旅人よ、自らを省みる時を大切にせよ‐3
いつからか降っていた雨足は強くなり、ヘルメットを叩く音が響くようになっていた。
バイザー越しの道路は滲み、握るスロットルが自然と緩む。ちら、と手元の時刻を確認すると出発してから既に二時間が経過していた。頃合いかと、彗一は呟くようにして言う。
『何が頃合いなの?』
「そろそろ飯でもってなー」
案の定帰ってきた反応に、苦笑交じりに返答。後ろの吸血鬼は相当に暇を持て余しているらしい。
『じゃああそこ! あそこがいいわ! とてもいい匂いがするのっ』
「……お、おう。分かったから身ぃ乗り出さんでくれ」
ともすれば車体のバランスを崩す程に身を乗り出す彼女が指差すのは、時代を感じさせる作りをしたラーメン屋だった。
◆
「はいよ、レバニラ定食レバー増し増し一丁!」
どん、と目の前に置かれたのは大盛りのレバニラ定食。箸を伸ばすのはアルヴィナンテ。鋭敏な彼女の嗅覚が嗅ぎ取ったのはどうやらこれだったらしい。
生の血ばかりを欲するのが吸血鬼という訳ではない、というのはアルヴィナンテの談である。
「美味そうに食うねえ。……俺も一切れくれよ」
「やーよ。欲しければ自分で頼みなさい」
残り四分の一程残っていたレバニラを口へとかき込み、もっきゅもっきゅと頬張るアルヴィナンテ。伸ばした箸が空を掴む事となり、死んだ目を一層澱ませる彗一。ハムスター然とした彼女を見やり、そこまでじゃねーよと自分が頼んだ料理に箸を戻す。
「それで、お前さん。体調はどこまで戻ってんだ?」
「むごむご」
「おーけー、すまんかった。とりあえず飯を食ってからにしようず」
言うと、アルヴィナンテは嬉しそうに頷き、目を細ませながら白米を頬張る。一応とは言え、王族が口にするには庶民派が過ぎるメニューではあるが、本人は非常に嬉しそうだ。達者な日本語と言い、非常に日本人的である。
やがて。
ひとしきり満足したらしいアルヴィナンテが唐突に口を開く。正直なところ、と前置き。
「普段の三割がせいぜいね」
「……そう、か」
三割。聞いて、少々の落胆。
少し前に戦った追ってとの戦闘が幾度も想定される旅路であるため、戦力はあればあるだけありがたい。それが、想定以下。少々プランの変更が必要である。彗一は黙考。
「――おーけ、三割ね。三割、三割……ねぇ」
「なによ、文句でもあんの? ならもっと血を寄越しなさいよ」
器用に使っていた箸の戦端を彗一に向ける。
「無理無理、こちとら貧血気味だっての。自分の血でも飲んでろよ」
「あなたは喉が渇いたからって、自分の尿を飲むっての?」
「あー……、おーけ、おーけ。了解。少しずつ血ぃくれてやっから待ってくれや」
レバニラ頼めばよかったなー。彗一は誰にでもなく呟くのだった。
投稿スパンが不確定です。
鈍亀更新ではありますが、お付き合い頂ければと思います。




