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日陰の本棚  作者: invitro
【異世界・恋愛】
4/11

舞踏会の夜、私の恋はもう冷めていました。

 ―あらすじ―


 アンリエッタは王子から婚約破棄を宣言される。

 しかし、その前に起こった出来事で頭がいっぱいでそれどころではなかった。

 愛とはなんぞや。


 全文約2000文字


「アンリエッタ! 貴様との婚約を破棄する!」


 卒業間際、学園で行われる最後の舞踏会。

 本来なら公爵家の私と婚約者であるオズワルド王子の仲睦まじい姿を他の貴族に見せなければならない場で、突然婚約破棄を突きつけられてしまいました。

 殿下はか弱そうな子爵家の娘を守るように肩で抱いています。そして、婚約破棄の理由を周囲へ喧伝するかのように、私が他の令嬢へ嫌がらせをしたとか、過剰に殿下の行動を管理しようとするのは国政を乗っ取るつもりだとか、大声で喚き散らします。


 でも王子の声など耳から耳へと素通り。

 ぜんぜん私の頭には入ってきません。

 なぜなら今宵、婚約を反故にされることより重大な事件が既に起こっていたのですから――



 ◇



「お母様はどこかしら」


 舞踏会へと向かう前、ドレスにつけるコサージュをお借りするはずだったのですが、部屋を訪ねたらお母様は留守にしていました。

 前々から頼んでおいたのでどこかにあるはず――と、勝手に部屋を探していると廊下から足音が聞こえました。私は少しはしたないというかバツが悪くなって咄嗟にクローゼットの中へ隠れてしまいました。


 すると、お母様とオルドラン陛下が入ってきたのです。



(え、どうして陛下がお母様の部屋に?)


「イサベル、お前に会えるのがずっと待ち遠しかった」

「今日は子供達の祝いの日ですのに、いけない御方」



 陛下は私が隠れていることに気づかず、お母様をベッドへ押し倒しました。


(はわわっ、陛下、私のお母様に何をなさるつもりなのですかッ)


 糾弾しなければいけない場面でしたが、お母様が私も見た事のない女の顔をしていたのもあって声が出ませんでした。

 私はそこから動けず一部始終を見てしまいました。

 最悪です。

 現在進行形で吐きそうです。

 陛下がウサギさん並に早かったのがせめてもの救いでしょうか。

 ですが行為が終わってからも、陛下とお母様はベッドの上で抱き合っています。


「しかし、ついにアンリエッタとオズワルドが結婚か」

「あら?わたくしとウェンデルの娘では愛せない?」

「何を言う、お前の娘は私の娘も同然だろう。もちろん昔からそう思っていた。だからオズワルドと婚約させたのだ」



 二人は口づけを交わします。

 お母さま、お父様を一番に愛していたのではなかったのですか。

 陛下も、お妃様のことはどうでもよいのですか。

 それに私と殿下の婚約はもう十年以上です。

 というか二人は一体いつから……

 あれ?私の父親ってお父様であってるの――?



 ◇



「おい、聞いているのか。婚約を破棄すると言っているのだぞ」


 はっ、と殿下の怒鳴り声で意識が戻ってきました。

 状況は理解できています。私は殿下に絶縁されたのです。


 ですが、どうしてでしょう。

 今の私は何も感じません。

 あれほど愛しかった殿下のことが汚らわしいとすら感じる。

 太陽のように眩しかった黄金の髪も、空のように澄んでいた蒼色の瞳も、今の私には軽薄な色にしか映りません。


 殿下があの陛下の息子だからでしょうか。

 それとも、私がお母様の娘だからでしょうか。

 殿下、貴方の胸の内に、愛はありますか。

 私は本当に殿下を愛していたのでしょうか。

 わかりません。

 父と母の間に愛がなかったと知って、私は親から受け取っていた愛情も、自分が抱いていた愛情も、何もわからなくなってしまいました。


 そもそも愛とは何なのでしょう。

 恋とは違うのですか。

 肉欲と同じなのですか。

 ベッドの上で語り合う愛とは、肌を重ね快楽を得るための薄汚い言い訳なのですか。


 どれだけ尽くしても私を見ようとしなかった殿下も、殿下の後ろでいやらしく嗤っている貴女も、私と同じく愛などまだ知らない子供なのでしょうね。

 ですがいいでしょう。本当なら今後の人生が決まってしまうはずだったこの舞踏会……殿下が自由をくださると言うのなら、私は謹んでお受けします。



「どうした。ショックで声も出ないか」

「むしろ心が晴れました。殿下、権力にしか興味のないその女とどうかお幸せに」


 私は何の感情も持たず、恭しくお辞儀をして舞踏会を去ります。

 なにやら背後で陛下の激しい罵倒が聞こえたような気もしますが、もう私には関係ありません。婚約という鎖がなくなった今、わたしは自由なのですから。

 ただ……行き遅れになる前に、わたしが真実の愛を見つけられるのかだけちょっと不安です。


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