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25.ここで、終わらせる

 気がついたら、シェスターの腕の中にいた。というか、私は彼に抱きしめられる形で、そのまま草地に倒れていた。


 何があったのか理解できずにぽかんとしていたら、シェスターが私を助け起こしながら言った。


「怪我はないな、カレン?」


「あ、うん……というか、どうしたの?」


「魔王の破片が飛んできた。とっさのことで、こんな守り方しかできなかったが……」


 ぽかんとしていたら、少し離れたところから声がした。


「こちらも、どうにかこうにか回避できたよ」


「メルヴィル様にかばっていただくなんて……申し訳ありません」


 どうやらメルヴィルさんとトマス君も無事のようだ。ほっとしながら、シェスターに礼を言う。


「ううん、ありがとう。って、魔王の破片!?」


「ああ。魔王の一部がはじけ飛び、破片が散っていった」


「月明かりしかないのに、よく見えたね!? でも悔しいな、いつもどおり砂にしたつもりだったのに……」


 あわてて立ち上がり、魔王に駆け寄って確認する。シェスターが言っていたとおり、魔王は少しだけ欠けていた。……十分の一くらい。さっきまでほぼ真ん丸だったのに、端のほうの形が変わっている。


「……ほんとだ……魔法、効いたよ……」


 こみあげてきた驚きと喜びにそうつぶやいたのと同時に、草地にわっと魔王軍が現れた。しかも、四方八方から。今まで見たこともないくらい、たくさん。というか、魔王軍が多すぎて草地の反対側がよく見えない! うわっ、怖っ!


「わわっ、たくさん出てきました!」


「落ち着いて迎撃するぞ、トマス!」


 草地に伏せていたメルヴィルさんとトマス君が、大急ぎで立ち上がって魔王軍を切り払う。はっと振り返ったら、シェスターもわらわらと集まってくる魔王軍ともう戦っていた。


 そうしてみんなで、ちょっとばたばたしながら魔王軍を退治する。一通り片付け終わって、辺りを見渡す。どうやら、ひとまず落ち着いたようだ。


「ああ、驚いた。でも変だね、さっきの魔王軍は魔王からにゅるっとわいて出てたのに、なんで今度は突然一気に出てきたんだろう?」


 私のそばまでやってきながら、シェスターがため息をつく。


「おそらく、今しがた飛び散った魔王の破片からわき出てきたのだろうな。戦っている間も、地面の同じところから何体かわき続けていた」


 魔王の欠けたところと、さっきわいてきた魔王軍の総数をなんとなく頭の中で比べて……げんなりした。


 ほんのちょっとしか欠けてないのに、魔王軍、わきすぎ。ほんとにゴキブリ並み……。


「……それってつまり、ちまちまと魔王を爆破することはできるけど、そのたびに破片が飛び散って、これでもかってくらいに魔王軍が出てくるってことだよね……」


 最終的に、どれだけの魔王軍を倒すことになるんだろう。とんでもない持久戦になりそうだ。


 今は静かな草地の中央を見つめて身震いしていたら、メルヴィルさんがため息まじりにこたえてくれた。


「魔王の中心には、核となる部分があるらしい。そこを破壊できれば魔王は力を失い、魔王軍も消える……とのことだ」


 腕組みをして、シェスターも魔王を見すえている。


「となると、魔王軍がわくより先に、一気に核を爆破したほうがいいのだろうが……」


「でも、破片の問題はやはり残りますよね……たくさん飛んできたら、僕、よけられる自信がありません……」


 トマス君は腰が引けていた。それも仕方ないだろう、さっきわいた魔王軍は、最初に彼とメルヴィルさんを襲っていたものより多かったから。


 みんなで魔王をにらみつつ、無言で考え込む。すると、シェスターが突然口を開いた。


「やはり、お前の魔法で片付けるのは難しそうだな。それよりも逃げるぞ、カレン」


「えっ、どうして?」


「破片もそうだが、先ほどの一撃でかなり大きな音がした。じきに、神官騎士が偵察にやってきかねん。その前に、この山を離脱する」


「あ、そっか……ついでに聖女がやってきてくれれば、話が早いんだけどなあ。魔王討伐の続きをお願いできるし」


「いや、あの方は来ないだろう」


「僕もそう思います。そもそも、魔王に近づくことすら嫌がっておられましたし……」


 すかさず、メルヴィルさんとトマス君が渋い顔でそう言い切った。……つくづく、聖女ってどんな人なんだろう。


「というか、魔王を倒せるのは聖女だけって聞いた気がするんだけど……その人って、癒しの魔法を使うんだよね? それで、どうやって戦うんだろう」


 ふと浮かんだ疑問に、シェスターがうんざりした様子で答える。


「聖女がお前たちをひたすら癒しながら、集団で魔王に殴りかかるとか、そういった感じだろうな」


「つまりそっちも、持久戦なんだ……」


 神官騎士の人たちの剣が、魔王にどれほど通用するかは分からない。でも私の魔法であれだけしか欠けなかったということは、相当てこずるに違いない。しかも殴っている間も、どんどん魔王軍はわき続けるのだし。


 少しだけ考えて、シェスターに尋ねる。


「……ねえ、まだ神官騎士の人たちは来てない、よね?」


「ああ。下のほうで、魔王軍と戦っている音がする」


「だったら今のうちに、あれ、壊しちゃわない?」


 そろそろとそう切り出したら、三人とも絶句していた。大あわてで、さらに言葉を続ける。


「教会の人に見つかりたくはないけど、たぶん私が頑張ったほうが早く片付くと思うんだ。破片の問題はあるけど、工夫すればなんとかなると思うし」


 そう言い切ったら、シェスターがあきれたように息を吐いた。


「まったく、お前はどこまでお人好しなんだ」


「……でもシェスターも、なんだかんだ言いながら付き合ってくれるよね。ふふっ、よろしく」


「ところで、工夫のあては」


「ない」


「そんなことだろうと思った」


「……返す言葉もないよ……」


「なに、お前が勢いで突っ走るのはこれが初めてではないからな。もう慣れた」


 そうやって話していたら、横合いからおずおずとトマス君が進み出てきた。


「あの……カレンさんの魔法は、どの程度の射程があるのでしょうか?」


 どうしてそんなことが気になるのかな、と思いつつ、素直に答える。


「えっと、相手が見えてれば、だいたいなんとかなるけど」


「でしたら、魔王をそこの崖から落とし、落下中に一気に爆破する……というのはどうでしょうか。これなら、破片も魔王軍もかなり防げますし」


 そう言って彼は、草地の一角を指し示す。私たちが登ってきたのと反対側のそこは、高い崖になっていた。


「あ、確かに」


「それにそうすれば、神官騎士たちの少なくとも一部は、音につられて魔王の落下地点に向かいます。それにより、カレンさんが逃げるのも容易になるのでは……」


「トマス君、頭いい!!」


 とにかく全力で爆破! しか考えていなかった私とは、大違いだ。思わず、満面に笑みが浮かんでしまう。


 思いっきり褒められたからか、トマス君は照れたように視線をそらした。……視界の端にいるシェスターが、ちょっぴりご機嫌ななめな顔をしていたような気もした。




 それから、私たちは大急ぎで準備を整えた。


 シェスターとメルヴィルさんが木の枝で魔王を転がしながら、頑丈な縄でしっかりと縛りあげた。両端に垂らした縄の端っこを握って、魔王の重さを確かめている。


「……これなら、俺たち二人でもなんとかなりそうだな」


「ああ。見た目よりは軽いようだ。不幸中の幸い、か」


 そんなことを言いながら、二人は魔王を引きずって崖のほうに慎重に進んでいく。


 私とトマス君がかたずをのんで見守る中、シェスターとメルヴィルさんは崖のそばに立ち、こちらを振り返った。


「準備できたぞ、カレン」


「君が号令をかけてくれ」


「どうか、うまくいきますように……」


 縄を手に頼もしく笑うシェスターとメルヴィルさん、おろおろした表情で祈っているトマス君。


 三人の顔を順に見回して、大きくうなずいた。


「それじゃあ、お願い!」


 その言葉を合図に、シェスターとメルヴィルさんが大きく腕を振る。縄の先の魔王がぶんと振り回され……空中に躍り出た。


 二人が手を離すと、魔王は放物線を描いて大きく飛び上がっていく。数学と物理の授業をふと思い出しながら、ありったけの気合をこめて、魔法を使った。


 どおおん。


 ひときわ大きな音がとどろき、空高く舞い上がっていた魔王が、細かい破片になって散らばっていく。そうして、破片の雲の中から、輝く玉のようなものが姿を現した。


 きっとあれが、魔王の核だ。あれを砕けば、全部終わる。光る球をにらみつけ、もう一度全力で魔法を使った。


 光る球が、ぶわっと膨れ上がった。その光が、周囲に散っていた破片に燃え移り……。


「打ち上げ、花火だ……」


 夜空に、光る大輪の花が咲いていた。魔王の核は、もうどこにもない。核と破片の名残が、色とりどりの光になって広がり、消えていく。


「きれいですね……」


 トマス君のうっとりしたような声が聞こえる。メルヴィルさんが小さな声で、そうだな、と相槌を打っていた。シェスターがそっと、肩に手を置いてくる。


 夜空に静寂が戻ってきても、私たちはそのまま立ち尽くしていた。

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