滅ぶべきは人間達
お互いの距離は二メートルも離れていない。向かい合っているだけなのにジーアの頬には一筋の汗が伝わるのを感じている。
魔法・・・私の魔法で目の前のドリーチェに勝つ術がない。時間があれば『アダマス』を呼び出すことだって出来るかもしれないけどそんな余裕は与えてもらえないだろう。
なら逃げる?でもどこに?多分逃げることは不可能だろう。
「緊張してますね」
最初に言葉を発したのはヘーンだった。
「言いましたよね。お話ししましょう、と」
魔法・・・何が使えるの?私の魔法は集めること。駄目・・・なにも思いつかない。
「ジーアの頭の中はわらわと戦うことでいっぱいみたいですね。いけませんね。話はちゃんと聞くものですよ・・・仕方ありませんね。見せてあげましょう」
ヘーンは急に姿勢を正すと扇子を片手に踊り始める。日本舞踊みたいな舞が真っ黒な世界で展開されている。音のない闇の中、緩やかに嫋やかに舞う。
あまりにも美しい所作にうっかり瞳を奪われていた。
「どうですか?少しは和みましたか?」
コイツは本当に敵なのだろうか?一年後。世界を滅ぼす敵なのか?
ジーアにはよく分からなくなってくる
「・・・戦いはしない」
「最初からそう言ってます。やっと理解してもらえたようですね」
ヘーンは再び扇子で口元を隠した。
「それと感想を聞きたいものですね」
「・・・?」
「ずいぶん見入っていたと思ったのですけど」
何のことを言っているのか理解する。
「・・・キレイだと思った」
「いいですね。その感想、気に入りました。キレイって素敵な言葉ですね」
戦わないって本当なのだろうか?
信用出来ない。油断をさせてイッキに攻めて来る可能性だってある。
疑問。
今は疑問しかない。
本当に戦う意思はない。だとしたら信用してみる価値もあるのではないだろうか。話をすることによって相手のことをもっと知ることだって出来るかもしれない。だとしたらこっちにとってはかなり得るものはあるはず。だってあまりにも知らな過ぎることが多過ぎる。
「まだ信用してもらえませんか?わらわとしては信用してもらいたいんです」
「そ・・・そんなこと言っても・・・」
「ここじゃなんですからあなたのお部屋でどうでしょう」
「部屋?私の?」
「何か問題でも?」
本当に?信用できるの?
相手は人の姿をしている。でもドリーチェなんだ。私達とは違う存在。そんなのと話しなんて成立するのだろうか・・・
「じゃあ行きましょう」
「ま、待って」
ヘーンが動く前に止めに入った。
「私には家族がいる。もし私達の姿を見られたら今後の生活に支障が出る」
あ、なに言ってんだろ・・・もしかして私、信用し始めてるの?
「そのことならご安心を。この空間にはわらわとジーアの二人だけ。他の干渉は受けない」
「え・・・これって」
「そうです。わらわが術を使って造り出した空間です。安心しましたか?」
ミアンの魔法に似た感覚の正体はこの空間のせいなの?
「この空間だけ時間が止まっています」
「・・・・・・」
「止まっていると言っても術を解けば術を発動した時間に戻れます。この空間はいわば時の存在しない永遠の場所ということです」
「だから安心して話し合おうと・・・時間は関係のないこの空間でってこと?」
「そうです。ちゃんとあなた方の普段の生活というものを尊重しているんです。ツジツマが合うように。ここまで考慮しているわらわのこと、そろそろ信用してもらいたいです」
「それでも信用できないって言ったら?」
少しだがヘーンの扇子が震えた。
「そうですね。どちらかが命を落とす。いや命を落とすのはジーア、其方になる」
分かってるんだ。今の私には絶対に勝つことは不可能だってこと。まだだ。今、こんなところで命を落とすわけにはいかない。落とすならもっと先、じゃないと駄目なんだ。
「・・・分かったわ。しましょう・・・話し合い」
また扇子が震える。
「やっと理解していただけたこと嬉しく思います。わらわも今ジーアを失うのは得策とは言えないので」
「・・・・・・いいのね。私の部屋で」
「はい」
敵に背中を見せることはしたくない。けれどヘーンの言葉を信用するなら今すぐ殺されることはない。だから応じたんだ。それに今は相手の掌の上にいる。あがいても状況は変わらない。
ジーアはそう判断すると不思議と気持ちが落ち着いていることに気がついた。いつの間にか首から下げているウラングラスを触っていた。
キトの言葉を思い出す。進むその先には答えがあるかもしれない。焦って足元を見失わないことを。今を受け入れるんだ。
(勇気をありがとう。私、頑張ってみる)
ジーアは心の中で感謝していた。
あらためて対面すると相手の顔がよりはっきりと認識することが出来る。
仁の部屋には生憎客用の座布団やクッションはなかった。仕方なくヘーンにはベッドの上に座ってもらう。部屋に来たなら一応客として扱う。これが大人の礼儀だと思った。
「よろしいのですか?」
「仕方ないの。ベッドで悪いけど我慢して」
「わらわは別に構いません。それで?ジーアはどこに座るのですか?」
「私は椅子でいい」
ジーアが座ったのはいつもの椅子だ。座り慣れているしこの方が落ち着く。
「お茶とか欲しい?」
「そうですね。わらわ達は必要としませんのでお気遣いなく。でもジーアが飲みたいならご一緒してもいいですよ」
「わかった。私が喉が乾いたから付き合ってもらう」
一旦部屋を離れて冷蔵庫からアイスコーヒーを二人分グラスに注いでガムシロとミルクポーションをトレーに乗せて戻る。
「コーヒーだけど」
「知らないです。この色。この空間のように真っ黒ですね」
ヘーンは興味津々でグラスを見つめる。けれど見ているだけで飲もうとはしていない。
ジーアはそんなことには構わずに何も入れずにグラスの半分まで飲んだ。それからガムシロとミルクをちょっとだけ加えて味変をする。
ヘーンはジーアのことを観察していた。
「その行為になんの意味があるのか知りたくなりました」
グラスを手にして匂いを確かめてから一口。扇子で隠れているが一連の動作は分かる。
「・・・なんとも苦い味がする。だが嫌いではない」
「だったらこれ入れると甘くもなるしまろやかにもなる。濃さは好みだけど」
ジーアの残したガムシロとミルクを指で軽く撫でて味を確認する。
「このままの方がわらわの好みです」
「ふ〜ん・・・それで意味があった?」
「そうですね。なんと言いましょうか。気分が落ち着きます」
「そっか。じゃあ始めましょう」
ジーアの言葉に目元が笑っている。そして扇子を畳んで手前に置く。
端正な顔。青白い肌に真っ黒な髪に緑色をした瞳。真っ赤なくちびるは紅でも塗っているように鮮やかな色をしている。それとずっと思っていた眉墨が昔の日本の貴族を連想させる。
着ている衣裳も十二単みたいに何層にも重なった着物のよう。正座して座っている足元には白足袋が見えている。おまけにベランダに揃えて置かれているのは雪駄だった。
本当にドリーチェなの?それともタイムマシーンでやって来た過去の人なの?
ジーアがあらためて感じた感想だった。
「あらためまして。わらわはヘーンと申します。人間ではなくドリーチェです」
深々とお辞儀。ジーアはちょっと面食らってしまう。社交辞令というならこっちだって心得くらいはある。社会人なのだから。
「ご丁寧にありがとうございます。魔法少女ジーアといいます。そして私はジーアの依り代で本来の名前は神谷仁といいます」
同じように深々とお辞儀。私だってこれくらいのことちゃんとできるんだから。
「それで今夜窺ったのはジーアに直接お話があったからです」
「分かった。早速聞かせてもらう」
ヘーンはドリーチェとは思えないほどの優しい微笑みで
「単刀直入に申します。わらわ達と手を組みませんか、ということです」
予想外の提案に目が丸くなる。
「・・・わらわ達で創る新しい世界。協力していただきたいんです」
「・・・・・・」
あんまりな提案にすぐに言葉が出てこない。というか理解不能。脳がエラーを表示している。現実に起こっていることだろうか?それともドリーチェに幻覚でも見せられているのだろうか。
「理解できていない」
「・・・・・・・」
「でしょうね。でもわらわ達にはジーアの力必要なのです」
原子を集めること?なんで必要なの?
「ジーア達、いや人間達はこういう時にコーヒーを飲むのではないですか?」
反射的に手をグラスに伸ばしていた。それに震えている。コーヒーの表面が微かに震えている。相手に気付かれたくない。けれどもう気付いているだろう。
落ち着つくんだ。そのための飲み物。だから飲む。正直味わっている余裕なんてない。辛うじてジーアの舌は甘味だけを感じていた。
それでも飲み込んで深く息をすると少しだけギアが入って頭が回転し始める。
「なぜ私なの?なぜジーアなの?他じゃ駄目なの?」
「やっと喋りましたか。でも質問が多過ぎると思います。結論は一つ。わらわと一緒に来るかそれとも命を落とすかという二択です」
早くも結論を求められている。じっくり話すことなんて出来ないのはやっぱり相手がドリーチェだからなの?
「時間はある」
「そうです。もし望むなら永遠にこのまま生きることだってできます」
「結論はすぐに出ない。だから話す必要があるの。それにこの提案をしたのはヘーン、あなたなの。私には何かを決める結論は求められていない。求められているのは話し合いのはず。だから質問をしているの」
ジーアは真っ直ぐに相手のことを見る。ヘーンは何か感じたのだろうか、再び扇子で口元を隠すと
「いいでしょう。話し合いです。でも最後には選んでもらいます」
ヘーンの感情が読めない。笑っているのか、それとおくちびるでも噛んでいるのだろうか。
「わらわも今は落ち着く必要がありそうです」
コーヒーを一口飲む。それから扇子を畳むと同じ場所に置いた。
「ジーア、いや・・・ジーアの依り代よ」
「あの」
「まだ話している最中ですよ」
「ごめん。あのさ、私の呼び方、面倒なら『仁』って呼んでも構わないよ」
「・・・確かに。いいでしょう。今からそう呼ばせてもらいます。では仁。其方に聞きたいことがある」
ジーアは頷く。
「この世界に満足か?」
「・・・え」
「だから満ち足りているかと聞いておる」
いきなりの変な質問だったから戸惑ったけど
「うん。自分の人生にある程度満足はしている」
素直に答えたつもりだった。けれどヘーンは首を傾げる。
「わらわが聞いたのは世界のことであって其方の人生のことではない」
「えっと・・・なんかスケールが大きいね」
「わらわが知りたいのはそれぞれの人生ではない。世界のことよ」
「すぐには答えられない。考えさせて」
「よい。時間なら永遠だ」
ジーアは残ったコーヒーを飲み干して質問の真意を考える。世界か・・・
「世界・・・そんなこと言い出したら満足とかそうじゃないって簡単に分けることは出来ないと思う。だって価値って人それぞれなのよ。満足だって思えば満足だし、そうじゃないって思えばそうじゃない。みんながみんな同じ方向を向いているわけじゃない」
ヘーンは特に何か言葉を発するわけじゃなくジーアの言葉に耳を傾けている。
「だから幸せの度合いだって違ってくる。私から見たらその人は幸せそうに見えても本人はそう感じていないかもしれない。その逆だってあると思う」
「つまりは統一されていない世界だと。皆それぞれの価値基準と私利私欲によって成り立っている世界ということになる。満足という言葉で一括りにはできない」
「そう・・・だと思う」
テレビで流れる募金の案内とか寄付とか目にする度にまだまだ満足に食事もできない地域があることを知る。それは外国だけじゃない。
日本だって生活レベルは様々だ。こんなにモノが溢れているのに貧しさに苦しんでいる人がいることは知っている。自分の出生があやふやで戸籍がなく学校にすら通えていない子供がいることだって知っている。今の時代、読み書きができないなんて信じられない。でも事実だ。
私達人間のことがドリーチェ達と何の関係があるというんだ?
「今度はこっちが聞いてもいい?」
「なんなりと」
「あなた達ドリーチェの最終目標ってなんなの?」
「それを知ればこちら側に着くというのか?」
「そんなこと言ってない」
「では聞く必要はありますまい。知ったらどうする?阻止するのが其方ら魔法少女の使命とでも?」
このドリーチェはなかなか手強い。
交渉というのはペースを取った方に分がある。
グラスの中の氷が溶けたのだろう。バランスを崩して、カラン、という乾いた音を立てた。
このままじゃ駄目だ。話し合いになんてならない。私は大人。自分という存在を再確認する。
ジーアは大きく息を吸って、それから体中に溜まっていた空気をイッキに吐き出す。もうこれ以上出ないというところまで。しばらく呼吸を停めてからゆっくりと呼吸を再開する。血液が新鮮な酸素を身体の隅々まで超特急で運んでゆくのが血管を通して伝わってくる。
おかげで冷静になれた。いつもの自分に戻った気分がする。
「仲間に付く、付かない。私には選ぶべき答えが出ている」
ヘーンは表情も変えず微動だにせずジーアを見ている。
先の言葉を待っているのかそれとも今すぐ攻撃を仕掛けてくるのか。
後者はないだろう。ジーアが必要とはっきり言ったんだ。少しくらいは痛い目をみるかもしれないけれど命さえあれば問題ない。覚悟はできている。
ジーアは瞬時に頭を働かせてヘーンが動く前に言葉を続けた。
「それは私の今の立場だからとだということ。私達は本当の意味でまだ何も話し合えていない。もしあなた達に付くことによって世界平和という完全な理想郷なるものがあるとしたら、ぜひ聞いてみたい。だって私達魔法少女だって世界の平和を願っている存在。お互い言葉で言ったら求める平和は一緒のはず。正直、興味がある私もいることは確かなの。時間ならいくらでもあるんでしょ。だったらそんなに結論を急がなくてもいいんじゃない?それともあなた達の目指す世界って語れないほどちっぽけな理想なのかしら」
イッキに喋ったせいで喉が乾く。溶けた氷でできた水を飲んだ。まだ少しだけ甘い味がする。
ヘーンも同じようにコーヒーを飲んでいた。
頭の中でいろいろと考えている。
ジーアは相手の心理を読み取ろうと相手の行動を見ている。けれど相手はあくまで人間ではなくドリーチェ。思考回路が同じだとは思えないし思わない方がいいだろう。
しかし。今の提案でやっと自分の駒を一つ進めることが出来たような気がする。
もっと流れを完全にこちら側に向けるんだ。もう一押し。相手の気持ちを揺さぶるんだ。
「それとも私達が想像もできないくらい素晴らしい世界なのかしら。私は普段はただの人間だから目の前に映ることにしか幸不幸の基準を付けることしかできないちっぽけな存在なの。だから遠い世界から来たあなた達ドリーチェにはどんな風に今の世界が映っているのか聞いてみたい。本当に賛同できることなら私を通して他の魔法少女の伝えることもできる。それだけじゃない。ジーア本人にだって伝えられる。そしたらアルガトネオルにいる魔法少女達だってこれ以上無駄な戦いをしなくていいってなるかもしれない」
ジーアはヘーンのことを目を逸らすことなく見つめる。
見れば見るほど同じ人間にしか見えない。
ヘーンは小さく笑い出す。
「いいでしょう。どのような形を取ってもいずれジーアにはわらわ側に来てもらう。わらわも強引なことはしたくありません。それと協力的になってもらわないとかえって面倒なこと。そう今判断できました」
やった。ついに真相が聞ける。その一部でも聞ける。私のハッタリ交渉は成功した。
「ずいぶんジーアのペースになってしまいましたけどお見事です。褒めて差し上げます」
ヘーンは揺らぐことのない視線でジーアのことを見返す。
「しかし。わらわのペースに戻させていただきます」
再び扇子で口元を隠す。
「人間とは」
そう言った瞬間、さらに周りの空気が重くなった。それはヘーンのプレッシャーなのかもしれない。ジーアは平穏でなんてことない表情を保ち続けるしか抵抗の余地がない。
頬を伝って流れた汗は掌に落ちた。
「人間とは・・・その後は?」
声が震えないように出すのが精一杯だった。
「人間とは滅ぶべき存在。実に素敵な考えです。気に入っていただけましたか?」
こんなのが話し合いですって?最初に会った時と変わらない言葉にジーアは肩を落とす。
「・・・滅んだ後にどんな世界が待っているの?」
「そんなこと分かりきっています。わらわ達だけが存在する世界です。誰も不幸にはならない。誰一人として。これ以上の理想郷が存在しているのでしょうか」
「それで?私がそっちに付いたら?人間なのよ。殺されるってこと?」
「そこが問題でもあります。役割のためだけに存在を許すというのは受け入れられることでしょうか。イヤと言ってもそれしか生きる道はありませんけど」
結局何も変わらない。
私達はいずれ戦うことになる。なら他の情報を手に入れないとならない。
「なぜあなた達は私、というかジーアが必要なの?」
「友が待っている。そう言えば伝わると思います」
「友?」
「はい。少々手こずってまして。落ち着いてもらうためには・・・」
ビシッ・・・突然空間にヒビが入る。
「この通りです」
「どういうこと?」
空間のいたるところからヒビが走る音が響く。出来た隙間から眩しい光が差し込んでくる。
今は夜のはず。それとも外の世界では朝が来ている?
「気持ちが変わるはずです。ではそろそろお暇いたします。コーヒーごちそうさまでした。とても気に入りました」
ヘーンは立ち上がると雪駄を履きにベランダに歩いてゆく。
「ま、待って」
動きが止まる。振り返ることなく言葉を待っている。
「考え直せないの?」
「何をです」
「一年後。私達は戦わなくてもいい解決の道を探せないの?」
ヘーンはすぐには答えない。
「気に入ったんでしょ、コーヒー。人間がいなかったら見つけることができなかった。この世界にはもっといろいろ美味しいもの楽しいものがある。確かにあなたの言うように世界の隅々まで行き渡るような平等ってないのかもしれない。でも私達は困っている人を見捨てるようなことはしない。きっといつか助けの手が届く」
「ジーア・・・あなたの理想聞かせていただきました。でも現実は残酷です。そのいつかは永遠のいつかになっていることに気付くべきです」
ヘーンが造り出した空間は今にも破裂しそう。
「また機会があれば。わらわの力が蓄積された時。またコーヒーをお願いします」
ジーアに聞こえたのはここまでだった。
やがて空間は光に満たさる。眩しくてこれ以上を目を開けていることができなかった。
音も衝撃もなく再び目を開けた時、ジーアがいたのは仁の部屋だった。
窓から差し込む光に今が朝だと知る。
途中で空間が壊れたせいで時間が戻ることがなかったのだろう。
「ジーア」
鏡に呼び掛けると
「おはよう仁。もしかして朝まで?」
ジーアの顔があることに心底ホッとした。
「・・・頑張ったよ」
「それで?なにか分かった?」
「ううん。まだ何も・・・」
さっきまでのことを話した方がいいんだろうな。
でも。
時計のアラームが鳴り始める。仕事に行かなくてはならない。
「ジーア、変身解いて」
「分かったわ。これから仕事でしょ」
「うん」
「頑張るね。でもちゃんと休んでよ。倒れたら意味ないし」
「分かってる」
「それじゃまたね」
「あ、あの」
「なに?」
「・・・いや、なんでも」
「変なの。じゃあまたね」
元に戻る。
完徹なんていつ以来だ?身体は休みたいと言っているのに頭は冴え過ぎている。
ジーアにどう話そう。何から話そう。そんなことがグルグル思考する。
とりあえずアラームを止めた。音が無くなると現実が重くのしかかってくる。
あらためて部屋を見るとベッドにはヘーンが座っていた跡が残っている。空になったグラスも二つある。
「・・・夢なんかじゃなかった」
貫徹した脳は急に速度を落として止まりそうだ。ジーアの言う通り無理は良くない。
それでも仕事に行かないとならないのは社会人の宿命だ。重い腰をなんとか上げると足は振るえている。歳なのに頑張り過ぎだ。でもやるって決めたんだ。
今は気合いだけで動いている。
今夜はゆっくり眠れるといいな。その希望だけを持って部屋を後にした。
春の色が夏の色に変わろうとしています。
読んでいただきありがとうございます。
前回のように曜日を決めてアップというのはしない。
ある程度書いたらアップというのを試してみたいから。
それでもペースを作ってアップはしていきます。
気まぐれな私ですみません。
次回はいつアップ?ま、来週でしょう。
そんな感じになりますが次回もよろしくお願いします。




