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迷ったら月に聞け 4~神の吉原  作者:
運命の恋を
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不穏の影

蒼は月の宮で、その「気」を感じとっていた。

それは僅かな変化だったかもしれない。しかし、結構な数の気であった。月を見上げて十六夜の目から見てみるものの、それは正体が掴めない。維心からも何も言って来ないが、もしかして自分の気のせいなのだろうか…。

蒼は、謁見の間の玉座に座って、考えていた。

「…なんだ蒼よ、難しい顔をしておるな。」炎嘉が言った。「確かに謁見は頼み事ばかりで退屈かもしれぬが、それも王の務めよ。」

蒼は首を振った。

「そうではないのです、炎嘉様。私だけなのですが、何かの「気」を感じるのです。それも多数の…それが何なのか掴み切れておらず、どうしたものかと考えあぐねております。気のせいなのかもしれないけれど…気になって仕方ないのです。」

炎嘉は眉を寄せた。

「…維心はなんと?」

蒼はまた首を振った。

「何も。異常はありませんかと聞いたら、確かに何か感じ取れる訳ではない、とおっしゃいました。十六夜も、何も見えないと言うし…。」

炎嘉は頷いた。

「我も維心と同じ感覚であるな。何となく何か気が感じられるような気もするが、それがただ他の宮の宴会騒ぎなのか、それとも軍事演習なのか、もしくは女達が庭で騒いでおるのか、わからぬぐらいの気のざわめきであるのよ。普通にしていればよく聴こえて来る程度のものであるな…なので、それが異常とは思えぬ。主はそれを敏感に感じ取り過ぎているやもしれぬの。」

蒼はため息をついて頷いた。

「そうかもしれません。最近は回りのことがことのほか良く見えるようになって。」

炎嘉はさもあろうと言う風に頷いた。

「成長しておるのよ。神としてな。主は神として成人するまでまだ150年ほどあろう。少しずつ力は伸びて気が育って来る頃よな。」

蒼は驚いた。そうか、成人するまで急にこうなったオレでも時間が掛かるのか。

「知りませんでした。私は人だったから、そんなことはないと思い込んでいた。」

炎嘉は笑った。

「主はもう神だ。自覚が足りぬの。」

次の謁見が始まる合図があり、蒼は背筋を伸ばした。


蒼は、地の碧黎の宮を訪れた。

前に十六夜と維心と共に来たが、今日は一人であった。出迎えに出て来た召し使いらしきものが案内するのに従って、蒼は碧黎の居間へ入った。

「おお蒼よ。よう来たの。座るが良い。」

蒼は頷いて座りながら、挨拶した。

「お久しぶりでございます。お暮らしも安定している様子、安堵致しました。召し使いもどこやらか召されたご様子ですが…。」

碧黎は笑った。

「あれは、そこいらの獣よ。人のなりを与えて、神格化させたのだ。どうしても身の回りの世話をするものが必要であったのでな。神の生活とは、面倒なものよ。で、主は本日は、どうしたのか?」

蒼は頷いた。

「…どうにも気になる「気」が感じられて、落ち着きませぬ。気にしているのは私だけのようで、皆、気のせいだと申すのですが、どうにも振り払えなくて…碧黎様に、訊ねに参った次第です。」

碧黎はじっと蒼を見た。

「…主は勘が鋭い。人であったせいか、弱いもの特有の本能のようなものを持っておるの。生まれながらに強く、王であったものにはない特性であるな。」と、ため息をついた。「蒼よ、我には答えられぬ。何事もなるべくしてなる。おそらくそれで、地は平定されよう…だが、おそらくそこまでの道のりは険しいの。」

蒼は身を乗り出した。

「では、これは私の気のせいではないのですね?」

碧黎は答えなかった。ただ、じっと蒼を見返した。

蒼はじっとしていられなくなり、いきなり立ち上がった。

「碧黎様…私は急ぎ維心様の所へ参ります。」

碧黎は悲しげな顔をした。

「そうか。だが、維心にはわかるまいよ。あれは生まれながらの王だ。自分より力が上の者に対峙したことなどない。つまり、主のような勘は働かぬということよ。それはどの王者にも言えること。事が起こってから、処理する能力のある者は、そんな些細な事を気取ることなどない。そんなことをしておったら、きりがないからの。」

蒼は焦った。では、どうしたらいいのだ。

「それでは、私はどうするべきなのですか?事前に何か起こるのがわかっているのに、起こるまで待っておらねばならないのですか。」

碧黎は苦笑した。

「何か起こると言うて、主にはその正体がわからぬのであろう。主が言うのは、例えば維月が、嫌な予感がするから、今日は外出するなと主に言うようなものよ。主はそれを聞くか?確証がなければ笑い飛ばすであろうが。つまりは、そういうことよ。」

蒼は、困った表情で立ち尽くした。維心に何を言っても、確証がない限り信じてはもらえない。そう、これはオレの勘でしかないのだ…今碧黎に聞いて、それが気のせいではないのだとわかったが、そうでなければ、不安である以上のことは何もない。もし、碧黎に聞いた事を話したとしても、何を調べたらいいのか、蒼にもわからない…。

「…それでも、維心様にはお話しいたします。」蒼は言った。「話しておくことで、何か変わるかもしれません。」

碧黎は頷いた。

「主の気が済むのなら、そうすればよい。」

蒼は碧黎に頭を下げると、蒼は急ぎ足で宮を出て、龍の宮へと飛び立った。


龍の宮では、維心は居間に居た。窓から空を見て、目を凝らしている。維月はそんな維心に歩み寄った。

「…何かお気になるのでしょうか?」

維心は維月を見て首を振った。

「何も無いから気になるのよ。蒼はあのように申したが、我には気の乱れは感じられぬ。しかし、碧黎があのように申すということは、おそらく何かあるのであろうな。」とまた空を見上げた。「十六夜にも感じとれぬという。一体、蒼が感じている大勢の「気」とは、どういった性質のものであるのか…。」

維心の眉根に皺が寄っている。維月はそれを気遣わしげに見ていたが、ふと表情を変えて、決心したような顔をしてから、維心の胸にすり寄った。

「維心様…」と着物の合わせを両手で掴んだ。「そのように他のことに気を取られておられては、寂しゅうございまする…。」

維心は、維月を見てフッと笑った。

「維月…何を考えていても、我は主の事を忘れることはないぞ。」と維月を抱き寄せた。「愛いやつよ。我の憂さを晴らそうてか。よしよし、では奥へ参ろうぞ。」

維月は維心の気が、緊張したものから柔らかいものに変化したのを感じ取ってホッとした。私が居ることで、維心様の心の負担が少しでも和らぐものなら…。

維月は、背伸びをして維心の首に手を回し、自分の方へ引き寄せて口付けた。維心の気が湧き上がる…唇を離すと、維心は嬉しそうに微笑んでいた。

「我は、主が居るから楽になるの…。維月、愛している…さあ、奥へ…。」

維心はいつものように維月を抱き上げると、奥の間へと歩いて行った。


そして、月はいつものように上り、そして、神の世は密やかに、何かが動き始めていた。

ここまで長い間お付き合い頂きましてありがとうございます。次回はこの続きになります。3/19から、迷ったら月に聞け 5~闘神達http://ncode.syosetu.com/n2263bm/の連載が始まります。次回は、私は書くの苦手なのに、皆、闘いまくる予定です…。本来皆闘神なので、本当はバトル小説になるはずだったのに、ここに来てやっとといった感じですが。よろしくお願い致します。1/5

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