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クラリーズの足元には及ばないが、可愛らしい顔立ち。

しかしその目に光はなく、彼女の言うことに従わなければ、何をしでかすかわからない……そんな表情をしていた。


その腕のどこからそんな力が湧いてくるのか?

コレット嬢は僕の手首をきつく掴み、そのまま近くのゲストルームへと、わが物顔で僕を連行する。


「体調は大丈夫ですか? 精霊使いとして治療はしたものの、あなたに何かあったらと考えると、私は不安で不安で……!」


彼女はソファに座り、僕もその横に腰掛ける。


「心配ありがとう。もう何も問題ないよ、君のおかげだね」


僕の今の任務は、家族が帰ってくるまで、彼女の機嫌を損ねずに時間を稼ぐことだ。

でも、これは僕の得意分野。

きっと乗り切ってみせる。


「本当に良かった……! それでも私、クラリーズ様のことを許せそうにありません。今は東塔に閉じ込めていますが、それだけじゃ足りません! もっと重い罰を与えなくては!!」


「……そうだね。僕も、君のことを泣かせる彼女には辟易していたんだ。いい機会かもしれない……でも、今日はもう遅いから、詳しいことはまた明日話さないかい?」


「それじゃあ遅いです! 彼女は極悪人なんですよ? 今すぐにでも何かすべきです」


さすがの僕も、すこし自分の笑顔が硬くなるのがわかる。

何が極悪人だ。

誰よりも努力して、誰よりもお人よしで、誰よりも優しいクラリーズは、そんな言葉とは対極に位置する、女神のような人なのに。


「あっ、いいことを思いつきました! クラリーズ様って、オリヴァン様のことが好きですよね? はっ、悪役令嬢のくせにほんと身の程知らず……いえ、なんでもありません! ……その、彼女には死刑がふさわしいと思うのですが、それをオリヴァン様の手で実行するのはどうでしょうか?」


「……え?」


あまりにもむごい提案に、僕は思わず聞き返してしまう。


「だから! オリヴァン様がクラリーズ様を殺してください。そうですね、善は急げで今から行きましょうか。刑の執行に関する手続きは……うーん、私は精霊使いだし、後からどうにでもなりますよね」


「……」


恐ろしさと怒り。

目の前の人を殴り倒したい衝動にかられるも、なんとかその感情は抑え込む。

しかし、無言の間をおかしいと思ったのか、コレット嬢は声を1トーン下げ、僕の方へ顔を近づけて囁いた。


「できないんですか?」


「……」


「私が本命なら……私のことを本当に愛してくれているのなら、それくらいできますよね? オリヴァン様はクラリーズ様が偽物の精霊使いだと知っていたけれど、調査をするために、ずっと彼女との婚約関係を続けてきた。でも、本当は私のことが好き。そうですよね?」


「あぁ、勿論。でも……君の提案は少し性急すぎ


僕はなんとか彼女の暴走を止めようとするものの、話を最後まで聞いてもらえない。


「そうですよね! だって私はヒロインだもの、ちゃんとルート攻略もしたし、オリヴァン様が私に夢中なのは当たり前のことだわ。なのに、あんな可愛くもなんともないクラリーズ様のことを、オリヴァン様が好いているわけないですよね」


クラリーズを見下す発言と、楽しそうに笑う声。

吐き気がする。

何故僕は、こんな彼女に合わせなくてはならないのだろうか?


僕が本当に好きなのは、クラリーズだ。


「それにしても、クラリーズ様ったら、オリヴァン様の態度を本気にしちゃって、本当にバカですね……精霊使いだと嘘をついて、今まで皆にちやほやされてきたから、きっと思いあがってしまったんだわ。かわいそうに」


かわいそうに、なんて全く思っていない言動。


クラリーズをひたすらバカにし続けるその態度に、人生で初めて、僕は自分で自分の言葉をコントロールできなくなった。





「かわいそうなのは君だよ、コレット嬢」





「……はい?」


壊れた人形のように、ギギギと音を立てそうな様子で、こちらを振り返る。

彼女の底なしの瞳を見た瞬間、僕は自分で自分の感情をコントロールできなかったことを、酷く後悔した。


「……やっぱり。やっぱり!! おかしいと思っていたんですよ! 原作と違って、私よりずっとクラリーズ様にべったりで! 今日だって、私ではなくて、クラリーズ様のことをかばったのでしょう?」


きっと心の奥底では、ずっと僕のことを疑っていたのだろう。

彼女はそのまま話し続ける。


「あなたがクラリーズ様のことを殺せたら、私のことが本当に好きだと、信じようと思っていたのに……やっぱりできないんですね」


コレット嬢はそこで一旦言葉を切り、なぜかにっこりと笑った。

その表情に、僕はただならぬ何かを感じ、思わず身構える。


「実は私、精霊使いじゃないんです……あぁ、知っていますよね? オリヴァン様は裏表のある方ですから、本命以外の方のことなんて何も思っていない……ただの調査対象ですもの。もしかして、私が黒魔術に頼っていることも知っていたりして。まぁそれもどうでもいいです。私は今からディナルド様ルートに入ることにします。1番の推しはオリヴァン様でしたが、こうなってしまってはしょうがないですからね」


突然の兄さんの名前。

ルートとは何だろうか?

しかし、そんなことを考えている余裕はないくらい、彼女は暴走していた。


「ということで、私のことを愛してくれないオリヴァン様に、用はありません。私が精霊使いではないことも、黒魔術を使っていることもばらされたくないし……じゃあ」


彼女は片手に黒くて禍々しいものを集中させ、そのまま僕の方へ投げつけてくる。


「さようなら、オリヴァン様」


僕も魔法は上手い方ではあるけれど、黒魔術を使いこなす、今の彼女に勝てるわけがない。


……最期に、1度でいいからクラリーズを抱きしめておきたかったな。

抱きしめるだけじゃ足りないかも。

彼女に好きだと言ってもらって、キスをして笑いあいたい。






「私の大切な人を……傷つけないで!!」


走馬灯だろうか?

そんなクラリーズの声が頭の中に響いた気がした。

面白いと感じて頂けたら、いいね・ブックマーク・評価等よろしくお願いします!

次の金曜日の夜あたりに完結予定です。

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