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好きだ

 朝になった。

 私達は朝食を食べ終え、職員さんの車で集合場所である駅前まで送ってもらう。

 集合は7時半で、7時に到着したけれど既に沢山の生徒が集まっていた。


「麻紀ちゃんはまだ来てないね」


 京ちゃんが辺りを見る。

 7時20分になった。

 まだ、麻紀は来ない。


「大丈夫なのか? 米井さんは」

 

 タカが心配そうに言った。

 ちなみに、米井は麻紀の名字だ。

 

 25分になった時、麻紀のお母さんの車が駅前に到着し、麻紀が降りて来た。

 いつも通り私服は可愛く、クラスの男子達がざわつき始めるほどだった。

 友人として誇らしい気分だ。


「お待たせ」


 麻紀はかなりの大荷物だ。

 あまりにも重そうだったので、男子二人が代わりに持ってくれた。


「2組、全員いるねー?」


 神尾先生が点呼の後、最終確認をする。

 私達のクラスは、1人も欠席者がおらず全員参加だ。

 新幹線のホームに入る。

 待ち時間の最中、みんなおしゃべりをしたりスマホをいじったりしている。


「見て、真奈ちゃん。麻紀ちゃんから変なスタンプ来たよ」


 京ちゃんがスマホの画面を見せてくる。

 変な動物のスタンプが表示されている。

 いや、目の前にいるんだから、アプリでやりとりしなくてもいいのではと思う。


 新幹線がホームに滑り込む。

 私達は他の乗客の迷惑にならないよう、素早く乗り込む。

 山路先生が大声で、ふざけている生徒を注意していた。

 車内の座席に座る。


「トランプ持ってきたよ」


麻紀がトランプを広げる。


「あと、どら焼き」


 麻紀はそう続けて、リュックからどら焼きを5つ取り出す。


「いや、何でどら焼き? おやつにはちょっとヘビーでしょ……」


 私は呆れながら言った。

 麻紀のあんこ好きは知っていたけど、まさかどら焼きを修学旅行に持ってくるとは。


「米井さんは変わってるなあ」


 男子二人も感想を述べた。

 麻紀は赤くなる。

 せっかくなので座席の向きを変え、5人でトランプをする。

 どら焼きも結局食べることにした。


「あんた達、どら焼き食べてるの?」


 見回りをしている神尾先生に笑われた。


「先生も半分食べます?」

 

 タカが食べかけを差し出す。


「食べかけとかいらないから。床に食べかすこぼさないでよね」

 

 神尾先生は他の班の様子を見に行く。

 タカとは昨日の夜、あんな会話をしたけれど大丈夫そうだ。

 

 乗り換えも含め2時間ほどして、空港に着いた。

 空港から北海道まで飛行機で行く。

 私は飛行機に乗るのは初めてだ。

 麻紀は家族で毎年海外旅行に行くので、慣れたものだった。

 

 機内は思ったよりも狭く、窓も小さい。

 飛行機といえば、以前3人で海外旅行に行こうと話をしたんだっけ。

 思い出して、少し寂しくなる。

 でも、いつか行こう。



「真奈ちゃん、着くよ」


 いつの間にか眠っていたらしい。

 京ちゃんに起こされる。

 北海道の空港に着いた。


「あんまり寒くねえ!」

「ここ本当に北海道か?」


 一部の男子達がそんな風に盛り上がっていた。

 5月下旬なんだから、寒くはないと思う。

 

 そこから、バスに乗りホテルに行く。

 私達が泊まるホテルは小樽にある。

 

 ホテルに着き、早速部屋へ荷物を置きに行く。

 女子が泊まる部屋は3階で、男子は4階と別れている。

 部屋に着くと、麻紀は真っ先にベッドにダイブした。


「柔らか~い」

「麻紀、ホコリが立つよ」


私が注意していると、京ちゃんはテレビを点けた。


「自由にテレビ見られるっていいよねー」


 施設のテレビは職員室を除くと1台しかない。

 なので、いつも見たい番組を見ることができるわけではない。

 それにしても、お腹が空いた。

 もう、時刻は12時半を過ぎている。

 冷蔵庫を開けたけれど、何も入っていない。

 まあ、すぐにお昼ご飯だからいいけど。


 その時、スマホが鳴った。

 タカから、早く昼食会場に来いとメールが来ていた。


「2人とも、行くよ」


 私はくつろいでいる2人を促し、部屋を出る。

 

 2階の昼食会場に降り、みんなと合流する。

 昼食会場は窓からの景色も良く、気持ちよく食事できそうだ。

 タカと園部君を見つけ、私達の班の席に行く。


「遅れてごめん」


 一応、謝りを入れて座る。


「まあ、まだ時間大丈夫だから」


 園部君がフォローしてくれた。


「よし、全員揃ったな。先生に報告してくる」


 班長であるタカが報告に行った。

 既に昼食はテーブルに並べられており、お腹が鳴りそうなのをこらえる。

 その後、山路先生からお前たちは少し浮かれすぎているとかなんとか小言が入り、ようやくいただきますの合図で食べ始める。


 飲み物はセルフサービスみたいだ。

 タカと私がみんなの分を取りに、席を離れる。


「なあ、真奈」

 

 タカが声を潜めて言った。


「何?」

「夜、ちょっと2人で話がしたい。9時くらいに、1階の自動販売機の前に来てくれるか?」

「わかった。昨日の続き?」

「まあ、そんなところ」


 てっきり、昨日の夜で解決とまでは行かなくても、私に話すことはなくなったと思っていた。


「私で良かったら、いくらでも聞くから」


 タカとは長い付き合いだ。

 頼ることもあれば、頼られることもある。

 せっかく同じ施設なんだし、そうやって助け合えたら良いなと思う。


「ありがとな」

「うん」


 飲み物を持って席に戻る。


「ありがとう、真奈ちゃんタカ君」


 京ちゃんに代表してお礼を言われる。

 昼食の時間は穏やかに過ぎて行った。



 昼食後は少し休憩を挟んで、動物園に行く。

 私達は必要な荷物だけ持って、バスに乗り込む。


「麻紀はどんな動物が好きなの?」

 

 移動中、興味本位で聞いてみる。

 麻紀は犬を飼っているから、犬だろうか。

 いや、麻紀のことだから突飛な答えをしてくれるかもしれない。


「ペンギンが好き」


 そこまで変な動物じゃなかった。

 むしろ、可愛い系だし普通かもしれない。


「どんなところが好きなの?」

「翼で叩くと、人間の骨も折れるくらい強いところ」

「は?」


 麻紀はペンギン 人間 骨折でググった結果を見せてくる。

 確かに本当のようだ。


「ね、強いでしょ」

「う、うん。でも、単純な強さならカバとかライオンとか、いろいろいるじゃん」

「可愛くて強いところがいいんだよ」


 よくわからない。

 私は麻紀の一部しか理解できていないのではないだろうか。

 後ろの席で男子2人が、私達の奇妙な会話を聞いて笑いをこらえている。


「京ちゃんは何の動物が好き?」

「私は犬が好き。飼ってみたいな。施設じゃ飼えないしね」

「うん、そうだね」


 京ちゃんはお母さんのところでは飼えないのだろうか。


「真奈ちゃんは、何が好き?」


 少し考える。

 あんまり、動物には執着がないなあ。


「強いて言えば、猫かな」

「猫もいいよね」


 すると、麻紀が何か私の頭に被せた。

 猫耳だ。


「何これ?」

「私の持ち物」


 それは、わかっている。

 問い詰めると、盛り上がりそうだから持って来たとのこと。

 もしかしたら、他にも変な物を持ってきているかもしれない。

 後で荷物検査しよう。

 

 そうして、中身のない会話をしている内に動物園に着いた。

 バスから降りて、早速入場する。


「それじゃあ、しおりに書いてある時刻までにバスに戻って来てね」


 神尾先生がみんなに伝え、私達は園内で自由行動になった。

 ここは班別行動ではないので、いつもの3人で行動する。

 正門付近に、早速ペンギンがいる建物がある。


「ほら、麻紀。ペンギンだよ」


 私は指さす。


「うん!」

 

 麻紀は小さな子供みたいに、返事をした。

 麻紀を先頭に建物の中に入る。

 館内には水中トンネルがあり、なかなか壮観だった。

 水中では飛んでいるよう、と評されるがその通りだった。


「コウテイペンギンは?」


 麻紀はコウテイペンギンという種類のペンギンがお気に入りらしく、探している。


「麻紀ちゃん、キングペンギンならいるよ」

 

 京ちゃんが麻紀に教えるが、麻紀はコウテイペンギンに執着しているらしい。

 私からしたら、どっちも似たようなものだと思うけど。

 結局、コウテイペンギンは見つからず、この動物園にはいないらしい。

 麻紀をなだめ、私達は館内から出る。

 

 次は猛獣のいるコーナーだ。

 だけど動物たちは寝ているか、だらけていて迫力はなかった。

 やはり、野生を忘れるとこうなってしまうのか。

 まあ、別に狩りの様子を見たいわけじゃないけれど。


 その後も、動物たちを見て回る。

 そして、小動物や大人しい動物と触れ合えるコーナーに立ち寄った。

 触ってみると、温かくてフワフワしていて、それでいて重さがあり命を感じた。

 近くでヤギの子供がお母さんから母乳をもらっていた。


 ふと、思う。

 自分の子供を虐待したりして傷つけるのは人間だけなんだろうか。

 ポケットの中のスマホで調べればすぐにわかることだ。

 だけど、怖くて調べられなかった。

 

 虐待なんてするのは、人間だけであってほしい。

 そう思うと同時に、人間は頭がいいのにどうして虐待なんてするのだろうかと思う。

 いや、頭いいからこそ、いろいろ考え過ぎてしまうのかもしれない。

 どちらにせよ、虐待親に同情の余地はない。


「どうしたの? 真奈ちゃん」


 私が険しい顔をしていたのか、京ちゃんが聞いてくる。


「ううん、何でもない」

 

 私は誤魔化し、小さな命を抱っこした。



 お土産屋さんにも寄る。

 麻紀が大きなペンギンのぬいぐるみを物欲しそうな目で見ている。


「麻紀、かさばるからやめといたほうがいいよ」


 あの大荷物の中に、このぬいぐるみが入る余地はないだろう。


「うん……」


 麻紀は渋々諦めた。


「じゃあさ、このお揃いのシャーペン買おうよ」

 

 京ちゃんが提案する。

 ここでしか買えないもののようだ。

 私達はシャーペンを買って、お土産屋さんを出た。

 このシャーペンは大切に使おう。



 バスに戻る。

 集合時間まで後、15分くらいだ。

 半分くらいの生徒が戻ってきている。


「お帰り~。麻紀ちゃん、変な物買ってない?」


 神尾先生に迎えられる。

 期待されていたのだろうか、それとも心配されていたのだろうか。


「買ってませんよ。先生は何買ったんですか?」


 麻紀が聞く。


「私はね、これ」

 

 動物のイラストが入った、可愛い付箋だ。

 麻紀が目を輝かせる。


「先生! 一枚ください」


 麻紀が頼むと、神尾先生は快くくれた。

 麻紀は修学旅行のしおりに、それを貼った。


「良かったね、麻紀ちゃん」


 京ちゃんが穏やかな声で言った。

 ふと、2人を見て身長差もあるので、姉妹みたいだと思った。

 私達は座席に戻る。

 その後、生徒が全員戻って来たのを確認し、バスが動き始める。


「また来たいね」


 麻紀がしみじみと言った。

 また、来ることができるだろうか。

 いつか、3人で。



 ホテルに着いた。

 この後は、部屋でしばらく休憩した後、夕食を取るバイキングのお店へ移動することになっている。


「テレビテレビ~」


 京ちゃんはすぐにテレビを点ける。


「この時間じゃ、面白いのやってないでしょ?」


 私は新聞のテレビ欄を見ながら言った。

 まだ、ゴールデンの時間ではないので、つまらないローカル番組をやっていた。

 麻紀はナンプレをやっている。

 

 私はどうしよう。

 暇なので、タカにメールする。

 暇、と送った。

 そしたら、しりとりをしよう、と返って来た。

 しばらく、メールでしりとりをする。

 もちろん、ネット検索は禁止だ。

 すると、る責め合戦が始まる。


「麻紀、るで始まる言葉ない?」

「ルクセンブルク」

「ありがと」


 麻紀や京ちゃんの力も借りながら、しりとりに勝つことができた。

 ちょっと、ずるかったかもしれない。



 夕食はホテルの近くのお店でバイキングだ。

 ホテルの前からバスに乗り込み、移動する。

 お店に着き、班ごとにテーブルに分かれる。

 

 時間は1時間。

 まあ、30分もすればお腹いっぱいになってしまうだろう。

 

 そういえば、以前3人で近所のバイキングのお店に行った時、麻紀が綿あめを延々と作っていたっけ。

 今日もやるのかな。

 綿あめの機械はあるみたいだ。

 だけど、意外にも麻紀は野菜ばかり食べていた。


「どうしたの? 麻紀。調子悪い?」


 私が心配するも。


「ううん、何でもない」


 麻紀は大人しくしていた。

 体調が悪いなら、隠したり我慢したりしてほしくない。

 園部君とタカは焼肉を中心に食べている。

 さすが、男子だなあと思った。


 私と京ちゃんはソフトクリームを作ってみたりした。

 麻紀の調子が悪そうで、いまいち楽しめない。


「もう1日目も終わりかあ」


 園部君が寂しそうに言った。

 私もあっという間に感じた。

 やはり、楽しいからすぐに過ぎてしまうのだろう。

 バイトや勉強から解放されて、楽しむことだけを考えられる時間は幸せだ。


「明日も楽しもうぜ」


 タカが園部君の寂しさを打ち消すように言った。


「ああ」


 園部君はうなずく。

 バイキングの時間が終わり、バスでホテルに戻る。

 後はお風呂に入って、タカと話をして、今日の反省をしおりに書いて終わりだ。

 明日のために、英気を養おう。

 

 時刻は7時30分。

 まだ、タカとの約束の9時まで時間がある。

 麻紀は歯磨きをしている。


「ちょっと、ジュース買ってくる」


 麻紀は部屋を出た。

 私と京ちゃんはテレビを見ることにした。


「ねえ、真奈ちゃん」

「何?」

「麻紀ちゃん、告白しに行ったんだよ」


 衝撃が全身を駆け抜ける。

 テレビの賑やかな音が、右から左に素通りする。

 そういえば、そうだった。

 麻紀には好きな人がいるんだ。


 そうか、バイキングの時調子悪そうなのは、緊張していたんだ。

 野菜ばっかり食べていたのは、口臭とか気にしていたのだろうか。


「誰なんだろう、相手」

「真奈ちゃんも気になる?」

「うん」


 まあ、付き合いだせば誰かわかるけど。

 告白失敗したら、嫌だなあ。

 神は基本的に信じていないけれど、祈る。

 20分ほどして、麻紀は帰って来た。


「お帰り~」


 京ちゃんは何でもないように、迎える。


「ただいま」


 声色から、成否は読み取れない。

 どうしよう。

 結果を聞くべきか、それとも話してくれるのを待つべきか。

 

 その後、何ごともなかったかのように、時間は過ぎていく。

 結局、麻紀は寝てしまった。

 可愛いパジャマを着て寝息を立てている。

 そろそろ、9時になる。


「ちょっと、ジュース買いに行ってくる」

 

 麻紀と同じ言い方だから、まるで告白しに行くみたいだ。


「告白じゃないからね」


 一応、そう付け加える。


「うん、行ってらっしゃい」


 京ちゃんに見送られる。

 私は部屋を出た。



 途中ですれ違った男子3人が、神尾先生のネグリジェ姿がエロいと盛り上がっていた。

 馬鹿じゃないかと思った。

 

 1階の自動販売機の所へ行く。

 タカはいた。

 自動販売機はちょうど、通路から奥まった場所にあり、見えづらくなっている。


「お待たせ」

「あ、ああ」


 タカの声は若干上ずっていた。

 予感がした。

 これは、昨日の続きじゃない。


「真奈……」


 名前を呼ばれただけなのに、とくんと心臓が跳ねる。


「好きだ」


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