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27.とんでもない推測

「……今さらこいつを、聖女だなんだとあがめるつもりか。都合のいい話だ」


 アルモニックのとんでもない言葉にぽかんとしていたら、シェスターの低い声がした。はっと我に返りそちらを向くと、鬼の形相で腰の剣に手をかけているシェスターの姿が目に入った。


 だめだこれ、今までの怒りとかその他もろもろが、一気にあふれ出かかってる。このまま放っておいたら、間違いなく大変なことになる。シェスター、私のことになるとちょっぴり人が変わるし。


「わわ、シェスター、ちょっと落ち着いて」


 仕方がないので、彼の右腕にしっかりと抱きついて動きを止める。気のせいか、神官と神官騎士たちがざわついたような。いや、どことなくにやけてるような? なんだろう、あの表情。


 ひとまずそちらは置いておくとして、今のアルモニックの言葉を整理してみることにする。


「……えっと、つまり……名前はあくまでも、異世界の人を呼ぶためのきっかけとか、とっかかりにすぎなくて……でも実は異世界の人なら、誰でも魔法が使えて、魔王を倒せるのかもしれない……ということ?」


「おそらくは。これまでに、異世界の客人を同時に複数招いた記録はないので、断言はできませんが」


 うわあ、思いっきり肩透かしを食らった気分。聖女じゃないってだけで殺されかけて、聖女じゃないけど魔王に立ち向かいたいって決心して戦った身としては、ものすごく複雑な気分。


 思わず眉間にしわを寄せていると、場違いに明るい声がした。


「つまりカレン君は、知らず知らずのうちに聖女として行動し、見事その役目を果たしたのだな! いやあ、素晴らしい!」


「カレン様もまた、聖女様……でしたら魔王をしりぞけたカレン様こそ、誠の聖女様、だと思いたいです……」


 メルヴィルさんが晴れやかに笑い、トマス君が小声でつぶやいている。それに同調するかのように、神官や神官騎士たちが無言で目配せし始めた。


「あの、別に私、聖女じゃなくってもいいんだけど……」


「そ、そうよ! 聖女はこのあたしよ!? 今までさんざん傷を治してあげたの、忘れたの!? この恩知らず!」


 むずがゆさに耐え切れなくなった私のせりふと、いらだたしげなカリンさんの叫び声が重なる。それを聞いた神官と神官騎士たちが、無言でちらりとカリンさんを見た。


 ……まあ、カリンさんも頑張ってはきたのだろうけど……この狭い山道を輿こしに乗って運ばれてる時点で、偉そうだなあという感想が先に来てしまう……。


「な、何よその目は!」


「……カレン様」


 みんなの視線にたじろいだカリンさんを豪快にスルーして、アルモニックが私に笑いかけた。初めて会ったときを思わせる、底抜けに優しい、穏やかな表情だ。


 けれどその笑みに、違和感を覚えてしまう。うーん、なんだろ、この感じ。


「この発見は、今後大いに生かされることとなるでしょう。魔王討伐の件と合わせ、心より感謝いたします」


 そうしてアルモニックは、地面にひざをついた。そのまま深々と、こうべを垂れる。


「その上で、お詫びしなくてはなりません。知らなかったとはいえ、私はあなたを消そうとしました。この失態、つぐないきれるものではありません」


 つぐないきれるものではありません、って……ものすごく嫌な予感がするんだけど。


「きっとあなたは、シェスターから教会の内情について聞いておられるのでしょう。異世界の方々が、このような組織をよく思われないということも存じております」


 それはまあ、そうだけど……この人、話をどこにもっていくつもりだろう。


「ですが、教会は必要なのです。未来の魔王に備え、次の聖女を呼ぶために。どうかここは、私の首一つで収めてはもらえないでしょうか」


 出たー! 首って、首って!! 時代劇とかならともかく、リアルでそれ聞くの、初めてだ!


 とんでもない事態にうろたえていると、すぐ上から、シェスターがふんと鼻で笑う気配がした。続いて、やけに冷ややかな声が聞こえてくる。


「覚悟は決めたか。ならばこいつの手を汚すまでもない。俺が引導を渡してやる」


「シェスター、待ってってば!」


 なんというか、シェスターのほうが悪役っぽくなってしまっている。ちょっぴりあきれつつも、さらにしっかりと彼の右腕にしがみついた。


 にもかかわらず、シェスターの右手がじりじりと動いていき、剣を抜こうとしている。もう、どうにかして止めないと……これならどうだ。


「それっ!」


 掛け声と同時にジャンプして、シェスターの首にしがみつく。そのまま両腕で、しっかりと彼の首を抱え込んだ。私がこうして正面から抱き着いていれば、さすがの彼も暴れられないだろう。下手に剣を抜いたら、私も危なくなるし。


「おい、カレン」


「怒ってるのは分かるけど、私の意見も聞いてよ」


「……聞いてやらなくもない。だが、手短に頼む。長時間はこらえきれない」


 つまり、のんびりしてたらアルモニックをばっさりやってしまうぞ、ということか。責任重大。


「あのね、私もこの人については腹を立ててるし、ペンダントの件とか、色々納得もいかない」


 考え考え、でも大急ぎで言葉を選ぶ。


「ただそれって、聖女を掲げて魔王に立ち向かい、人々を守るためだよね」


 ……ちょっとはしょりすぎた気がする。落ち着け私、ちゃんと説明しないと。


「ほら、長い間聖女にまつわるあれこれを語り継いだり、魔王の出現を予測したりって、ある程度しっかりした組織がないと難しいと思うんだ」


 すぐそばで、ふむ、という小さな声がした。よかった、シェスター、聞いてくれてる。


「で、そういう組織って、どうしても規律とかを厳しくする必要が出てくるよね。秘密がうっかりもれたりしないように」


 シェスターは何も言わない。ただ、その肩から少し力が抜けたような気がした。


「で、あの手この手で決まりを厳しくしているうちに、どんどんやることがえげつなくなっていって」


 エスカレートして、と言いかけて、それでは通じないことに気づく。とっさに言い換えたら、背後で笑いをこらえる声がした。あれは、たぶんメルヴィルさんだ。


「で、ペンダントとか暗殺とか、過激なことになったんだと思うんだ。力で支配する、みたいな?」


「……一理ある、かもしれない」


 シェスターが、ぽつりとつぶやいた。うん、いい感じ。このまま押していこう。


「でもこの人は、『異世界人はみな聖女である』って考えにあっさりたどり着いたんだし……もしかしたら、結構頭が柔らかいのかもしれないって思う」


 アルモニックは、ほんわかした見た目の割に冷徹で、でも『聖女じゃないはずの私が魔王を倒した』っていう事実をあっさりと受け入れて、そして聖女についての仮説をすぐに立ててしまって。


 年寄りは、頭が固いっていう。でも彼は、まだ変われる人なんじゃないかなって、そう思う。その可能性に賭けてみてもいいのかな、とも。


「そういう人に、これからは心を入れ替えて教会を運営してもらったら……もうちょっと、ましな組織になるかもしれないって、そう思うんだ」


 懸命に説得したら、シェスターは考え込むように小さくうなった。


 そっと体を離して彼の顔をのぞき込んだら、なんとも言えない複雑な表情をしていた。私の言うことを理解できるけど、納得はしたくない、そんな表情だ。


「そ、それにね」


 あと一押し、説得材料が必要だ。仕方ない、これを出そう。


「彼の首をいただきますっていう権利は、そのまま私たちが保留しておけば……まためちゃくちゃなことをしたときに、遠慮なく止められるよ」


 するとあちこちで、声が上がった。あきれたような声が少々と、笑い声がそこそこ。そんな中、「結構やるじゃない」とカリンさんがくすくす笑っていた。


 うーん、今のは受け狙いじゃないんだけどな。どっちかというと苦しまぎれだし。


 ただ、ありがたいことに、シェスターには意外とこの言葉が聞いたらしい。


「なるほど、次はない、ということか。……それはいいかもしれないな」


 彼はふっと鼻で笑うと、構えを解いたのだった。彼の手が剣の柄から離れたのを見届けてから、そろそろと彼から離れる。ふう、ずっと全力でしがみついていたから疲れた。


「……そういう訳だから、ひとまず立ってよ」


 アルモニックにそう呼びかけたら、彼はゆったりとした動きで立ち上がり、また軽く頭を下げてきた。


「カレン様。あなたのご慈悲に、感謝いたします」


 ああ、なんとか丸く収まった。ふうと息を吐いていたら、背後からシェスターの低い声がした。


「俺はまだあんたを許していない。カレンはこう言っているが、お前がまた度を越したと判断したら、独断でお前を斬りにいく」


 ……ま、まあ、一応今のところは思いとどまってくれてるみたいだし、問題ない……かな?


「ちなみに、こいつの腕なら剣を鞘に納めたままでも、アルモニックを倒すくらいは余裕だぞ」


 ところが妙に愉快そうな声で、メルヴィルさんがいきなりそんなことを言い出した。ということは、今のこの状況からも一撃で……。


 大あわてで、もう一度シェスターにしがみつく。ふう、これで安心。


「……人前で抱きつくな」


 改めてほっと息を吐いていたら、頭の上から小さな声がした。はっと見上げると、シェスターが困ったように視線をそらしている。


 そうして、ようやく気づく。彼を止めようとするのに必死で、結構恥ずかしいことをしちゃってたことに。


 おそるおそる周囲を見てみたら……わあ、みんなにやにやしてる!


 ぱっと彼から離れて、そのまま彼の背後に逃げ込んだ。


 いつの間にか周囲には、とっても温かな笑い声が満ちていた。

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