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なりたい職業ランキングで『冒険者』が一位から陥落した  作者: ミソネタ・ドザえもん
第二章:英雄候補生

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12.黒字転換

「それで、あなたは今日、どうしてここに?」


 パラボラの職は冒険作家。ギルドのクエストカウンターとは無縁の存在に思えた。


「何故って、あたし、冒険者ギルド直属の冒険作家だよ? そりゃあ、面白い特ダネを探すため、クエストカウンター周辺もうろつくさ」


 なるほど。納得だ。


「ただ、まさかこんな早朝から二人に会えるとは! もしかして、今日はカイルさんの初クエスト挑戦日かな!?」


 パラボラは目を輝かせて、俺に寄ってきた。


「ああ、まあ……」

「へえ! どのクエストに挑戦するのかな? 次のコラムのネタにするから教えてよ!」

「……あ、圧がすごい」


 グイグイ来るパラボラに、俺はたじろいでしまっていた。


「パラボラ、そんなにカイルさんに迫らないで」


 エリスが俺達の間を取り持ってくれた。


「カイルさんはまだ、初クエストで何に挑戦するか決めてないから」

「え、そうなの?」

「えぇ。これからどうするか考えようと思っていたところ」

「そっか。なるほどねぇ」


 パラボラは納得したように深く頷いた後、パーっと顔を晴れやかにして、クエストボードに近寄った。


「なら、あたしが決めてあげるよ!」


 そして、パラボラは変なことを言い出した。


「おい、なんで俺の初クエストを、あんたに決められないといけないんだ!」


 俺は声を荒げて抗議した。


「そうよ、パラボラ」


 エリスも俺に同調してくれた。


「面白そうだし、あたしにも一枚噛ませてよ」


 いや、エリスは俺に一切同調してくれていなかった。むしろ、パラボラの方に同調していた。


「どのクエストが良いと思う?」

「どうだろう? 一応、おススメはあるんだけどね?」


 クエストボードには、冒険者ギルドに依頼されたたくさんのクエスト用紙が貼られている。

 あの用紙一枚一枚に、何かしらの困りごとから救ってほしい、という意思が込められていると思うと、少しだけ気が引き締められる思いだ。


 きっと冒険者一人一人が、そういう強い気持ちを持って、クエストに挑戦するに違いない。


 それにも関わらずあの二人は、面白そうだ、なんだと……正直、呆れて物も言えない。


「あたしのおススメはこれ。『スカルマンモスの牙の納品』」


 パラボラが一枚のクエスト用紙を手に取っていた。


「えぇ、スカルマンモスは生息地が限定的な上、攻撃性も高いから、冒険者加入してすぐのカイルさんには高難易度すぎない?」

「だからだよ!」


 パラボラは嬉々として続けた。


「冒険者ギルドに加入したばかりのカイルさんが、立場に似合わない高難易度クエストを成功させる。そうすれば、皆、嫌でもカイルさんに期待をする!」

「……ああ、なるほど。確かにそうねぇ」


 この二人、俺がスカルマンモスに倒されることを一切想定せずに話しているな。少し身の危険を覚えてしまう。


「でも、あたしは反対」

「どうして?」

「いきなりレベルに見合わないクエストをクリアするのは、それはそれで嫉妬の対象になったりしてしまうから」


 エリスはクエスト用紙を吟味していた。


「うーん。どうしましょう?」

「やっぱりスカルマンモスだよ! スカルマンモス!」

「……カイルさんは、挑戦したいクエストとかありますか?」


 エリスが俺の方へ振り向いて、尋ねてきた。

 実に今更な質問だと思った。一応、受注したクエストの挑戦者は俺なのに、俺以外の二人が盛り上がってどうするんだ、と。


「うーん」


 とはいえ、俺も特段受けたいクエストがあるわけではない。二人に遅れてクエストボードの前に立ったものの、クエスト用紙とにらめっこをしては、興味を失い、次のクエスト用紙とのにらめっこを開始した。


「ん……?」


 幾枚かのクエスト用紙とのにらめっこの末、俺は一枚のクエスト用紙に興味をそそられた。


「あ、カイルさん。選びました?」

「……『ヒートリザードの討伐』。特段目を引くほど、珍しいクエストではないわよね?」


 背後から、俺が手にしたクエスト用紙を覗き込み、言いたい放題の二人。


「……このクエスト地となるジロー村は、タロー村から程ない場所にある寒村だったな」

「駄目ですよ」


 エリスが呆れたように口にした。


「カイルさん。そのクエストを受注すれば、ついでにタロー村に足を運べる、とか考えていませんか?」

「……あはは。そんなわけあるか」

「はぁ。……もう一度言います。そのクエストは駄目です」

「おいおい、英雄なら、どんな小さなクエストでも地道にこなしていくべきだろ」

「そうですね。ただ、ジロー村は遠すぎる」


 意味がわからずにいる俺に反して、パラボラはエリスの説明にうんうんと頷いていた。


「王都から遠く離れたジロー村であなたが大活躍をしたとして、それが王都に届くのに何日かかると思ってるんですか」


 なるほど。そういうことか。


「英雄になるには、たくさんの人に認めてもらう必要がある。ならば、まずは王都周辺のクエストを地道にこなすべきです。何故なら、この国で一番人間が多い街がここだから」

「……そうか」


 俺はクエスト用紙をボードに戻した。

 この前までなら、もう少しエリスにかみついただろうが……まあ、この前、感動的にセレスティアの前から去った身としては、こんなにも早く彼女と再会をするのは、少し気まずいのも確かだった。


「じゃあ、俺の初クエストをどうするかは二人に任せるよ」


 二人の激論、そして自らの案を否定された結果、俺はすっかり自分の初クエストに関する興味を失っていた。まあ、生きて帰ることさえ出来れば、どんなクエストでも問題はないと思えた。


「それじゃあ、さっきの話に戻る?」

「そうね」


 パラボラとエリスは、一瞬呆れたように俺を睨んだ後、二人で仲良く頷きあった。


「まあ、いきなり身の丈に合わない高難易度クエストは受けるべきじゃないよね」


 パラボラは言った。


「そうね。クリア出来ても出来なくても、敵対勢力を増やすことはまだ好ましくない」


 エリスの言い振りは、いつかは敵対勢力を生み出すことを示唆していて、少し嫌な気持ちになった。


「……じゃあ、冒険者ギルド加入時の一般的なレベルに合わせたクエストを徐々にこなして、段階的に周囲を納得させるってこと?」

「そんな感じですかね」

「あたしは反対。だってそれ、特別感がないもの」


 ……俺はあくびをしながら、二人の決定を待った。


「英雄になるためには、敵対勢力を増やさない。その考えには納得する。でも、平々凡々にステップアップしていく様を見せられても、民衆はカイルさんに英雄としてのストーリー性を感じることが出来ないと思う」

「それはそうです。だから、冒険者ギルド加入時の一般的なレベルよりは、ほんの少し色を付けます」


 目当てのクエスト用紙を見つけたのだろう。エリスは微笑み、クエストボードからクエスト用紙を一枚手に取った。


「だから、このクエストとかどうでしょう?」

「……えぇと、『ウィンドワーウルフの討伐』か」


 ウィンドワーウルフ。群れで生活する肉食魔獣の一種だ。


「クエスト依頼主がいる村は、ライデン村。ここ王都から半日程度の場所にあります」


 エリスはクエスト内容を読みながら続けた。


「どうやらこの村、最近ウィンドワーウルフによる獣害に遭っているようですね」

「獣害?」

「折角育てた畑の野菜、果物がこの魔物に食べられてしまっているんです」


 なるほど。だからこそ、その魔獣の討伐を冒険者ギルドに依頼した、と。

 かつて農民として過ごした経験もある身としては、自分が育てた作物が部外者により荒らされるのは気分が良くないことは、容易に想像できた。


「このクエストの報酬は、所謂歩合制ですね」

「歩合制?」

「えぇ。ウィンドワーウルフのサイズ、討伐数によって、報酬金額が決まってくるわけです」


 つまり、ウィンドワーウルフを一匹でも屠って、クエスト依頼主に引き渡すだけでクエストクリアになるが……一匹でも多く、より大きいサイズの魔獣を狩れば、より多くの報酬金をもらえるわけか。


「それなら、そのクエストに決めよう」


 俺は言った。


「あら、珍しく積極的ですね」

「珍しくは余計だ。……そのクエストを受注して、一匹討伐してクエストクリアにさせよう」


 かのライデン村という場所は、どうやらウィンドワーウルフによる獣害に困り果てているみたいだし、一匹でも討伐してくれる人がいれば大いに喜ぶに違いない。

 つまり、ウィンドワーウルフを一匹でも討伐すれば、エリス達のいう英雄的行動の目標は達することが出来るわけだ。


「カイルさん」

「なんだ? 俺の妙案、完璧だろ?」


 どや顔を見せる俺に……。


「駄目に決まってるじゃないですか」


 エリスは呆れた声で、目を細めていた。


「なんでた。一匹討伐するだけでも十分、村にいる人のために活動したことになるだろう?」

「それはそうです」

「ほうら、みたことか」

「でも、駄目です」


 いや、なんでた。

 納得する理由を説明してみろ。

 そう思って、俺はエリスを睨んだ。


「……簡単なことですよ」


 エリスは肩を竦めた。


「ライデン村への移動は、徒歩移動なら片道半日。馬車を使えば短くなるでしょうが、移動費が発生する」

「……ふむ」

「そして、移動手段がどうであれ、恐らく一泊以上は向こうで滞在するでしょう。そうなれば、宿泊費用に、向こうでの食費」


 ……ああ、エリスが何を言いたいか、薄っすら理解してきた。


「つまりですね」


 エリスは深いため息を吐いた。


「ウィンドワーウルフ一匹討伐で帰ったら、赤字です。それはもう、驚くくらいのまっかっか」

「……まっかっか」

「黒字転換。……というか、ある程度利益を見込むなら、最低でも三十匹は討伐必須ですかね」

「さ、三十匹!?」


 思ったよりも多い数字に、俺は目を見開いた。


「……エリス、そのクエストはやめよう。骨が折れすぎる」

「あ、もう受注しちゃった」


 クエストカウンターの方を見ると、パラボラがサクラにクエスト用紙を提出していた。

 面倒なことをしてくれたな、パラボラ。

 しかし、本人以外のクエスト提出だし、手続き上の受理はまだに違いない。


「あ、もう受理しちゃいました」


 なんと素晴らしいコンビプレイ。


「……カイルさん」


 エリスは、呆然とする俺の肩をポンと叩いた。


「頑張りましょう」

「……ク、クエストキャンセルは?」

「もうキャンセル代がかかりますね……」

「あ、そう……」


 キャンセル代がかかるなら……仕方がない。

 俺は深いため息を吐いた後、ライデン村に遠征に行くため、一旦帰路についた。

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