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なりたい職業ランキングで『冒険者』が一位から陥落した  作者: ミソネタ・ドザえもん
第二章:英雄候補生

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21.ニトロコング

この作品の魔物は、安直な名前の構成でお送りします。

 俺達が再びニトロコングを見つけたのは、林道を走ること数分後のことだった。


 ニトロコングは、俺とかち合った場所に戻ってきていた。


 周囲をキョロキョロと警戒する様から見るに、未だに俺とエリスの存在を警戒しているらしい。


「行ってくる」

「えぇ」


 俺とエリスは、物陰に隠れた状態で、ニトロコングが俺達に背中を向けるのを待った。

 ニトロコングは、右を見て、左を見て……体を反転させて。凝視して……。

 いまだ……っ!


「グゴォォッ!?」


 ニトロコングがようやく背中を向けた瞬間、俺は奴の背中にパンチをお見舞いした。


「グゴォ!? ガアァァ!」


 ニトロコングは周囲をキョロキョロ見回し、背中から一発パンチをお見舞いした俺の居場所を探した。

 俺はニトロコングに見つからないように、ヒットアンドアウェイの戦法を取り、殴った後、即再び草むらに身を潜めた。


「……思った通り」


 先程のこいつとの戦闘で、俺はいくつか気付いたことがあった。

 ニトロコングは、闇夜でも目が利くし、遠くにいる俺に攻撃を仕掛けられる程、視野も広い。


 しかし、背後に立つ俺よりも、目の前の揺れた草むらに反応した辺り、背後まではさすがに視界は広がっていない。

 そして、先程俺がこいつの爆炎に吹き飛ばされ、木に背中を打ち付けられた時も、こいつは俺達の居場所を特定することが出来なかった。


 つまり、耳はあまり良くないと見たのだ。

 目の良さに反する耳の悪さ。


 それは、この魔物の生まれ持った潜在的能力というわけではない気がする。


 恐らく、強力なあの爆炎のせいだ。

 あの爆炎の衝撃音は、けたたましいなんてものじゃない。それを間近で聞き続けた結果、こいつは耳が悪くなっていったのだろう。


 そして、俺はまたエリスとの会話を思い出す。


『でも、背後から攻撃を繰り返すだけでは、いつかは爆炎の餌食になるのでは?』

『いや、ならない』

『え、どうしてです?』

『……あいつ、俺があなたを庇って飛び込んだ時、俺の背中を殴ったんだ』


 エリスは意味がわからない、と言った様子だった。


『わからないか? あの場面、あいつが俺に爆炎をお見舞いしていれば、俺は間違いなく致命傷を食らっていたはずなんだ』


 しかし……。


『でも、あいつは爆炎を浴びせなかった』


 俺は首を横に振った。


『多分、違う。あいつは俺に爆炎を浴びせなかったんじゃない。出来なかったんだ』

『……それは、どうして?』

『思い出してみると、あいつが爆炎を放つ時には、一つの共通点があるんだ』


 俺が今回の戦闘で、あいつに爆炎を放たれたのは、二回。


 一度目は、開戦直後。

 俺の存在に気付いたニトロコングが、こちらに猛ダッシュを仕掛けてきた時。

 そして二度目は、ニトロコングに殴られ吹っ飛んだ後、猛ダッシュで俺に迫ってきた時。


『……もしかして』

『恐らくあいつは、ダッシュのタイミングにしか爆炎を放つことが出来ない』


 だから、俺がエリスを庇ったタイミングでは、あいつは爆炎を放てなかった。エリスとあいつの距離が、ダッシュする必要もないくらい近かったためだ。


『つまり、カイルさんの作戦は、ニトロコングにヒットアンドアウェイを繰り返して、ひたすらダッシュさせる隙を与えない、ということですか?』


 エリスの問いに……。


『違う』


 俺は首を横に振った。


『え、違うんですか?』

『ヒットアンドアウェイを繰り返すことは、結果的にこちらがジリ貧になるだけだと思うんだ』


 背後に回りあいつに攻撃すればするほど、あいつの警戒心を高めることにもなるし、そもそもあいつがいつ逆上して、むやみやたらにダッシュを繰り返し始めるか、わかったもんじゃない。


『……なら、どうするんです』

『決まってるだろ』


 俺は得意げに微笑んだ。




『あいつの爆炎自体を封じるんだよ』




 ……作戦会議の内容を思い出した後、俺は一つ目の説立証に安堵した。


 一つ目の説とは、あいつの視野が背後にまでは及んでいない、ということ。

 この説さえ立証出来れば、後は……もう一つを立証するだけ。


 ……さあ、俺に背を向けろ。ニトロコング。


 その時が……お前の最期だ。


「ゴオオォォッ!」


 ニトロコングは、俺に殴られたことが相当腹立たしかったのか、雄叫びをあげた。

 その後、両腕で胸板を何度も何度も何度も……殴りつけ、また雄叫びをあげた。


 ……さっきよりも、あいつの警戒心が強くなったことが肌でわかった。


 説立証のためとはいえ、奴に殴りかかったのは失敗だったか?


 ……ならば。


 俺は足元に転がっていた石を手に取った。

 ……そして、草むらから姿を見せた。


「ガアアァァァァァ!」


 雄叫びをあげるニトロコング。


「か、カイルさんっ!?」


 作戦とは異なる俺の動きに慌てふためくエリス。

 そんな二人の行動を他所に、俺はニトロコングに向けて走り出した。

 ニトロコングは両手を地面についた。そして、両足の筋肉を肥大させ……。


「ガッ!?」


 猛ダッシュしようとしたニトロコングは、俺の手から投じられた石に一瞬怯んだ。

 その隙を、俺が見逃すはずがなかった。


 筋肉質な両腕で顔面を覆ったニトロコングの懐にもぐりこんだ俺は……。


「うおおおおおっ!!!」


 奴の胸板の体毛を掴み、思い切り剥ぎ取った。

 ブチブチブチ、という体毛が剥がれる音と共に……。


「グギィィィ!」


 ニトロコングが悶絶した。

 体毛を剥いだ結果、俺はバランスを崩して、数メートル転がった。

 痛みに悶絶していたニトロコングは……。


「ガアアァァァァァ!」


 雄叫びをあげて、俺に向かって、猛ダッシュしてきた。


 その時だった。


 爆音とともに、奴の全身が燃え広がった。


「……やっぱりな」


 俺は、先程のエリスとの作戦会議の会話を思い出す。


『ニトロコングの爆炎を封じる?』


 エリスは驚いた表情だった。


『……カイルさん、それは一体、どうやって?』

『エリス。あなたはニトロコングの防炎能力は、どうやって成していると思う?』

『え。……冒険者ギルドも解明していないことですよ。わかるわけないじゃないですか』

『……俺はなんとなくあたりはついている』

『え!?』


 エリスは驚いた様子だった。


『……どういうことです?』

『あいつの耳のことを思い出してほしい。あいつの耳は、爆炎を間近で聞き続けた影響で悪くなってしまったと推測される。となると恐らく、あいつは魔力などで爆炎の一切を防ぐ、というメカニズムで防炎をしているわけではないと考えられる』


 それがわかれば、後の防炎方法として思い付くのは……。


『恐らく、あいつの全身を覆うあの深紅の体毛だ』

『体毛?』

『ああ。……あいつはきっと魔物として爆炎能力を得るように進化した段階で、防衛本能として特殊素材で防炎効果のある体毛を手に入れたんだ』

『なるほど。……ということは、つまり』

『ああ』


 俺は頷いた。


「お前の体毛を一部でもはぎ取れば……お前の肉体は自らの爆炎に巻き込まれ、丸焼けになる」


 ニトロコングは火だるまになり、断末魔の叫び声をあげ、まもなく息絶えた。


「お疲れ様です、カイルさん」


 ニトロコングが死に絶えたことを確認した後、エリスがやってきた。


「大丈夫だったか」

「ええ。重症なのは、むしろあなたです。ヒーリング魔法を使いますね」

「すまん」


 エリスの触れている背中が、ほんのりと温かかった。


「……やりましたね」


 エリスは続けた。


「ニトロコングの三日以内の討伐。無事達成です」

「……ああ」


 しばらく俺達の間に言葉はなかった。なんだか気まずい雰囲気だった。


「カイルさん」

「……」

「もう、あんな安い挑発には乗らないでくださいね?」


 アースの挑発に乗った俺を叱責するタイミングは、これまで幾度となくあったはず。それなのに、どうしてエリスはわざわざこのタイミングでそれをしたのか。


「すまん……」


 多分、今じゃないと俺が素直に聞き分けないと思ったからなのだろう。


「……ふふっ」


 エリスは堪えきれなくなったように、笑い出した。


「カイルさんって、本当にわかりやすい人ですね」

「……そうか?」

「えぇ。どうしようもないくらいに」


 ヒーリング魔法が終わったのか、エリスは立ち上がった。


「……あなたのその性格は、実に英雄向きだとあたしは思います」


 エリスの言葉を聞いて、俺は思う。

 俺はそうは思わない。俺が英雄向きな性格であるはずがない。


 英雄とは……。

 俺が知る、英雄とは……。


『カイル、それじゃあ父さん、仕事に行ってくるな』


 あの背中に、俺が追い付くことなど、出来るはずがないではないか。


「……エリス」

「なんです?」

「剥ぎ取ったニトロコングの体毛だ」


 俺は深紅の体毛を、彼女に手渡した。


「……防炎能力を備えた体毛だ。今後の家屋の火事対策にでも、役立ててくれ」


 エリスは苦笑した後、それを受け取ってくれた。

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