winter vacation 9
山道の雪は深く、滑るよりむしろ雪に阻まれる。
一歩一歩が重い。おまけに靄のせいで視界はさらに悪くなっていた。
それでも繋いだ手を離さない限りお互いのことを見失わないはず。
「有栖・・・まだなの?」
「そのうち辿り着くとしか今は言えませんね。それよりも絶対に手を離さないでください。こんなところで迷ったら元の世界に戻れなくなってしまうかもしれません」
「怖いこと言わないでよ。それに有栖の推理が正しければここは現実の世界ではない。お互い同じ夢を見ている。それかどっちか片方の夢の中に入り込んでいることだってあるかもでしょ」
「その可能性は否定しません、けれど肯定もしません。なにが正しいのか。答えはまだ見つかっていないのですから」
「だったらなんで山に登らなきゃならないわけ?」
「牛若丸に会えば答えが見つかるような気がした。それだけです」
「その根拠は?」
「正直に言います。感です」
「だと思った」
こんな会話でも多少は気が紛れる。疲れてもいる。けれど休憩できるような場所はどこにもない。ただ前に進むだけしか道はなかった。
二人の会話もだんだん少なくなってきた頃になって
「見えました。というか見てください、麻衣」
有栖の指差す方には
「え?門?」
「みたいです。どうやら私達は無事に到着できたみたいですね」
「はぐれることなくてよかった。それにしてもホント周りが全然見えないね。ってちょっと有栖ってば」
先を行こうとする有栖を引き止めて
「いきなり入るの?」
「そのために来たんです。微かに人に気配を感じます」
「そう?何も聞こえ・・・る」
耳を澄ました麻衣の耳にはとても小さいがしゃべり声が聞こえてくる。しかしそれだけでは鞍馬寺にいる人数を推量ることはできない。
「麻衣、静かに行きましょう」
「分かってる。さっきみたいなのは絶対にイヤだからね。それと有栖。もうあんな無茶しないでよ。怪我なんてホント駄目だからね」
「お気遣いありがとう。でも事と次第によってはそんなこと出来ないことは分かってください」
「なんか怖いこと言ってない?」
「大丈夫です。怖いことなんてなにもありません。麻衣こそ『生兵法は』って言葉もありますから手は出さないようにしてください」
つないだ手は少しだけ強くなった。
「行きましょう」
今まで登りだったこともあって境内が平らなことにホッとする。それにたくさんあるはずの雪が少しも積もっていないことに驚いている。
「なんで雪がないの?雪かきしたわけじゃないよね」
「そうですね。あえてここだけ降らなかった、みたいに見えます」
地面は乾燥していて泥濘むことはない。歩きやすい。しかしその分足音が響く。
おかげで境内からの声も良く聞こえてくる。
「靄が晴れていきます」
「ホントだ。誰かいる。でも一人?」
有栖達の目にはたった一人で稽古している姿が見えてくる。
「え?誰?」
見るとこの時代には到底考えられない服装をした
「女の子?牛若丸じゃない」
麻衣の言葉はそのまま有栖も同じ感想を持っていた。けれど
(麻衣には分からなくてもわたくしには分かります。あれは魔法少女です)
有栖にははっきりと分かっている。目の前にいるのはこの時代の魔法少女。ということはここは本当は現実の世界なのだろうか?
ますます状況が分からなくなってくる。
呆然と見ている。それなのに向こうにはこっち存在なんて関係ない、みたいな様子で稽古に集中しているみたいだった。
しかし、やはり気になったのだろう。彼女は動きを止めてこちらに視線を合わせてくる。
「お前達はここで何をしている?」
話し掛けてくる視線は否定しているとか怒っているわけではない。ただ純粋に有栖達のことを聞いてきたに過ぎない。
(有栖、見てよ・・・アイドルみたいな衣裳着てさ怪しいよね)
(そうですね。この時代にマッチしていません)
(あとさ、牛若丸いないよね)
(他に誰の姿もありません。牛若丸だけじゃなく鞍馬天狗も)
(そうだ。ここ天狗がいるんだ。もしかして彼女?なわけないか)
耳元でコソコソと会話していると
「もう一度聞く。ここで何をしている。答えよ」
ちゃんと答えないと今度は何をするか分からない。そんな視線に変わっている。
「あ、あの。私達は怪しいものじゃありません」
麻衣が慌てて答える。
「それだと怪しさだけ際立つと思います。先ずは自己紹介です。私は水無月有栖といいます」
「そっか・・・私は藤本麻衣」
「お前達はなぜここに入れた?」
「どういうことです?私達はただ雪道をここまで登ってきた。それだけです」
「そういうことではない。靄で周りを見えなくしていた。普通なら怖くなって途中で引き返すものだ」
「どうしても来たかった。ここに来れば何か分かるかもと思ったんです」
有栖は正直に答える。
「それで何か分かったのか?」
「はい、一つ。あなたが魔法少女だということが」
有栖の言葉に麻衣は首を傾げている。
「ねえ有栖、今なんて言ったの?」
「魔法少女。そう言ったのですよ」
「あ〜やっぱり。そんな風に聞こえたから確認したんだ。あ〜そっか。よかった。夢だって分かったよ」
彼女は興味を持ったみたいで有栖達に近寄ってくる。
青から緑に変わるグラデーションの髪。瞳の色は黒く、中心は赤くなっている。
目の真下の頬には逆三角形のタトゥーがある。初めて見るパターンだった。
手には薙刀がある。それも魔法少女的な。これは彼女の得物だ。
ジュアス。魔法少女の名前。
「お前は何者だ?なぜ魔法少女のことを知っている?」
「それは・・・」
有栖は麻衣のことを見る。麻衣も有栖のこと、ジュアスのことを見ている。
彼女は何も知らない。知ったところで問題があるのか?そんなものはない。有栖はそう判断して
「麻衣。今から起こることは夢です」
有栖は目の前でグローに変身する。
眩い青い光が有栖を包んでゆく。
「まさか・・・なぜ」
「これが先程の答えです。わたくしはグロー。あなたと同じ魔法少女です」
「本当に?私が聞いた話だといつの時代も魔法少女は一人きり。どういうことだ?」
「わたくし達の時代には五人の魔法少女がいます」
「わたくし達の時代?」
「はい。今から九百年程先の未来です」
「九百年?・・・よく分からんな」
「はい。わたくし達もなぜここにいるのか分かっていません」
じっとお互いのことを見つめている。そして観察している。
麻衣は言葉なく二人のことを見ていることしかできないでいた。
「それで?」
最初に口を開いたにはジュアスだった。
「勘です。ここに来れば何か分かるのはないかと。きっと魔法少女としての勘が働いたのでしょう」
「そうか。昨夜から感じていたことはきっとお前のことだったのだろう」
「今度はこちらから質問します。ここで何をしているのです?」
「見ていなかったのか?私は稽古をしていた。今夜のことに備えてな」
「今夜?」
「ああ。今夜彼奴は完全なドリーチェになるだろう。その瞬間マルヴを破壊する。一瞬のこと。間違えれば人間としての彼奴は死ぬ」
グローは黙って聞いている。
この時代にもドリーチェは存在している。けれど自分達の時代とは少しだけ発生条件が違うと思っていた。
「それはもしかして五条大橋の?」
「知っていたか。さすが魔法少女だな」
あの大男は『武蔵坊弁慶』なのだろう。まだドリーチェではない。だから身体が反応しなかった。それにそんなこと思いもしなかった。
グローは黙ったまましばらく時が流れてゆく。
これからどんな行動を取ったらいい?どうしたら元の世界に戻ることができる?
「あの!ちょっといい?」
二人の間に入ってきた麻衣が声を大きくジュアスに聞いてきた。
「お前は違うのか?」
「何が?」
「魔法少女ではない」
「だったらなに?何か問題なわけ?」
「そういうことではない。ただの質問だ。それでお前は何の用だ?」
「私のことは麻衣って呼んで。じゃなくて、ここに来たら牛若丸に会えると思ったのに。いないの?」
「お前、私のことを呼び捨てとはいい度胸だ」
「は?ねえ有栖・・・って今は違うか、なんだっけ名前」
「わたくしはグロー。有栖でも構いません」
「グロー・・・有栖・・・」
じっとグローのことを見つめて
「じゃあグローって呼ぶ。なんで彼女が牛若丸なの?」
グローは思う。そっか。この時代も男性が魔法少女に選ばれることってあるのですね。
そして軽く溜息を付いてしまう。
「分かりやすくいうと彼女の元の姿が牛若丸様だということです」
「はい?今なんて?」
「ですから彼女が牛若丸と言ったのです」
グローの言葉に麻衣は驚く。それももの凄く驚いた。
「夢だと分かっていてもビックリだよ。まさか牛若丸が女の子だったなんて」
麻衣はあくまで夢という縛りの中の出来事にしたいらしい。
「あの、差し支えなければ一度変身を解いてもらえないでしょうか」
「なぜだ。私は今夜に備えて・・・」
「分かっています。けれどこのままだと間違った認識の歴史が生まれてしまいます」
グローは自分の鏡を渡す。コンパクトを開くと今度はジュアスがとても驚く。
「実に見事な鏡だ。こんなにはっきりとした鏡は都広しといえどお目に掛かったことはない」
「気に入ったのなら差し上げます。ですから」
「分かった。交換条件ということだな」
ジュアスは鏡をじっと覗き込んでから何か言葉を交わしている。
やがて彼女の姿は揺らぎの中で元の姿に戻ってゆく。
「これで良いか?」
「おお・・・」
二人は同時に声を漏らす。
目の前にいる少年。歳は同じくらいだろうか。肌は白くてその分唇の赤さが鮮やかに目立つ。真っ黒な黒髪は長く後ろで纏められていた。それから鋭い眼差しが二人のことを見ている。
まさに絵本に描かれている見本みたいだと二人は思っていた。
「あなたが牛若丸」
「左様。ワタシが源義経である」
なんとなくだが麻衣の頬が赤くなっているのは気のせいではないだろう。
「満足したか?」
「はい。思った通りの美少年」
麻衣の素直な感想に
「美少年?ワタシのことか?」
「はい。他に誰がいるんですか?」
「正直そういう言われ方は好きではない。女と間違える者も多い。もっと逞しくならねばならぬ。今後そのような言い方は謹んでいただきたいものだ」
「分かりました。あの少し休憩しませんか。私達お寺で頂いた蕎麦がきを持っています」
「ほう。ならワタシはお茶を持っている。お互い交換しようではないか」
グローは元の姿に戻って三人は境内に置いてあるベンチに並んで腰を下ろした。
麻衣はしばらくじっと有栖の顔を覗き込んでいた。
「何か付いていますか?」
「どんなトリック?」
「トリックではありません。変身です」
「だから。そんなことできるなんて聞いてない」
「言ってませんから。私も牛若丸様も変身をして魔法少女になったのです」
「なんで二人だけ?私は?」
「これは誰にでもできることではありません。魔法少女に選ばれし者だけです」
「夢の中なら私だって変身してみたい」
「夢の中というのはあくまでも夢。自分の思い通りになる世界ではないのです」
麻衣は不貞腐れてまん丸に丸められた蕎麦がきを一つ頬張る。
「あ!美味しい。香りがいいね。それにちょっとだけ甘い」
「機嫌が治りましたか?」
「まあ、どうせ夢ならどうでもいいか」
「そう思ってもらえると話がしやすいです」
「このお茶って緑茶だよね。でもいつもより味が濃い」
「この時代に緑茶はあります。けれど私達の飲み方とは少し違います。茶葉をこれくらいの大きさに丸めたモノを削ってお湯に入れます。初めてですが美味しいです」
「へぇ〜やっぱり有栖はすごい」
「だからたまたまです。私だって知らないことの方がまだまだ多いですよ」
二人が会話をしている間、牛若丸は黙ったまま聞いていた。
「あのすみません。放ってしまって」
有栖が声を掛けると
「構わぬ。おかげで休むことができた」
「あの。聞いてもよろしいですか?」
「よい。何が聞きたい」
何を聞くべきか。有栖は考える。けれどとてもあり過ぎて迷ってしまう。
「何時からですか?魔法少女になったのは?」
先ずは一番気になっていることから会話を初めてゆく。
「そうだな。ひと月ほど前だったか。寝ているところにジュアスが現れた」
「魔法少女になることに抵抗はなかったのですか?」
「よく分からなかった、というのが正直な感想だ。しかし魔物から世の中を守るという使命があると知った時、引き受ける決心をした」
「魔物・・・ドリーチェですね」
「ああ。それとジュアスから聞いた話もある。出会うずっと前に奇妙なことが起こった。これはワタシも噂話で聞いたことだ」
「奇妙なこと?」
「ここより離れた小さな村に空より落ちた石があったのだ」
石?空から?
それってまさか
「それはどうなったのですか?」
「大層綺麗な石だと聞いた。その年は蝗害が発生したせいで、どこもかしこも食べ物に困っていた」
グローから聞いた話と一致する。ドリーチェのタマゴ。
「しかし石が落ちた後、不思議と駄目にされた作物が蘇った。おかげで飢えを凌ぐことができたのだ」
少しだけ内容が違う。けれどタマゴが何かをもたらしたのは事実らしい。
「しかし。同時にその村の住人は誰もいなくなった。不思議なことが起こったっと噂が広まった」
「誰も?いなくなった?」
「ああ。家も畑もそのまま。なのに人だけが消えていた。集団でどこかに行ったのか、それとも神隠しにでもあったのか。真実を知る者は誰もいないのだ」
そうなんだ。でもどこに消えてしまったのだろう。
「それからは平穏な日々が続いた。けれどジュアスはその石のせいで人間では対抗できない厄災が訪れると伝えてきた。だからワタシに依り代になれと言ってきたのだ」
「厄災?」
「その石は力を蓄えていて今夜満ちるそうだ」
「だから稽古を?」
「ああ。これまで何度か魔物と戦った。それはどれも手応えのない弱い輩ばかりだった」
「なんで今までその石の存在に気が付かなかったのですか?ドリーチェになる前に倒してしまうのが一番いいのに」
「確かに其方のいう通り。しかし分からなかったのだ。何年も眠っていたとしか」
「それが今なら分かる」
「ああ。ワタシには分かる。しかし今のままではワタシは勝てないかもしれない。自分の力の使い方もよく分からないのだ」
この時代。魔法という概念はない。陰陽道くらいしかなかった。それと魔法は全然違うのだろう。
有栖は立ち上がって
「私が魔法を教えます」
もう一度グローに変身した。
「さあ、牛若丸様もジュアスに変身してください」
「よかろう。面白い」
牛若丸は耳にしている黒い石のピアスを指で触ると、どこにあったのか薙刀が手に現れる。それから華麗に舞い始めて最後にもの凄い勢いで廻すと風は幾重にも重なって身体を包んでゆく。
「では教えてもらおうか」
「はい。遠慮なく。覚悟してください」
グローは自分の魔法を見せる。幸い周りは雪に囲まれているおかげで水の心配はなかった。
氷で矢を作ってみせたり、水を自由自在に操ってみせる。
「ほう。そんなことができるのか」
「あなただってあるはずです。ジュアスから伝授されていないのですか?」
「私には空気を操ることができると教えてもらった。だが空気を操るという意味が分からない」
空気。グローも一緒になって考える。
空気とは目の前にある。いつだってどこだって材料はある。それと魔法をどう組み合わせるのが正解なのだろう。
「空気とは手には触れない。見ることもできない」
「しかし操れることは分かっています」
「だがやり方が分からぬ。だから今までは与えられた薙刀を使うことがほとんどなのだ」
ジュアスは変身の時と同じように舞う。その風圧をグローは肌で感じると
「もしかして、空気というのは風のことではないでしょうか」
「風?」
「そうです。その薙刀は相手を斬るだけのものじゃない。風を起こすことにも使えるのではないでしょうか」
「コイツが?風を?」
「今まで感じたことありませんでしたか?」
これまでの戦いのことを思い出してみる。
「確か、こう・・・」
そういうと目の前で新体操のバトンのようにクルクルと廻す。
「このようにした時は空気が周りに集まっていたように思う」
「そうですか。解答は出ていたようです」
グローはさらに魔法力のこと。それに魔法を信じることを教える。
「ではやってみてください」
「分かった」
ジュアスは薙刀を扇風機みたいに激しく廻し始める。
「麻衣は危険なので建物の影に隠れてください」
グローに言われ走って境内の裏手に隠れる。
「それから空気・・・風を感じてください。そして心から信じてください」
目を閉じて精神を集中する。やがて淡い青緑色の光がジュアスの身体を包んでゆく。
「いいです。その調子です」
「結構・・・力を持っていかれるな」
「それが魔法力です」
回転はさらに速くなった、と思った瞬間。薙刀からもの凄い竜巻がが起こる。
そこにあった灯籠もベンチも風に巻かれて空高く舞い上がってゆく。
「これが魔法?」
唖然と見つめているジュアスにグローは拍手を送りながら
「すごいです。あんなのまともに喰らったらとても耐えられないでしょう」
「なるほど。しかし、お前は平気みたいだな」
「ではわたくしのこと飛ばしてみてください。簡単にはいきませんよ」
「これはいいことを教えてもらった。ならもっと本気でいかせてもらおう」
「望むところです」
ジュアスの本格的な特訓が始まった。
何度も風を起こしてはグローに向けて放つ。
なんなく躱してゆくグロー。
そんなやり取りを影から見ていた麻衣は思った。
(鞍馬天狗の正体って有栖だったりして)
荒唐無稽なのは分かっている。けれど伝説になるならこれくらいのことがあっても当然だとも思っていた。
「きゃ!」
目の前にグローが飛ばされてきた時は驚いた。
「大丈夫?」
「はい。ここまで飛ばされるなんて。筋がいいで。さすが牛若丸様ですね」
「余裕の笑顔だね」
「まだまだ。こんなものじゃありませんよ。麻衣こそ気をつけて下さい」
体勢を立て直して再びジュアスの元に戻ってゆく。
「どうだ?」
「いいですね。これなら相手も簡単に近づくことはできないでしょう」
「魔法とはなんとも素晴らしいものだな。しかし同時に怖いものでもある」
「その通りです。だから正しく魔法を使う必要があります。決して間違った使い方をしてはいけません」
「ああ。そうだな」
ジュアスの動きが止まる。精神を集中させているのが伝わってくる。
周りの光はさらに色を強めてゆく。
「最後だ。全力でいかせてもらう」
「どうぞ。あなたの本気を見せてください」
一瞬、時が止まったような静寂が辺りを包み込んだ。
「喰らえ!私の全力を!」
薙刀は見えないほど回転が速くなる。
次の瞬間、放たれる魔法。
グローは耐えることができず遥か上空に飛ばされる。グローだけではない。本堂までも完膚なきまで粉々になって空に押し上げられる。
「麻衣!」
一緒に飛ばされる麻衣。でも近づくことはできない。
「こうなったら」
グローは念動力を使って麻衣のことを自分に引き寄せた。
「大丈夫ですか?」
「・・・な、なんとか・・・」
気を失ってしまった。
風が収まると想像以上に鞍馬寺は壊滅していた。
「はぁ・・・はぁ」
息を切らしているジュアスの元に行って
「すごいです。とても耐えられませんでした」
「はぁ、はぁ・・・しかし疲れるな」
「魔法力を使ったからです。体力と一緒です。休めば回復します」
「ああ。夜が来るまで少し眠る。今から私の屋敷に来い。お礼をしたい」
「ありがとうございます。実はわたくしもお腹が空いて、もう限界です」
「分かった。それにしてもどうする?魔物の仕業にするか」
「そのことなら大丈夫。見ていてください」
麻衣のことをジュアスに預けて一歩前に出る。
「全てを元通りに!スラーン」
呪文と同時に壊れたもの全てが何事もなかったかのように元に戻ってゆく。
「すごいな」
「あなたもできますよ」
「そうなのか。知らなかった」
「いろいろ教えてあげたいところですが、今は休息が必要です」
「そうだな。これでドリーチェを倒すことができる。自信が出てきた。ありがとうグロー」
それから空を飛んで屋敷まで戻った。姿を消す方法は教えたので誰の目にも留まることはなかった。
到着した時には麻衣も目を覚ましていた。
そこには元に戻った有栖と牛若丸の姿を見て
「元に戻ってる」
「なんのことです?麻衣はずっと寝ていたのですよ。余程疲れたのでしょう」
「え?そうなの?」
「そういうことにしておきましょう。深く考えるのは後にして今は休みましょう」
牛若丸の案内で屋敷の中に通される。
とても広くさすが時の人。貴族の暮らしを体験している二人だった。
やがて夜になる。
「十分休めた」
「出掛けますか?」
「ああ。実はさっきから肌がピリピリしているのだ」
「私もです。麻衣はここにいて私達の帰りを待っていてください」
「え〜!そんな!」
「とてもキケンです。それにここから先は知らない方がいい」
「分かった。待ってる」
「ずいぶん素直なのですね。では参りましょう」
有栖と牛若丸は夜の帳の中に消えてゆく。
それを見計らって
「場所は分かってるんだ。こっそり見るくらい平気だよね」
麻衣は時間差で屋敷を後にして有栖達の後を追う。
とても静かな夜。魔物のことで誰一人通りを歩いている者はいなかった。
やがて都全体を薄らと靄が被い始めていた。
毎日晴天。雲一つない空っていいものですね。
読んでいただきありがとうございます。
もし牛若丸のお話しが好きな人には申し訳ないと思っています。
自分の都合でこんな形に作り替えてしまって・・・
でもこんなファンタジーもあってもいいかも、と勝手に解釈している私です。
さて。いよいよ次回はあの有名はシーンを書くわけです。
どんな風にしようかワクワクしています。
では来週。遊びに来てね。




