをした」と思われるかもしれない。でも持っていかなければ、役に立てることが遅れるかもしれない。


 迷ってから、持っていくことにした。


* * *


 書斎に入ると、エドヴァルドが机の前にいた。書類が広げられていた。


「座ってくれ」


 いつもと少し違う言い方だった。


「状況を説明する。聞いてほしい」


 私は座った。


 エドヴァルドが話した。ヴォルダ公国の動き。二千の兵。外交的圧力。要求を呑まないという判断。そして——軍の備えのための兵站計算が、複雑になりすぎているという問題。


「カルルが計算を試みたが、限界に来ている。前提条件の組み合わせが多すぎて、空白が埋まらない」


「……はい」


「あなたの台帳管理の力を——軍の補給計算に、借りることはできるか」


 部屋が静かだった。


 頼まれた、と思った。


 これまでは自分から動いていた。問題があるから動いた。必要だから整えた。でも今日は——エドヴァルドが、私に、頼んだ。


「……やれます」


 言いかけて、少し言い直した。


「いえ。やります」


 エドヴァルドが少し目を細めた。


「手元の試算があります」と私は試算の紙を机に置いた。「昨夜から始めていました。まだ途中ですが、前提条件の整理はできています」


 エドヴァルドが紙を見た。しばらく見た。


「……昨夜から」


「はい。物資台帳を確認していたら、自然に計算が必要と思って」


「もう動いていたのか」


「問題があれば放置できない性分なので」


 エドヴァルドが少し止まった。それからゆっくりと言った。


「ありがとう」


 「ありがとう」だった。


 46話と同じ言葉が来た。でも今回は——「いただきます」と言う前に、自然に受け取れた気がした。


「こちらこそ。声をかけていただいてよかったです。遠慮していました」


「遠慮していたのか」


「邪魔になると思って」


 エドヴァルドが何かを言おうとして、少し間があった。「邪魔ではない」とだけ言った。


* * *


 カルルが書斎の外で待っていた。扉が閉まってから、少し息を吐いた。


 侯爵が頼んだ。ずっと「評価する」側にいた人が、初めて「頼む」という言葉を使った。それが何を意味するか、カルルには分かっていた。


* * *


 私は部屋に戻って、試算の続きを始めた。


 頼まれた仕事は、全力でやる。前世からそれだけは変わらない。


 でも——「頼まれた」ということ自体が、今夜はどこか温かかった。


「夫人!」とミレイが飛び込んできた。「何があったんですか!」


「仕事の依頼です」


「え……」


「兵站の計算を任されました」


「えっ!? 軍のやつですか!?」


「はい。では今夜は仕事をしますので、少し静かにしてください」


「……はい」とミレイが言った。少し目が輝いていた。


 明朝から始めよう、と思いながら手を動かし始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
他の書き手な方の作品でも、時折、文書中に、突然、台本や下書きのメモ書きの様に、「何話で話た」などと出てきます。AI的な物で作品を書いてるのでしょうか?それならそれで、校正をしてほしいなあ、残念だなあと…
淡々としながらも丁寧な描写で引き込まれて読んでいたのですが、一人称で描かれる物語で地の文とはいえ【◯話】と出てくる事に違和感を感じます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ