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「……!」
見慣れた自室の天井。
しばらく朦朧としていたが、だんだんと頭が働いてくる。
窓を見れば、どうやら今は夜らしい。
仕事のせいで多少睡眠リズムが崩れることはあるものの、起きたら夜、なんてことは今までに1度もない。
……僕は、何をしていたんだ?
とりあえず肌寒かったので、部屋に置いてあるマントを肩にかける。
そして、混濁する記憶をどうにか整理するために、とりあえず自室のドアを開け、外へ出てみる。
「オリヴァン様! お目覚めになったのですね!」
使用人の言うところによれば、僕は気を失って街から帰ってきた後、数時間眠っていたらしい。
「あ、そういえば、コレット様が別室でオリヴァン様のことをお待ちしております。今日のこと、そして今後のことについてお話がしたいとおっしゃっていました」
コレット……?
そうだ、コレット嬢!
その瞬間、僕は今日の出来事を全て思い出す。
今日の昼、僕は隣国付近の街にあるコレット嬢の実家に行って……彼女が黒魔術使いである証拠を掴むことに成功した。
ただ……その帰り、想定外の事態が発生する。
僕とコレット嬢は、偶然クラリーズとミリエット嬢に遭遇し、その後……僕は突如現れた魔物から、クラリーズを守るために傷を負った。
ところが、その後一瞬意識が戻った時には、なぜかコレット嬢が、精霊使いの証であるネックレスをつけており、その周りには精霊がいたのだ。
つまり、コレット嬢が精霊使いとして覚醒したということ。
ただ、彼女が黒魔術を使っているという確かな証拠……彼女と黒魔術を扱う集団との手紙……を僕は持っている。
だから、そんな彼女が精霊使いとして覚醒するなんておかしいのは、僕が一番よくわかっていた。
「……僕の婚約者は?」
ぼんやりとした意識のなか、クラリーズが騎士団に連行されていく悪夢のような様子が見えたような気がしたので、目の前の使用人に質問する。
「精霊使いを騙った罪で、今は東塔の地下に捕まっています」
僕は思わず息をのみ、言葉を失う。
東塔の地下といえば、極悪犯罪人を監視するための空間で、一切日の光が入らず、魔法も使えないようにされている場所だ。
そんなところに、今クラリーズは1人で……
恐ろしくて寒気がする。
早く彼女を助け出さなければ。
精霊使いかどうかなんて関係ない。
彼女は僕の愛する人だから。
「ちなみに、誰が彼女を東塔に?」
父上や母上、そして兄さんも、そんな極端な判断を、すぐに下すとは思えない。
「現精霊使いのコレット様です。今日は国王様も王妃様も、そしてディナルド様もあいにく外出中でしたので、今回の一連の事件については、精霊使いであられるコレット様の指示に従っております」
その言葉を聞きながら、僕は寝起きの頭で、今後の身の振り方について考える。
とりあえず3人が帰ってくれば、僕はこのズボンのポケットに入っている手紙を、コレット嬢が黒魔術使いであり、精霊使いではない証拠として提出することができる。
無事にコレット嬢を処罰できれば、クラリーズも解放されるはず。
クラリーズもまた、偽物の精霊使いではあるけれど、コレット嬢が偽物だということが証明されれば、きっとクラリーズが本物だと皆信じるだろう。
……だからここは、コレット嬢には接触せず、身内が帰ってくるまで待っているのが正解だ。
そう思って、もう少し休むと使用人に声をかけようとしたが、廊下の奥から憎い相手の声がした。
「オリヴァン様! お目覚めになったのですね! お話したいことがあるので、こちらへ来ていただけますか?」
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