第1話 幼馴染に、告白した
高校二年生の春。
放課後の教室には、俺と幼馴染の二人しかいなかった。
窓の外から聞こえる運動部の声をぼんやり聞きながら、俺は目の前にいる少女を見つめる。
「……どうしたの、直人?」
「いや……その」
緊張で喉が渇いていた。
何度も頭の中で練習した言葉なのに、いざ本人を目の前にすると、簡単には出てこない。
俺の目の前にいるのは、小川美咲。
家が近く、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染だ。
嬉しいときも。
悲しいときも。
くだらないことで喧嘩したときも。
気づけば、十年近く一緒にいた。
そして俺は――ずっと美咲のことが好きだった。
「美咲」
「うん?」
俺は拳を握りしめた。
「俺……美咲のことが好きだ」
一瞬、教室の空気が止まった気がした。
美咲は目を丸くしている。
「……え?」
「ずっと前から好きだった。幼馴染としてじゃなくて……一人の女の子として」
言ってしまった。
もう後戻りはできない。
心臓がうるさい。
美咲はしばらく黙ったあと、困ったように笑った。
「……ごめん、直人」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が、ズキッと痛んだ。
「私、直人のことは大切だよ。昔からずっと一緒だったし、これからも仲良くしたい」
「……うん」
「でも……恋愛対象として考えたこと、ないんだ」
「そっか」
自分でも驚くほど、声は普通に出た。
もっと泣きそうになると思っていた。
もっと何も言えなくなると思っていた。
でも、現実はそんなに劇的じゃなかった。
「ごめんね」
「謝らなくていいよ」
「……本当に?」
「ああ。美咲が悪いわけじゃないから」
俺は笑った。
たぶん、ちゃんと笑えてはいなかったと思う。
それでも美咲は、少し安心したような顔をした。
「ありがとう、直人」
「じゃあ、帰ろうぜ」
「うん」
二人で教室を出る。
いつもと変わらない帰り道。
いつもと同じ幼馴染。
だけど俺の中では、何かが変わってしまった。
帰り道の途中。
「ねえ、直人」
「ん?」
「これからも……幼馴染だよね?」
美咲が不安そうに聞いてきた。
「……もちろん」
俺はそう答えた。
だけど心の中では、別の言葉を続けていた。
――もう、今までみたいにはいられないかもしれない。
その日の夜。
ベッドに寝転びながら、俺はスマホを眺めていた。
美咲とのトーク画面。
昔から何度も交わしてきた、何気ないメッセージ。
それを見ながら、俺は小さく息を吐いた。
「……終わったんだな」
十年間の片思いが。
俺はスマホを伏せた。
明日からは、少しずつ前を向こう。
そう思った。
――このときの俺は、まだ知らなかった。
翌日から、俺の日常が少しずつ変わり始めることを。




