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地面に足が付いた感覚を得た後、私は目の前の状況を確認しようと目を開く。
そこには……予想通り、対峙するコレットとオリヴァンの姿があった。
「私の大切な人を……傷つけないで!!」
全身にみなぎる力を、私たちの方へ近づいてくる黒くておぞましい球体へとぶつける。
ぶつかった2つの力は反発し、爆発のような音と衝撃を残したあと、完全に消え去った。
「うわっ!」
そこまでの衝撃を想定していなかった私は、体ごと後ろへ吹っ飛ぶ。
しかし、後ろにいたオリヴァンに受け止められたことで、何とか事なきを得た。
そして数秒後には、爆発で巻き起こった煙も消え、床に伸びているコレットの姿が見えてくる。
「え、大丈夫かしら!?」
私はオリヴァンの身の安全を守りたかっただけで、コレットを殺したかったわけではない。
私が慌てて駆け寄ると、足元から声が聞こえてくる。
「大丈夫ですよご主人。気を失って倒れているだけです」
「そうよ! こんな良くない魔法を使う人なんて、気にする必要はないわ!」
ふと見下ろした足元には、可愛らしい精霊のような小さな生物が3匹……いや、3人と言った方が正しいだろうか?
「……クラリーズ!」
私がその不思議な子たちを見つめていると、急にオリヴァンが勢いよく抱きついてきた。
「僕はずっと、君こそ精霊使いにふさわしいって、思っていたよ!」
助けてくれてありがとう、と言いながら、ぎゅうぎゅうと私を抱きしめてくる彼。
一方の私は、彼の言葉が頭の中でぐるぐるとしていた。
「……私が、精霊使い?」
「そうだ、クラリーズこそ、本物の精霊使いだよ。だって、君の近くにいるのは明らかに精霊だろう?」
「そうよ!」
「なるほど、この人がご主人の恋人さんですか」
「うん、いい人みたいで僕たちも安心」
不思議な生き物がいるなと思っていたけれど、まさか彼らが精霊だなんて……
精霊たちの声は、オリヴァンには聞こえていないようで、「恋人」という言葉に、私だけあたふたとしていた。
「ち、違うの。彼は私の恋人ではなくて……」
だって、彼が好きなのはコレット。
あれ? でも……オリヴァンとコレットは、なぜか対立しているみたいだったし……
「恋人じゃない……? あ、そっか。僕たちは婚約者だからね」
彼は少し離れ、私の独り言に渋い顔をしていたが、その後納得したように頷いて、笑顔になった。
「はぁ、本当はこのままずっとクラリーズと一緒にいたいけれど……色々と後処理が必要みたいだね」
本当に嫌そうな目をして、倒れているコレットの方をみるオリヴァン。
その顔からして、やはり彼はコレットのことが好きではないようだった。
「君も今日は疲れただろう? 東塔の環境は酷かったはずだ……この後のことは僕に任せて、君は空いているゲストルームで休んで」
「えっ、でもオリヴァン様だって、今日は意識を失っていましたし……休んだほうが良いのではないですか?」
彼だって、夕方にコレットとあの場所にいたということは、おそらく朝から活動していたのだろう。
それに意識を失っていたのに、また今から活動するのは、体力的に限界が来るはずだ。
「……ここは、僕のことを頼って欲しい。好きな人の前ではいい恰好をしたいんだ……ダメかな?」
ゲームでも今世でも見たことがない、彼の上目遣い。
そんな顔もできるんだ……と考えると、自分の顔が赤くなっていることに気が付く。
ダメダメ、これも彼の演技なんだから、流されちゃいけない。
しかし、そう考えても、私の平常心は帰ってこなかった。
「そ、それなら……お任せしてもいいですか? あと、その代わり一段落したらきちんと休んでくださいね」
「任せておいて!」
そう言って、彼はコレットを拘束した後、部下を呼んで彼女をどこかへ運ばせる。
その一連の様子を眺めていると、私は急に彼に横抱きにされた。
「ひゃっ!」
「……軽くてやわらかい」
「な、なんて?」
「いや、何でもない……」
なんだかおかしな言葉が聞こえた気もしたけれど、きっと気のせいだろう。
じゃないと私は勘違いしてしまう。
いや、勘違いなのか?
だってオリヴァンがコレットのことが好きではない、となれば……
私が本命ってこと……?
「ははっ、百面相みたい。あんまり色々と考え込みすぎないようにね」
部屋に着いた私は、オリヴァンの手でベッドにおろされる。
後をついてきていた精霊たちも、
「用事があったら僕たちを呼んでね!」
と言って消えてしまった。
この部屋には私たち2人だけ。
彼の熱っぽい視線が、私の視線と交わる。
一瞬息が詰まるかのような雰囲気が流れたが、彼が私の頭を撫でたことで、いつもの雰囲気に戻った。
「おやすみ、クラリーズ」
彼がそっと唇にキスをするものだから、彼が出ていった後も、私はなかなか眠りにつくことができなかった。
「危ない……ダメだよ、僕らはまだ学生だし……いや、でも彼女と合意の上なら……いやいや、あぁ、可愛かったな……よし、この後の処理、頑張ろう」
彼が扉の外で、小声で何か呟いているのが聞こえたような気がした。
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今週末に完結予定となります。




