カゲキ魔法少女ナノハナ
夜空に浮かぶ満月により、何者かに意図的に壊され廃村と化した村を照らし出される。
「この世でもっとも強いのは何か知ってるか?」
その廃村の中央に立つ、魔法衣を身につけた大柄男性が唐突に語りだす。
黒髪の整った顔を持つ侍は、冷たい視線を大柄な男性に向けている
「国を治める大名か? 魔術を自由自在に操る術師か? はたまた、類稀なる剣技により有象無象を一刀両断する侍か? それとも……有象無象の妖怪か?」
「…………」
「答えは出ない……か。では教えるとしよう。真の強者は今、お前の目の前にいる男だ」
大柄な男はそう高らかに宣言すると、頭部から二対の角を生やし、全身を更に大きく膨張させた。
「妖の力を持った術師……この世で最も強い人間でもあり、新人類としてこの世の頂点に立つ者だ」
「禁忌に触れ、妖の力を得たか」
「これからは禁忌ではなくなる。何故なら、これからは俺がこの世を統べるのだからな」
大男がそう豪語すると、いつでも抜刀できるよう身構えている侍の周囲から、人の形をした妖が幾つも現れる。
「……この村に住んでいた村人達か」
「俺は妖の国を作り、やがてこの土地全てを支配して妖の大国を作り出す。まずは菜乃家の支配する青平から攻め落とすとしようか」
「巫山戯たことをぬかす」
侍は表情を険しくする。
「……まさかその為だけに、無実の村人を全て殺害して妖と混ぜて傀儡にしたのか?」
「俺が頂点に立つ為に仲間にしたんだ。それの何が悪い」
「…………」
「お前は確か、赤上原を統べる大名の三男坊だったな。そこそこ名高い貴様を倒せば、少しくらいは俺の知名度は上がるだろうな」
侍は何も答えない。
「少しでも仲間が欲しいからな。お前の首を取って世間を脅して、人間を潰して仲間を増やす。俺が天下を取ったら、人間を家畜にして飼い慣らしてやる」
「そうか……では、貴様の討伐を手早く済ませるとしようか」
「は?」
冷静に言い放った侍に、大男は眉間に皺を寄せる。
「手早く済ませる、だと? ただの侍であるお前は俺に敵わないというのにか?」
「幼稚なお前の戯言に付き合うほど暇ではない」
「戯言だと!? お前まで俺を馬鹿にしたな!? お前まで罪をなすりつけて殺すのか!? 今俺を殺したのは誰だ!? お前か!?」
侍の一言に大男は唐突に怒りだした。
「妖と不完全に混ざったお前が相手なら勝てそうだ。そもそも妖自体が不完全、未だに多くの妖が市民として認められていない意味をよく理解していないようだな」
「黙れっ! 誰だお前は!!」
「先程まで私のことを理解していたというのに、もう忘れたのか」
「潰してやる……! お前だけは生かして返さんっ!」
「誰も生かすつもりもないくせに」
怒りにより我を忘れるほどに憤る大男を前に、侍は至って冷静なまま話を続ける。
「そうだ、貴様の質問にまだ答えてなかったな。折角だ、質問に答えるとしよう」
「あ!? 何だそれは!?」
「この世で最も強い存在のことだ」
「かかれぇっ!!」
侍が質問に答えるのを待たずに、大男は周囲の妖に指示を飛ばした。
侍の背後にいた複雑な形の妖は、手に持った鍬を全力で振りおろした。
「私にとって、この世で最も強い存在……それは、魔法少女だ」
「は?」
鍬が振り下ろされるその瞬間。侍の背後に立っていた妖の背後に、妙に可愛らしい和装姿の可憐な少女が一瞬で姿を現した。
さながら和装の魔法少女のような見た目をした少女は、手に持っていたこれまた可愛らしいステッキを妖の頭部を目掛けて一振りした。
「!?」
鍬を振り下ろしていた妖の頭部が消えた。
「何だぁ!?」
頭部を失った妖は力なくその場に倒れ、大男は声を大にして驚いた。
驚いた大男は僅かな隙を見せ、それを見た侍は大男を目掛けて飛んだ。
大男の頭部を目掛けて刀を突き出す。
「おっと!」
大男は人並外れた動体視力と怪力により白刃取りを発動、侍の素早い突きを受け止めた。
「ふんっ!」
そのまま侍の刀を握りしめると、刀を怪力により砕いてしまった。
しかし、侍の戦力と自尊心をへし折るために刀を砕いた大男だったが、この行為により大きな隙を生み出すこととなった。
「ザマァみ……があっ!?」
大男が刀を砕いたその時。大男の顔面を目掛けて魔法少女の蹴りが炸裂した。
「……!?」
大男の顔面が大きく凹んだ。まるで超速で飛んでくる鉄柱を喰らったかのような、とんでもない威力の蹴りに大男は倒れた。
大男が倒れてからも、魔法少女は派手に暴れ回った。
鎌を振り下ろして突撃してきた妖の攻撃を僅かな動きで横に避け、空振りして大きな隙を見せた妖の頭部を蹴り飛ばす。
群れで襲いかかって来た妖達を、流れるような足技で次々と吹き飛ばしていく。
駆け抜ける魔法少女の前方から、大柄な妖が大股で突撃してきた。彼は両手で構えた大木を魔法少女目掛けて振りかぶる。
「はっ!」
魔法少女は大柄な妖の股下を滑り込んで通り抜ける。
振り向きざまに、隙だらけとなった大柄な妖の背中にステッキの一撃を叩き込んだ。
思い切り背中を殴られた大柄な妖は勢いよく吹き飛び、遠くで群がる妖の群れに命中した。
「ぐ……ぐぅ……!」
その間に大男は起き上がったが、その頃には部下である妖は全滅していた。
残る相手は大男のみ。
「き、貴様……っ!?」
大男は何かに気付いたのか、魔法少女の前で目に見えて狼狽し始めた。
(その身の丈に合わない怪力……! 俺はその正体を知っている……!)
頭に大打撃を受けてまともに動けない大男は、迫ってくる魔法少女をじっと睨みつける。
(全身に身につけている衣装は拘束衣……魔力を際限なく吸収し、それに比例して重くなる……)
(聞いたことがある……自在に魔力を制御して、重くなった拘束衣を利用して凄まじい力で圧倒する少女……! 名前は確か……ッ!)
魔法少女はその場から飛び跳ねた。狙うは大男の頭部。
だが大男も負けじと、魔法少女を目掛けて膨大な魔力を乗せた拳を放った。
「はあああああっ!!」
自身にも反動が出ようがお構いなしの、悍ましいほどの威力を乗せた拳は、魔法少女の足と激しくぶつかり合った。
魔法少女の魔力を最大限に吸収した、最重量級の下駄による飛び蹴りは、妖の力を持つ大男の拳を完全に粉砕した。
「がぁ……!?」
拳は粉砕され、守るものがなくなった大男の顔面に魔法少女の飛び蹴りが炸裂した。
顔面が粉砕されたその瞬間、大男は魔法少女を睨みつけながら、最後の力を振り絞って言葉を発した。
「カゲキ……魔法少女、ナノハナ……!」
飛び蹴りが致命傷となり、大男は完全に息絶えた。
全身から魔力が全て抜け落ち、小柄な男性へと変貌する。
妖を全て倒し終え、侍と魔法少女のみがこの場に取り残された。
「……無実の罪を着せられた術師に、上からの命により、大罪人の疑いのある術師を引き渡した村人……か」
大男だった術師を前に、侍は生前の彼らについて呟く。
「安らかに眠ろうとしていた人を無理矢理起こすなんて……」
「今回も、海月の衆による仕業だろうな。華が完膚なきまでに始末したから、もうこれ以上の被害は出ないことだろう」
静かに怒りに燃える魔法少女に、侍は冷静に言い放つ。
「しかし、長い眠りにつこうとしていた人間を禁忌により強引に目覚めさせ、結果、大勢の一般市民が犠牲となった……」
「……海月の好き勝手にはさせないんだから」
魔法少女は侍と共に、廃村を前に合掌をする。しばらく無言で手を合わせた後に、彼女は目を開いてひとつ言い放った。
「この世の平和を守るためにも……私、もっと強くなるから」
これは、現世で平和な世を生きていた少女が、有象無象が蔓延る異世界で最強になるまでの物語である。




