10 煩悶しているようです。
レイ視点からお送りします。
~side レイ~
ジルベルト、そう名乗った男は俺の隣室で高いびきだ。透やルリエも既に眠ったらしい。
獣人は長生きだ。だから俺も兄弟が大勢いるし、全員の顔と名前が思い出せるわけもない。
俺が生まれたのもーー
「レイ、身体が弱いからちょっと鍛えましょうか」
「母様…鍛えるって?」
小さな小屋の中、俺と母親のチェルシーは暮らしていた。贅沢をしなければいつまでも生きて行ける環境。
だから、母の言には首を傾げたくなった。
鍛える?そんなの冒険者がやることである。
見通しは大甘だった。
母は笑顔で俺にナイフと防具を渡し、外の森へ放り出し、ゴブリン10匹を葬ってくるまで家に入れないと言われた。
結果として俺は、やり遂げた。帰った時には遊びに来た幼馴染ーーシェルにドン引きされた。
曰く、目が血走り雰囲気が恐ろしくなっていた、と。
母親も自分の成果に満足していたらしい。
そして、俺を笑顔で褒めながら「次はオークね!」と言い放ちやがった。
もうしんどくてしんどくて、ある日森に入って出会った人間の男の匂いにも気がつかなかった。
「おや、こんな所に来ていいのかい?」
「あん?…っ人間!?」
その男は俺に手を伸ばしてニタニタ笑いーー気がつけば俺は、全身血まみれだった。肩に傷を負い、焼けるような痛みをこらえながら家に帰ると、顔面蒼白になって俺を母親が出迎えた。
「人間は私たちをさらおうとしているから気をつけて」
そう言われていたはずなのに、その男に気づけなかったのは、疲れていただけではなくーー
獣人の匂いにまみれていたからだった。
そして俺は強くなった。王位継承権なぞ102番目にあるはずもない。
というか、面倒だった。
そして俺は結局、冒険者になった。
人の魔の手に落ちることはなかった。強かったし、強さは信頼をも連れてきた。パーティーを臨時ではあるが、組むこともあった。出奔して30年ほどが経っていた。
そして、一ノ瀬透と出会った。
男じゃない。女だった。
獣人だというのに遠慮なく尻尾を弄くり回し、滅茶苦茶な武器や装備をぽいと投げてよこす。
あらゆる攻撃、拘束も不可能。
なおかつ通りすがりの魔王と同行だ。
異世界から来たにしろ、常識ないにもほどがある。
常識はずれで滅茶苦茶な人間だ。だが、人間ほど人間の匂いがしない。
本人曰く、エアーマスター。森に入ったりすると気配が追えない。
隣の部屋から聞こえる二人分の寝息。壁が薄い安宿ではこんなものだろうが。
『うぅ……レイ、それはだめです、犬…チョコは…』
こういう寝言でレイさん、といつものように言わないから、どこか期待が滲む。
テントで寝ている時も俺の尻尾を握りしめ、抱きついたまま熟睡するのだ。
無防備な寝顔は、いつもの少年らしくなくて、あどけなくーー艶っぽい。
無防備なのに、スルースキルが邪魔をする。
「クソ、眠れねぇじゃねぇか」
俺はなんだかあいつに手間のかかった嫌がらせを受けたような気がして、布団を頭からかぶってふて寝した。
結局もう一度『レイ…くふぅ』と聞こえた時点でそれは断念することになったのだが。
透「今回の話は僕にはモザイクかかって見えるんですよ」
創造神の思し召しですよ。
レイ「まあ、そうじゃなかったらぶっ飛ばしてたぜ」
透「やめて下さいレイさん。創造神(笑)が怪我したら、病院が迷惑します」
レイ「そりゃ大変だ。思い至らなかったぜ」
あ、扱いひどくない!?次「次回はちょっとスルースキル大活躍です」
お、お楽しみにぃ~……。




