第二章:ゲームから学ぶ(1)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
深夜0時過ぎ、ロサンゼルスを南北に走るフリーウェイ110番線の高架の上、車線の真ん中でJは愛車の赤いシビックを停め、ジッポを弾いてマルボロに火を点けた。シビックにもたれダウンタウンの高層ビル群の灯りを見ていた。
「綺麗な景色だ」
煙を吐きながら深夜の夜景を楽しむ。
低層住宅の多いロサンゼルスの中、ダウンタウンの高層ビル群は象徴的存在であり、夜景としても見栄えがする。そのダウンタウンのビル群の夜景を見るのに、このフリーウェイの真ん中が一番綺麗だとJは思っている。深夜となれば車の量も少なく、Jにとっては夜景スポットとなり、次の車が来るまでの間、車から降りて煙草を吹かす悪い遊びをよく楽しんでいる。
暫く眺めていると車のヘッドライトが見えた。煙草を投げ捨て車に飛び乗り急発進をする。ここからはレースの時間だ。
ラジオからは2Pacの「Me Against the World」が流れ、小気味良いリズムに乗ってシビックの速度も上がっていく。
ロサンゼルスを東西に走るフリーウェイ105番線に乗り換え、東に向かって流していると、後ろから猛烈なスピードで追い抜こうとする車のヘッドライトが迫ってくる。
抜いたのは黒のスープラだ。
Jは直ぐにスピードを上げて抜き返し、スープラの前に入る。スープラは即座に車線を変えて抜き返し、これでレースは成立だ。
しかし、105番線での勝負は避けたかった。理由は単純で、西海岸の海の近くにある家から、東に向かってレースをすれば、家からどんどん遠くなるからだ。そこで、フリーウェイ710番線との交差ポイントが近くにあるため、スープラの前に行き、3回ウィンカーを出して710番線へと誘導する。相手も一度乗ったレースであり、そのまま710番線へとレースは流れ込んだ。
105番線がロサンゼルスを東西に走るのに対して、710番線は南北に走り、ロングビーチの港に着く。そこからなら家まで帰りやすく、またこの道は深夜の交通量が少ないのもレースに最適だった。
「さ~て、遊ぼうぜ」
一気にアクセルを踏み込む。
100キロ以上は出ている他の車のテールランプが、一瞬にしてバックミラーに映るヘッドライトへと変わる。サーキットでは無い車道の凹凸がハンドルに伝わり、スピードのせいで非常に重くなる。この重さがJには心地良い。
タイヤが路面を蹴る音と、運転に集中しているからかラジオの音があまり耳に入って来ない。ハンドルを握る手の内側にはうっすらと汗が滲んできたが、それでも一瞬で通り過ぎる広告看板などを眺める余裕があるのが楽しい。
スピードメーターは240キロを越えていた。
メーターには240キロまでしかなく、振り切っているのでもう少し出ているだろう。黒のスープラもしっかりと付いて来ている。Jはフリーウェイ上にいる他の車と共に、一瞬で過ぎ去っていくそれらの車のテールランプにも注目しながら、集中してレースを続ける。
3車線あるフリーウェイの真ん中をロングビーチ港へと向かう大型トラックが走っている。何キロ出しているのかは分からないが、物凄い勢いで近づいてくる。
「よし」と力を込めて気合を入れる。
緩やかな右へのカーブの為スピードが2台とも若干落ちていた中で、シビックはトラックの左を、スープラはトラックの右を抜く形になるはずだった。そこで、Jはハンドルを多少強めに曲げ、それから一気にアクセルを全開にした。
直前までかかっていたGとは異なるGが身体にかかる。トラックのすぐ後ろとスープラの間にある一台分のスペースにシビックを押し込み、前に出ることに成功した。
非常にギリギリだった車線変更の瞬間、脳裏に浮かんだのは「スターウォーズ ジェダイの帰還」で、ミレニアムファルコン号を操縦しデス・スターを攻撃中のランド・カルリシアンが言った台詞だ。
「今のは、危なかった」
同じような口調で軽口を叩いてみる。
2台が一瞬でトラックを抜いた後、スープラが車線を変えてシビックを抜きにかかるのを予測して、スープラが車線を変えた瞬間にJも車線を変える。これで相当イライラしたはずだ。再度車線を変えたスープラとはスピード勝負になっていった。
しかし、突如ベタ踏みしていたアクセルをJは緩めた。
極限で走っていた車は、手綱を緩められホッとしたように一気に穏やかなエンジン音に変わる。200キロ、180キロとスピードが落ち、スープラは一気に遠くになる。
呆気に取られながらも勝利を確信したであろうスープラに対し、
「グッドナイト」
と軽く顎を上げて挨拶し、一気に右車線に寄った。
次の瞬間、一台の車の屋根が光り、スープラを追いかけていった。Jが注目していたのは警察車両のテールランプだった。
しっかりと集中して見ていれば、警察車両のテールランプかどうかは分かる。それが見えた瞬間がゲームセットだ。スープラのドライバーが勝ったと言うならそれでも良いが、捕まったら意味は無い。
すぐにフリーウェイを下り、一般道を西に向かって帰路に着く。今度はボリュームを上げたラジオとマルボロを楽しみながらのドライブとなる。
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