第10話 方針
「進展があれば伝えると思うけど、大分先になるかな? 今は落ち着くことが優先だからね」
ハルの言葉にアルファは静かに頷くと手元の資料を整え、次の議題へと移る合図を送った。
それに応じ、会議室の入口に待機していたメイドが新たな資料を配布する。
資料の表紙には『尋問報告書』と記されており、ガンマに指示した捕虜の尋問結果が詳細に記されていた。
ハルは興味深げにページをめくりその内容を読み進める。
「へぇ、悪魔種のサキュバスを使ったんだね」
「はい、<魅了>を利用して捕虜を混乱状態にし、情報を抜き取りました」
淡々と答えるガンマ。
その内容に頷きながらハルは報告書の続きを目で追う。
「尋問の結果、彼らはエルドリオン王国の第三王子、アルドリン・アーディロンとその兵士であることが判明しました」
「ほうほう、第三―――王子ッ!?」
思わず声を上げたハル。
資料に視線を戻し、改めて事態の深刻さを実感する。
報告書には、アルドリンがセレネを追い回していた理由が書かれていた。
それはまさかの痴情のもつれ。
「……あらら……。大国の王子に見初められた小国のお姫様。身分差があるから実ることがない恋……なんて素敵な話だったらまだ笑えたけどねぇ……」
軽くため息をつきながらハルは続きを読み進める。
報告書によれば、エルドリオン王国の現国王の戴冠式に、アヴェリス公国の公王が代表として訪れた際、セレネが同行していた。
そのときにアルドリンが彼女に一目惚れしたとのことだ。
そしてそれ以来、彼女を手に入れるために陰から圧力をかけ続け、ついに今回の侵攻へと繋がったのだ。
この情報に付け加えるようにガンマは口を開く。
「尋問によると、第三王子派は王国の中でも国王の次に権力を持つ一大勢力。王国内での影響力は絶大であり、今回の侵攻がなければ、次期国王として王太子に成っていた可能性も高いでしょう」
「……これバレたら王国と戦争になるよね……?」
「御明察の通りでございます」
先ほどの勘違いが発覚したときと同じように、ハルは頭を抱えた。
「まじか……。この資料を見る限り、王国兵士の練度は俺が捕虜にした連中と同じくらいだね。むしろアルドリンの精鋭部隊が一部混じっていたから戦力的にはこちらの方が上。問題は……」
(セレネの夢が遠のくことなんだよなぁ……)
ハルは唸るように考え込んだ。
今判明していることだけで言えば武力は優っている。
しかし、相手は周辺諸国でも有数の大国エルドリオン王国。
建国を目指すにあたって、エターナル・ヴェインが王国と敵対関係にあるとバレてしまえば、大国からの報復を恐れ、どの国も容易には国家承認をしないだろう。
そんなハルの思考を察したのか、アルファが穏やかな口調で問いかける。
「マスターはセレネ様を助けたことを後悔しておいでですか?」
「いや、そんなことないよ。恩を売って現地民から情報を得るチャンスだったし、それに……運命の出会いもできたし……」
(まあ、偶々だけど……)
心の中で言い訳しながらも顔に出てしまうハル。
からかい好きのマグナスがいたら間違いなく揶揄われていただろうが、幸いこの場にはいない。
しかし、ハルの表情の変化はあまりにも分かりやすく、会議に参加している面々は口にこそ出さないものの、皆が「初心なマスター」と思っていた。
微笑ましい空気が流れる中、アルファはやや表情を緩める。
「それなら良かったです。セレネ様の夢のためにも対応策を考えましょう。何しろ人族国家が相手であることなど初めてですからね」
「あー、確かにそうだった」
ハルはEoCでの経験を思い出した。
ゲームでは、魔法文明が発展した時代に突如現れた魔物によって国が次々と滅び、都市や村といった小規模の集落が生き残る形になっていた。
ゆえに、アルファたちの考える「国」とは、ゴブリン王国やアンデット墓地集落といった魔物の群れが作る組織が主流だった。
ハルがEoCでの経験を思い出しているとアルファが「方針を決める前に」と前置きしながら話し始める。
「戦争をするにしても回避するにしてもその前に魔石残量が問題でございます。デルタ、報告を」
アルファの言葉と共にメイドが新たな資料を配る。
資料には『ダンジョン魔力収支』と書かれておりこの先、エターナル・ヴェインの方針を決める上で重要な議題であると思うハル。
ハルが資料を見たことを確認したデルタは報告を始める。
「現在、最終階層を除いて他の階層は稼働停止。王国兵士約100名をダンジョン1階層に収容していますが、それを含めても一日の魔力収支はマイナス。このままでは半年以内にエターナル・ヴェインの魔力が枯渇します」
「え?そんなにダンジョンの魔力吸収効率って悪かったっけ?」
異世界に渡ってからのダンジョンの魔力量の推移のデータに目をやる。
EoCの時とは違いダンジョンが生物から魔力を吸収する効率が悪いことを疑問に思うハルに追い打ちをかけるようにデルタは話を続ける。
「それだけではありません。再度魔力残量を確認いたしましたところ最終階層の維持に必要な魔力だけでなく他にも何度か不可思議な魔力減少を観測いたしました」
「……それってどんなタイミング?」
既に資料を見ていたハルは背中を伝う冷や汗を感じている。
分かっていたが聞かずには居られない。
「時間からして恐らくマスターが魔法やスキルを使ったタイミングでございます」
「はぁ!?ダンジョンの魔力も減っていたのぉぉぉ!?」
会議室にハルの声が響く。
エターナル・ヴェインの魔力収支は現状、深刻な問題となっていることをデルタから報告を受けハルは思わず頭を抱える。
分かっていたが、そう反応せざるを得なかった。
「……マジかよ。俺が魔法やスキルを使うたびにダンジョンの魔力が消費されてたって?」
「はい。このようなことはユグドラシルでは起きていませんでした。恐らくこちらへ転移してくる際に新たに追加された機能だと思われます」
デルタの分析にハルは苦い顔をする。
エターナル・ヴェインの魔力供給が絶たれればダンジョンは維持できなくなり崩壊する、と考えるハル。
EoCでは魔力不足に陥ったことが無いため実際にはどうなるか定かではないが、ダンジョンマスターとなったハルの勘とダンジョンの魔力量を気にするアルファたちの態度からそのように結論付けた。
(でも念のために……)
ハルは確認するように口を開く。
「アルファ。そもそもの話だけどダンジョンの魔力が底を尽きたとして、崩壊するという確信はあるの?そこから再起不能だということも」
「確かにマスターの言うように確証はありません。ですが、それを確認するためにわざわざ魔力を底にするリスクを取る訳にはいきませんし、仮に再起可能だとしてそこから現在の水準に到達させるために一体どれほどの―――」
「ご、ごめん。アルファいいから落ち着いて……」
アルファの静かな怒りを感じたハルは、これ以上続かないように謝りながら話を止め話題をすり替える。
「一応、聞いておくけど王国兵士たちから吸収した魔力以外にダンジョンの魔力量は増加してなかったの?」
「はい、増えておりません」
アルファからの言及を避けるために変えた話題であったが、話している途中に意外にも行けるのではないかと思いながら続けたハル。
それほど期待はせずとも微かな希望を持って聞いたハルであったが現実は無情であるようでアルファは申し訳なさそうに否定の返答をした。
「そっか……俺の魔力と連動してるなら魔力回復系のアイテムでも使って一気にダンジョンの魔力を増やそうと思ったけど……駄目か」
「上手くは行かないものですね」
力なくハルが呟きそれに静かに肯定するアルファ。
ハルは苦笑いしながら口を開く。
「そうだね。それにしてもこのままじゃ詰んじゃうよ……。何とかして王国の魔物ハンター―――冒険者だっけ?彼らにダンジョンに来て欲しいけど……」
(本当に何か方法が見つかればいいんだけど……)
現在、ダンジョンの魔力量が減少しているというショックな出来事に脳のリソースが割かれているため何も考えることができないハル。
そんなハルにイプシロンは提案する。
「それなら王国内で最も冒険者が集まっている都市の近くに転移ポータルを設置するのはいかがでしょうか」
「なるほど……直接冒険者をこっちに呼ぶ分けね。だけど転移ポータルを通ってくれるかな?」
イプシロンの話を聞いたハルはそう言うと転移ポータルの外装を思い浮かべる。
EoCにおいては、場所と場所を繋ぐ装置でありエターナル・ヴェインと野生の魔物出現ポイントや数少ない人間都市に繋がっていた便利施設。
良い案のように思えるが、転移ポータルの禍々しい見た目を考えると冒険者が近づくとは思えないハル。
その疑問に対してアルファが口を開く。
「それは、冒険者の性質を調べない限りは分からないかと」
「だよねー」
冒険者の性質を調べない限り分からないというアルファに対して肯定するハル。
冒険者が未知の存在に挑むのか、それとも金銭目当てで魔物を狩るのかで、転移ポータルに近づくかどうかは変わる。
どうすれば冒険者が転移ポータルを渡ってくれるか思考するハルに対しイプシロンが口を開く。
「冒険者に興味を持たせるのはどうでしょうか。例えば、ゴブリンの集落を都市近くの洞窟に作成。討伐にやって来た冒険者が戦闘の最中、ゴブリンが転移ポータルを大事そうに守っている姿を発見するといった具合でございます」
「へー、なるほどね」
ゴブリンに敢えて転移ポータルを守らせることで冒険者に興味を持たせる作戦を聞いたハルは、思わず納得してしまった。
だが、転移ポータルを渡ったとして再び渡るとは限らないと思うハルは、イプシロンの提案に付け加える。
「そんな間抜けなことってあるのかなぁ。でもそれ以外方法は無い、のかも?こっちに渡って来た時用に目の前に宝箱でも設置する。それで何とか冒険者を帰した後、情報を冒険者ギルドに渡らせて、的な感じになったらいいな。そうなればそれ以降は、宝箱目当てに冒険者がやって来るんじゃないかな?」
転移後、冒険者たちに向けて宝箱を設置することで再度渡って来るのではないかと提案するハルにデルタが賛同する。
「とても良いかと思います。では、ダンジョンの魔力についてはひとまずその方針で行きましょう。追加で既にポップ済みの魔物を外に放出し野生の魔物から魔石を収集するのはいかがでしょうか。魔法やスキルを使わなければダンジョンの魔力は消費されませんので。丁度、と言って良いのか分かりませんが、アヴェリス公国が滅んだことで魔物が活発化しているでしょう」
イプシロンとハルの混合案に付け加えダンジョンでポップする魔物を外に放ち魔石を収集させる案を提出するデルタ。
ダンジョン周辺は、森だらけであり低級魔物の巣窟となっていたことを身に染みて感じていたハルは、新たな作戦を伝える。
「それなら人間だけじゃなくて野生の魔物も取り込んでみようか。ゴブリンとか魔力吸収率は少ないだろうけど繁殖力が強いから天然の要塞兼魔力タンクになるんじゃないかな?」
「なるほど。ユグドラシルに居た頃に試したことはありませんが、やってみる価値はありそうですね」
ハルが言ったダンジョン内で野生魔物を生息させたことはシステムの都合上、EoCでは無かったためそのような方法があったかと感じる大臣ら一同。
「ありがとう。取り敢えずイータ、何の設備も整っていない場所に転移ポータルを設置するのにどれくらいかかる?」
そう言うとハルは、青髪のアルファ――技術大臣であるイータに話を振った。
ダンジョンの施設は、ダンジョンマスターの力を前提に構築されるがハル個人の力だけで完結するわけではない。
EoCでは、施設の建設にはダンジョンの魔力を消費し、24時間の待機時間が必要だった。
その際、建設中のアイコンには必ずイータが表示されていたため彼女が建設プロセスに不可欠な存在だとハルは考えた。
そしてそれは正解だったようだ。
ハルに問われたイータは、顎に手をやり「恐らく」と前置きをして口を開く。
「1日は必要かと」
「分かった、そんな感じでよろしく」
★★★
「ふぅー」
ハルは背伸びをして肩を回した。
長時間の会議は、現実世界で幾度も体験していたがそのどれもは下っ端であり発言したり出された意見をまとめるといったことをしてこなかった。
そのため、今回の会議は序盤から必死に臨んでいた。
結果的に出鼻をくじかれたが。
(なんにせよ、やっと終わっ―――)
「まだ終わっていませんよ、マスター」
「うっ……心を読まないでよ……」
アルファに心を読まれたハルは、口に出ていたのかと考え思わず口元を押さえる。
その後、円卓に体を預け先程まで最低限保っていたダンジョンマスターとしての気配を完全に消し投げやりな感じで口を開く。
「次に王国への対応だけど……アルドリンの存在がネックなんだよね。どうすべきか……」
先程、ダンジョンの魔力収支に関わる時とは異なり完全に言葉に勢いが無いハル。
それもそのはず、ダンジョンに関してはEoCの知識があるため、この場にいる誰よりも語れる自負はある。
しかし、政治に関しては専門知識を持ち合わせていないため多くは語れない。
そんなハルの様子を見たアルファは、いつものように呆れた様子を見せながらとあることを提案する。
「対王国についてですが私に1つ妙案がございます」
「妙案?」
その言葉に反応したハルは、机に俯けていた顔を上げアルファを見つめる。
(何か思いついたのかな?)
「はい。マスターはアルドリンをダンジョンの1階層に追放されました」
「そうだね」
「でしたらそのまま王国に帰宅いただいてはどうでしょうか」
「何を言って―――なるほど、転移ポータルか」
「御明察の通りでございます」
アルファが何を伝えたいのか瞬時に悟ったハルは、円卓に預けていた体をガバッと勢いよく上げ顎に手をやり頭の中でそろばんを弾き出す。
「無事、帰還できたアルドリンが自身の派閥、ないしは国王に報告。威力偵察として冒険者がやって来る。これとイプシロンの提案の二重構成。……案外行けるかも?俺たちが関与していることがバレないように上手くポップ魔物を指揮して誘導してみようか」
「承知しました。これで王国との関りは表向きにはありませんので、こちらの方で勝手に建国しましょう」
アルドリンの処分を決めたことで議題は次の建国へと移る。
王国と表での関りを持たない選択をしたことでエターナル・ヴェインで独自に建国が可能だと主張するアルファ。
「そんな簡単にできるものなの?」
他国からの承認があって初めて建国ができると考えていたハルにとってアルファの言葉は意外であった。
「ここら一帯は戦乱の時代であり大国やその保護下にある国等以外は国名や領土が変更されるなど日常茶飯事でございます。ですのでこちらの方で誰にも支配されていない土地に建国する、という形でなら国民は居ませんが形式上建国することは可能でございます」
「なるほど、それなら勝手に建国しても大丈夫そうだね」
アルファの主張に納得したハルは、「それなら」と前置きして別の方法を提案する。
「どこか適当に小さい村もしくは都市を見つけ次第支配しちゃおうか」
「支配、ですか」
合点がいかず困惑気味に反応するアルファ。
ハルはアルファに構うことなく話を続ける。
「うん。支配した土地の人間を全員ダンジョンに移そうと思ってるんだ」
「なるほど……国民すらも魔力収入源にということでございますね。ですが、いくらダンジョンとはいえ多くの国民を収納できるほどのスペースは―――まさか」
エターナル・ヴェインは最終階層を含め全9階層からなるダンジョン。
北欧神話を基にユグドラシルの世界観を繁栄させた階層。
最終階層を除く8階層は、侵入者を防ぐための防衛階層となっているため国民を入れるとしたら最終階層もしくは新たなに階層を作るかの2択しか存在しない。
前者に至っては、ダンジョンの心臓部となるためたとえ身元調査後の国民だとしてもダンジョンマスターとして許可しないだろうと瞬時に思うアルファ。
必然的に残った選択肢は新たな階層の追加だ。
その予測が正しいかと言わんばかりにハルは、先程までとは打って変わっていつもの調子を取り戻し大きく頷く。
「そう、そのまさかだよ!ダンジョン拡張、やってみようじゃないか!……魔力が安定したらの話だけど」
ハルの言葉が会議室に響く。
ダンジョンの拡張。
長いEoC時代において8回行われてきたダンジョンマスターの特権中の特権。
エターナル・ヴェインに所属する者たちにとっては、ハルの偉大さを再確認することができる一大イベントのようなものだ。
予め予想が付いていたアルファの驚きは少なかったが、他の大臣は息を吞むほど驚いた。
会議室のドアで待機していたメイドに至っては、自分が生きている間に立ち会うことができることに感激のあまり目元を赤くし嗚咽を隠すために右手で口元を抑えていた。
「ひとまずは、『王国冒険者誘致作戦』『支配計画』を進めて行こうと思う。2つ目に関しては、どこを支配すべきか情報を抜き取るだけじゃなくて実際に目で見て肌で感じるべきだと思うんだよね!」
衝撃的な内容から立ち直ることができなかった大臣たちは、ハルの発言に対して言葉を返すことができなかった。
(何か知らないけど皆の反応が薄い。今がチャンスだ!言質を掴―――)
「……マスター、それは外に出る口実ではありませんか?」
アルファを除いて。
アルファは冷静にハルの発言を分析した結果、1つの結論に辿り着きそれを指摘する。
「あ、バレた?」
(流石アルファ……行けると思ったんだけどなぁ~)
そんなアルファに対してハルは、悪戯がバレたかのように笑いながら誤魔化した。
「これは駄目か」と心の中で考えていたハルであったがそれを否定するかのようにアルファが口を開く。
「はぁ。何度も申しておりますが、私どもといたしましては生身で無ければ問題ございません」
(そういえばそうじゃん!)
アルファの言葉に自分が今朝までやっていたことを思い出す。
新たなホムンクルスを配合するために魔石を収集していたことを。
外に出る手段は既に整っていたことを思い出したハルは、今すぐにでも魔物配合をしようと立ち上がりながら口を開く。
「ありがとう!それなら―――」
「それよりもセレネ様のことはどうなさるのですか?」
「え……」
だが、立ち去ろうとしながら口を開いていたハルを止めるかのようにアルファが口を開いた。
それはハルが考えていなかったことだ。
エターナル・ヴェインに所属することがハルの意思によって再確認された。
それもハルの正妻という立場だ。
依然としてダンジョンでの権力はダンジョンマスターであるハルをトップに統括のアルファ、各大臣となっているが、近衛隊よりも上に立つことになる。
だが、セレネはエターナル・ヴェインに所属して日が浅いどころか、半月も経って居ない。
これから先、交流が増えたとしてもハルが居なければ心細いであろうと考えたアルファ。
「まさか、マスターが外に放浪中セレネ様をお一人になさるおつもりで?」
「いや、そんなことは考えて……」
(やべぇ!考えてなかった!)
冷や汗をかきながら何とか打開策は無いか考えるハルであったが、直ぐに不可能だと察し諦めて素直に答える。
「ごめん、何も考えてなかった。どうするべきかな?」
しおらしくしながら再び席に座ると困った時のアルファと言わんばかりに助けを求めた。
助けを求められたアルファは、少し考えながら口を開く。
「そうですね……<幽躰憑依>はマスターの特権ですから……。<守護領域>などはいかがでしょうか」
<守護領域>。
発動中、いかなる攻撃も半減にするダンジョンマスター専用のスキル。
物理・魔法問わず半減にできる絶対的な防御手段であるが、強力なスキルにはそれに見合うリスクがある。
「<守護領域>かぁ。確かに行けそうだけど魔力消費量が多いから難しいんじゃないかな?」
ハルの言う通り魔力消費量が他のスキルや魔法に比べ桁違いである。
そのためEoCにおいては、普段使いすることなど不可能であり各章ボスである神竜戦やラスボスであるマグナス戦の時にしか使えなかった。
それも<賢者の水晶瓶>という魔力回復アイテムの最上位と言って良いアイテムを使いながらの話である。
「ユグドラシルではそうでした。ですが、幸か不幸かマスターとダンジョンが連動したことで逆にマスターの消費魔力をダンジョンが肩代わりできるようになったと考えられるのではないでしょうか」
確かに魔力消費量は多いため現段階で常時発動してしまうと直ぐにでもダンジョンの魔力は枯渇してしまう。
だが、逆に考えるとハルとダンジョンの魔力が連動したことでハルの総魔力量以上の活動が可能になったことであると指摘するアルファ。
「確かに……そうなのかも?」
「はい。ですのでマスターの諸外国放浪は冒険者誘致後、魔力が安定してからになります」
「まぁ、仕方が無いか……。よし、それじゃあ『冒険者誘致作戦』から開始しますか!」




