第一章 ライフェン再訪 10
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翌日、目覚めると私はすぐに場長のところへ向かった。商館はまだやってないようだったが、施錠されておらず開いていて中に人の気配がする。
場長は同じ場所で同じように居眠りをしていた。ここが家なのだろうか? 私は椅子に座り、目が冷めるまで待つことにした。その間にタパ氏の母親に手紙を書く。私はもうタパ氏として老婆を連れ出さなくてもいいのではないかと考えている。私はある決心していた。そのために二、三やらなくてはならないことがある。
「こんな早朝からなにごとかね」
まだ半分くらい寝ている場長が言った。私はちょうど手紙を書き終えたところだった。
「今日発つので挨拶に来たんです、それと…」
私はドゥカード金貨を二枚差し出した。
「これは仕入れた本代と、もう一つ譲ってもらいたいものがあって」
場長は目を丸くしている。
「待て待て、前も言ったが本なんて無料でいい。これは金貨か? 久しぶりに見たぞ」
私は無理にでも受け取ってもらうつもりだった。私は仕入れに対して相応の対価を払うべきだと考えている。買い叩いたり騙したり、私はそんなものを望んでいない。ここで安く叩いても何も変わらないかもしれない。場長も商売をする気はないようだ。けれど私は決してそんなことはしたくないのだ。それは自分の尊厳でありそして信念であった。私はその旨を説明すると場長は渋々金貨を受け取った。
「あんたの銅像でも建てるか」
場長は冗談でそんなことを言い自分で笑っている。それは恥ずかしいので辞退したいところだ。
「あとはなにが入り用なんだ?」
「倉庫の奥のピアノを譲ってもらいたい」
またしても場長は驚いている。
「まったくあんたは突拍子のないことを言うね。あれは酒場にあったものだが、壊れてしまってね。誰も直せないものだから解体するのも忍びないってんで倉庫の奥に仕舞われたんだ。わしがまだガキの頃だぞ、しまって見えなくなったら人は安心するんだろうな、それからずっと放置されて忘れ去られたわけさ」
「今すぐは無理だが必ず取りに来る」
「ああ、好きにしろ。まぁあと百年経ってもあのままだとは思うがな」
場長が入れてくれたお茶を飲みながら私は聞きにくかったことを聞くかどうか迷っていたら場長からその話題になった。
「息子が帰ってきたと昨日の早朝から市で大量に婆さんが買い物をしていたそうだが、もしかしてあんたと関係があるのかい?」
昨日の朝食のことだろう。
「ああ、私をタパ氏と思って歓待されたんだ」
場長は笑った。
「あんたはタパとは似ても似つかないよ」
「私はいらないことをしたのかな?」
と私は聞いた。
「そんなことはない。婆さん、ここの所ずっとふさぎこんでいたからね、これで何かが変わればそれは素晴らしいことだ」
「やはりタパ氏は…」
私は場長に聞きにくいことを聞いた。場長は話すか少し迷ったようだが、別に話しても構わんだろ、と独り言を言うと話し始めた。
「十年前に建設王がやってきたんだよ、お忍びでね。それはタパ氏が亡くなったことを母親に直接告げるためだったんだよ。本当は書面一つで済まされるのだがね。建設王は優しい方だから」
年老いたタパ氏の母親は悔やみの言葉が添えられた手紙を建設王から受け取った。それで全てを悟りその場に泣き崩れたという。戦役者遺族年金の支給について知らされたが一言も耳に入っていないようだった。最愛の息子を失い慮って建設王はそれ以上声をかけることができなかったそうだ。母親はそのまま気を失ってしまい一気に歳を取ったように一晩で髪が全て真っ白になってしまったそうだ。そして目を覚ました時にはタパ氏が亡くなった記憶が綺麗になくなっていたそうである。自らその記憶を封印してしまったのだろう。そう場長が教えてくれた。老婆は本当に私を自分の息子だと思っていたのだろうか。老婆の頭はしっかりしていたし、理路整然としていた。息子への想いも痛いほど伝わった。結局わからずじまいだった。




