FileNo.0009 食堂
中央通りは、馬車が4台ほど並んで走れるようなつくりになっていて、その脇に一段高い歩道のようなものが1メートルほどの幅である。石畳で舗装されていて、脇には側溝が掘られていた。
今朝通ったときは気付かなかったが、100Mおき位に水場があり、懇々と水が湧いている。このあたりは、水資源が豊富なのかもしれない。
道路わきには、街路灯のようなものが歩道の上に等間隔で並んでいて、どういう原理で光るのかは分からないが、夜間の移動もそれなりに出来るようだ。
雰囲気的に古代ローマのような町並みで、海外旅行に言ったような気分になる。
さすがに、時間帯が時間帯だけにお土産を売るような店は空いていなさそうだが、凱旋門の置物とか売ってそうだ。
観光気分で歩いていると、食堂らしき店があった。店名は、「穴熊亭」というらしい。店名の由来が気になるところだ。
特に知っている店があるわけでもなく、とりあえず入ってみることにする。
「いらっしゃいませー」
たぶん看板娘さんだろう娘が、愛想よく挨拶をし、空いている席へと案内する。
朝の食事時間帯あるのであろう、俺以外にも7、8人ほど食事をしている。
その間を縫うようにして、窓際の丸テーブルに椅子が3脚の席へ付いた。
「メニューはあちらの壁にかかってますので」
娘さんはそういって、右手の壁にある木で出来たメニュー板を指差すと、いそいそと厨房のほうへと歩いていった。
とりあえず壁にかけてあるメニューを見た。
見たが、どれもなじみのある料理名は書かれておらず、しょうがないので適当に注文してみることにする。
料理を片手に厨房から出てきた娘さんに声をかける。
「すいません。注文いいですか?」
「どうぞー」
「コンドア鳥の塩焼きに、パンと、野菜スープを」
「はーい」
俺の注文を聞き、娘さんは厨房に向かって大声で注文した料理を通す。
とりあえず、無難なものを注文してみたが、果たして何が出てくるのやら。
「全部で、15シリカになります。」
「!?」
ここで、俺は気付く。よくよく考えたら、銀貨をもらったはいいが、貨幣の価値がよく分かっていない。
内心、冷や汗を流しながら、とりあえず銀貨を1枚出してみることにした。
「はい、100シリカ預かりまーす」
銀貨1枚で100シリカらしい。娘さんは、ポケットの中に銀貨を突っ込むと、別のポケットをまさぐって、10円玉くらいの銅貨8枚と1円玉くらいの銅貨5枚を手に取り、俺に差し出す。
「85シリカのお釣りです」
「ああ」
受け取った銅貨を確認する。とりあえず、銀貨までは、10単位で貨幣が存在するみたいだ。
娘さんは、釣りを渡し終わると、そのまま厨房のほうへと移動していった。
だいたい1食20シリカもあれば事足りるのか。
今回受けた依頼は、銀貨3枚だから、5日分の食費になる計算。路銀を稼ぐには、余り時間をかけずに獲物を探して狩らないといけないな。
そう思いながら、銅貨をポケットの中にしまった。そのあと、情報収集のため、隣の席の会話を聞くことにした。
隣の席に居るのは、商人であろう比較的裕福そうな格好をしていた。
『最近、南の街道脇の森でゴブリンが出てきて、馬が襲われそうになった』
『ほう。そういえば、最近モンスターが活発になってきてるような気がするな』
『そのせいか、大規模討伐の噂があるらしいぞ』
『と言うことは、食料なんかを買い付けといたほうがいいか・・・・・・』
ふむ、大規模討伐か・・・・・・。なんか、やっかいな話が出ているな。
そんなことを思いながら、耳を傾けていると、娘さんが料理を持ってやってきた。
「コンドア鳥の塩焼きに、パンと、野菜スープ。お待たせしました」
目の前に置かれたのは、皿の上にデンと乗った見た目は鳥のもも肉と、茶色いパンが2枚。深皿に盛られた、角切りの野菜が浮いたスープだった。
娘さんは、料理を奥と再びいそいそと厨房へと戻っていく。
とりあえず、目の前の料理を片付けることにした。
もも肉を一口大に切り分け、口の中に放り込む。味はそのまま鶏肉だった。塩は貴重品なのか、日本で食べていたものに比べ味は薄い。しかし、肉のうまさもあってか、それなりに満足する味付けだった。
パンのほうは、はっきり言って余りおいしくない。ぼそぼそとした食感で、日本で食べていたパンのような甘みは無かった。
スープのほうは、たぶんさっき食べた鳥辺りで出汁を取っているんだろう。それなりにおいしかったので、パンはスープにつけながら食べた。
とりあえず、食べられないものが出てくるようなことがないことに安堵する。
食べ終えると、俺は銅貨を数枚テーブルに置き、店を後にする。
先ほどの事を思い出し、俺は物価を調べるため、さらに通りを歩く事にした。
そこで分かった事は、だいたい1シリカ=100円ぐらいの価値らしい事だった。
たとえば、りんごに似た果物が3個2シリカぐらいで買えるらしい。当然、現代日本の価値と比べられるものでもないため、あくまで目安だが。
食後の腹ごなし程度に歩き回った俺は、早速依頼に取り掛かるべく、ギルドへと歩みを返した。
と、その直後、アイカからの通信が入る。
こんなところで異常事態が発生するわけも無いのだが、俺は通信回線を開いた。
「どうした、アイカ?」
「敵対勢力を確認しました。すぐ戻ってください」
「!?」
どういうことだ?俺は、いそいでギルドへと戻った。