101. ダンジョンの守護者
コブマンハウンからミュスターに戻ってから数日後。
ガイド本の献本のためにイセザキとシオバラがやってくることになった。
こんちゃんもミュスターに呼んで、2人を待つ。
その間にヨルゲンの日記に書かれていたノアクなる者の情報を探ることにする。
「ウルリカなら何か知っているかも知れないな。彼女ならこの辺りの信徒と顔見知りだし」
リーズ様の言うことは尤もだ。
私たちは早速、ウルリカの下へと出向いた。
センフェス・イオシフ教会の司祭の待機室で、ウルリカは待っていた。
「あら、新しい観光ガイドの方ですね」
こんちゃんと挨拶を済ませて、私はヨルゲンの日記について切り出す。
転生の秘法のこと、館のダンジョンのこと、ノアクというダンジョンの守護者のこと。
「まさか、そんなことが……」
言葉とは裏腹に、すべての事実に対してウルリカは微笑みを絶やさずに聞いていた。
動じているようには見えない。
「ノアクについて、ウルリカは何か知らないか」
「知らないわけでもないですが……」
「本当ですか!?」
ウルリカは静かに述べた。
「ノアクは狼人です。彼は領主館のダンジョンについて話していました。でも、彼は20年ほど前にミュスターから離れ、姿を現さなくなりました」
狼人は人間よりも短命だ。
1970年代から生きているとすれば、ミュスターから離れて亡くなっている可能性もある。
20年前、2000年代当時にミュスターに住んでいなかったリーズ様や、子供だったエメットがノアクについて知らなかったのも無理はない。
勿論、私もノアクを知らなかった。
「それでも、やはり館のダンジョンは存在するのじゃな」
「ノアクの言葉を信じれば、そういうことになりますね。きっと、館のどこかに入口が隠されていると思います」
ウルリカの説明に、エメットが思わず笑みをこぼす。
「でも、ウルリカさんはどうしてそんなことをご存知なのですか」
「ノアクがミュスターに移り住んで来た時に彼と出会いました。彼は孤独でした。だから、誰か支える者が必要だったのです。その時に少し話しました。でも、私もノアクのことはよく知りません。今、彼に会えるかどうかも……」
そう言ってウルリカはティーカップを手に取った。
「ノアクのことも分かりましたし、次はダンジョンに行ってみるしかないですね! 館全体を虱潰しに探して、入口を探しましょう!」
それが妥当なところだろうか。
ダンジョンの中に入るかどうかは別として、入口くらいは探しておきたい。
「ウルリカさんもどうですか? 魔王がいるかも知れないダンジョンですよ」
「そうですね……。でも、すいませんが遠慮しておきます。ちょうど用事を思い出してしまって」
「そうですか。それじゃ、あたしたちだけで探します。見つかったらウルリカさんにもお知らせしますね!」
意気軒昂とした様子のエメットを先頭に、私たちは司祭の待機室を出た。
ダンジョンが本当にあるとすれば、俄然、気になってくる。
エメットに付き合ってダンジョンの入口を探そう。
私たちは館に向かうことにした。




